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ハム・ソーセージ・ベーコン類~リン酸探検隊⑥

 加工食品のリン酸塩使用状況を調査する企画、今回はハム・ソーセージ・ベーコン類です。まずは大手3社(売上順に日本ハム、伊藤ハム、丸大食品)の広報部署に問い合わせました。

文・堀米香奈子 本誌専任編集委員。米ミシガン大学大学院環境学修士
ゼロ回答

 同3社のハム・ソーセージ・ベーコン類のほとんど全商品にリン酸ナトリウム(Na)やリン酸カリウム(K)が使用されていることは、ラベルの原材料名を見れば明らかです。

 使用目的を尋ねたところ、共通して「保水性・結着性の向上」を挙げました。加熱した肉は水分が流れ出てパサついた食感になりますが、リン酸塩は、肉の水分を保ち、弾力ある食感を可能にする働きがあるとのことです。

 しかしながら使用量については、日本ハムは「社外秘」、伊藤ハムも「企業秘密」、丸大食品も「社外秘」と、一様にゼロ回答でした。同じく、リン酸Naとリン酸Kの効果の違いや使い分けについても、各社とも「商品開発と関係」等の理由から、非公表でした。

 そこで、文科省の食品成分データベースを確認。小分けになった1パック4枚入りのロースハムだと、1枚が9~10gで、リンを31~34mg含む計算です。同じく1パック4~6本入りのウィンナーソーセージでは、1本あたりのリンは33~42mg。スライスベーコンは、1枚16~17gで、リンを37~39mg含むと見られます。

 1日3食のリン摂取を500mg以下に抑える場合、単純に3等分すれば1食あたり約166mg以下とする計算です。ロースハムは小分け1パックなら何とか許容範囲。ウィンナーソーセージ1パックは食べ過ぎになる可能性が高いです。ベーコンは、小分けのハーフサイズ4枚入り1パック(通常スライス2枚分)なら、リンについては差し支えない量と言えそうです。

タンパク源としては?

 ただし視点を変えて、厚労省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に示されたタンパク質の「推定平均必要量」(1日量は成人男性50g、成人女性40g)を満たすべく、1食でタンパク質を13~17g摂取しようとするなら、ハムやベーコンも注意が必要です。

 ロースハム小分け1パックに含まれるタンパク質は約5~6g、ベーコン小分けパックには約4~5gと、足りていないからです。必要量のタンパク質に見合うだけのハムやベーコンを食べれば、確実にリン過剰になります(おそらく脂質や塩分なども)。

 他方、例えばロースハムではなく、茹でた豚ロース肉なら、65gで充分なタンパク質(15.5g)を摂取でき、リンは91㎎に抑えられます。

不使用製品も

 ハムやソーセージ類は、欧州などで古くから作られてきた食べ物なのに、リン酸塩を添加しないと美味しく作れないのでしょうか。

 そう思って探すと、国内でも、リン酸不使用の製造・販売されており、そのうち2社に話を聞きました。

 信州ハムでは、1973年に発色剤・着色料・保存料・リン酸塩を使用しない「グリーンマーク」シリーズを開発。きっかけは「当時、食品添加物が社会問題」になり、「消費者団体より、添加物を使用しないハム・ソーセージの開発依頼があったこと」でした。

 リン酸不使用のため、食感は「生肉を加熱した状態に近」く、当初は「出来上がりがパサパサ」でした。肉などの原料や製造まで試行錯誤の末、ようやく現在の商品に。

 ただ「賞味期限は一般的な他の製品と比較して短く」、また「結着性が悪く、身割れなどで省く不良率も高く、全体として2割程度高価格」。発色剤・着色料不使用なので色も悪く、そのため当初は消費者に不評でした。それでも「食の安全性」へのこだわりを貫き、現在は多くの支持を得ているとのことです。

 伊賀の里モクモク手づくりファームでは、1988年のハム工房創業と同時にリン酸塩無添加の商品を生産開始。「無21」シリーズとして現在に至ります。やはり「食感の弾力が苦労点」で、「噛むとブニョブニョ、ネチャッ、口の中でパサパサ」でした。「肉の温度が下がらないうちに」「高速で練り、手のひらで具合を決める」など、独自の技術改良を重ね、「熟成した豚肉が持つ結着力だけで、プリッとした食感」を実現。

 同社製品は添加商品でも賞味期限は20日と短めですが、無添加だと「塩分がほんの少し高い」そうです。

減塩の代償

 実は、一般的なハム・ソーセージ類にリン酸塩が使われるようになった理由は、この「塩分」の問題。ざっと製造方法を見ておきましょう。

 ハムは、豚肉を整形し、食塩や香辛料を加えて低温で漬け込み、その後、牛の腸や人工的に作られた膜に充填し、スモークハムであれば燻煙し、最後に茹でる(または蒸す)、というのが、古来からの基本的な作り方。ソーセージなら、挽肉に背脂を混ぜたものを使い、整形工程なしで、あとはハムとほぼ同様です。ベーコンもハムと製造方法は似ていますが、バラ肉などを使い、充填と茹でる工程はなく、必ず燻煙して作ります。

 当然、リン酸塩は出てきません。今日リン酸塩に頼っている結着剤の役割は、昔ながらの製法では、食塩が担っていました。食感維持に食塩を多く必要としたため、かつては非常に塩辛いハムやソーセージも出回っていたようです。
 伊賀の里モクモク手作りファームのホームページでも、一般的にリン酸塩が使われ出した背景として、昭和30年以降、食生活の欧米化でハム・ソーセージの消費が高まる一方、減塩志向も強まったことを挙げています。減塩を達成しながら食感を保つための、安価で便利な救世主が、リン酸塩だったというわけです。

 リン酸塩を使わず、なおかつ塩辛くないハム・ソーセージ類を作るには、屠殺後すぐ、まだ温かい豚肉を使用する必要があります。生産の管理が非常に大変で、コストもかさむので、製品の価格に跳ね返ってきても致し方ありません。

 これに対し、通常のハム・ソーセージ類では、材料の漬け込みの際に、発色剤や保存料、着色料、そしてリン酸塩などを一緒に入れます。材料は冷凍の豚肉でも構わないのでコストも抑えられ、食塩をぎりぎりまで減らせます。

 塩辛くないハム・ソーセージ類を手軽に食べられるのは、リン酸塩のおかげ。過剰摂取にならないよう、上手に献立に取り入れたいですね。

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