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がん医療を拓く⑯ 血液で早期がん発見可能に?


がんの分身を光らせる

 落谷分野長らが検出の対象にしたのは、「エクソソーム」です。

 エクソソームについては、2013年6月号でも、ご紹介しました。ざっとおさらいすると、あらゆる細胞から血中に放出される直径100nm(ナノ=10億分の1)程度の球で、中に遺伝や免疫に関する情報を含む、いわば「細胞の分身」でした。

 がん細胞からも放出され、血流などの体液に乗って遠くの細胞にも運ばれます。運ばれた先々で、がんが免疫細胞から逃れて成長しやすい体内環境を作り出していると考えられています。その意味で、がん細胞しか出さないようなエクソソームもあると考えられ、それを血液中に見つけて、がんの診断を行おうというわけです。

 ただし、血液中には何百万もの細胞外小胞と総称される粒子が混在していて、これまでは、どれがエクソソームか判別することさえ容易ではありませんでした。そこから、さらにがんに特徴的なものを見分けるのは、手間も時間も費用もかかり過ぎます。

2種の抗体を活用

 そこで今回、落谷分野長らは、大腸がんに特徴的なエクソソームだけを見分ける方法を開発しました。

 使用するのは、それぞれ別の機能を付加した2種類の抗体です。

 一つは、血中の多くの粒子の中からエクソソームを見分けるための抗体で、多くのエクソソームの膜上に存在するCD9という抗原と結合します。

 もう一つは、大腸がんの細胞に特異的で、そのエクソソーム膜上にも出ているのでないかと想定されたCD147という抗原に結合する抗体です。

 大腸がんから放出されたエクソソームがCD147を膜上に備えているなら、同一のエクソソーム上に両方の抗体が結合することになります。そして両方が同一のエクソソーム上に結合していることを可視化する仕組みも設けました。

 CD9抗体にアクセプタービーズという粒、CD147抗体にドナービーズという粒を取り付けておきます。ドナービーズに一定の波長の光を当てると活性酸素の一種が発生し、この活性酸素が届いたアクセプタービーズは発光するので、その光を検出するのです。
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 ポイントは、ドナービーズから発生した活性酸素が到達できるのは200nm以内であること。2種類の抗体が200nm以内に近接した場合のみ、つまり同じエクソソーム上に二つの抗体が結合している場合のみ、発光が観測されることになります。二つの抗体が別々の粒子に取り付いても、活性酸素は届かず発光しません。

他のがんにも

 この検査法は、他の種類のがんでも、エクソソーム上に出ている特異的な抗原を見つけさえすれば応用可能です。また、エクソソームは血液以外にも、尿や唾液など様々な体液に含まれます。

 既に、膀胱がんの患者の尿から、膀胱がんマーカーが見つかっており、従来の尿検査と一緒に膀胱がん検査もできるようになるかもしれません。

 落谷分野長は、「健康診断の一項目として、がんを調べられるようにしたいですし、将来的には、家庭のトイレに検出システムを装備するなどして、家にいながら診断を受けられるシステムにするのが理想です」と語ります。

 そして実は落谷分野長、今年度から5年計画で始まった、エクソソーム中のマイクロRNAを検出し、がんや認知症の早期診断に役立てるという大型プロジェクトのリーダーも務めています。

 エクソソームと落谷チームから、しばらく目を離せなさそうです。

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