現場から~シンポ(私の分)

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年11月20日 18:08

10日の現場からの医療改革推進協議会で
私がしゃべらせてもらったこと
文字起こしができあがってきたので載せます。
セッションタイトルは『医療とメディア』。
結構、刺激的な中身と思います。


医療を語る上で、医療政策というものもしっかり扱わないといけないと思います。その医療政策とメディアの関係を考える上で、少し参考にならないかなということをお話しいたします。


本日のお話は『厚生労働省検討会傍聴記』というタイトルです。ここでいう厚生労働省検討会とは何か。死因究明検討会と言っておりますけれども、医療者や法律家をはじめ非常に雑多な有識者の方を委員に入れてやっています。これまでに半年間で9回開催していまして、8月に中間取りまとめをしております。


この検討会、一体何のためにやっているのかというと、検討会が設置される前に新聞各紙で報道されています。例えば、朝日新聞。「医療行為中の死亡事故について、厚生労働省は今春警察以外の専門機関が原因を究明する制度の創設に向けて本格的に検討を始める。『事故調査委員会』の医療版を想定し、制度のあり方を議論する検討会を立ち上げる」と。これが2月26日付で朝日新聞の特ダネと思われ、毎読より2週間程早く報じています。読売新聞、毎日新聞は実際に立ち上がるという3月8日9日のタイミングで書いてまして、遅れた分だけ記事が詳しくなっています。読売新聞の場合、「2010年度の新制度開始を目指す」と書いてあります。毎日新聞には「新法の制定や関連法の改正をしたい」と書いてあります。


まとめると、2010年度に医療事故調を設置するために、法律を制定するか法律の改正をするための検討会であると報じられているわけです。


このような記事は頻繁に出ています。皆さんも毎日のようにご覧になっていると思います。でも、よく考えてみると、おかしいです。法律の改正とか法律の制定は国会の職務のはずです。なぜ規定方針のように報じるのかという問題があります。


あまりカマトトぶっても仕方ないですね。実際には、審議会や検討会はお役所がアリバイ作りのために設置するもので、これは皆様もよくご存じのことだと思います。しっかり機能するのであれば、別にとやかく言う必要はありません。


ただし、事故調の問題については、昨年のシンポジウムでも議論が行われていたと思います。医療紛争解決のために、何が必要なのかと。その時に出てきたのは、原因究明も必要なのだけれども、それと同時に、患者さんと医療従事者との間を取り持つ関係性の構築のメディエーション、裁判外紛争処理仕組みのADR、誰も悪くなくても被害が生じてしまうということがあるのであれば、補償制度も何とかしなければいけないじゃないかとか、様々な提言がありました。様々なピースが必要で、全体として機能するはずのものであるにも関わらず、なぜ突出して事故調の話だけが出てくるのか、非常に違和感があります。


上先生をはじめとするワーキングループの皆さんもおかしいじゃないかと感じたようで、昨年のWG案をもう少しブラッシュアップした対案を携えて、厚生労働省記者クラブへ記者発表に行きました。これは医療者としては画期的なことで、今までそんなことをする医療者は一人もいなかったんじゃないかと思います。


でも記者クラブからは、ほぼ黙殺されました。こんなことを言うと上先生に叱られるかもしれませんが、私は、持っていく前から多分取り上げてもらえないだろうと思っていました。なぜなら、在野から霞が関に対案が出てきたというようなことを伝える記事の枠組みを、既存のメディアは持っていないからです。


ただし、枠組みを持っていないからと言ってそのままほっといて良いのかという問題はあります。医療事故調だけが突出してできた時には大変なことが起きる、とWGの先生方に言われました。ほっとくとアリバイだけ出来てしまう。それでは、検討会を単なるアリバイ作りに終わらせない方法はないか、ということで傍聴に行ってみたのです。


行ってみて、びっくりしました。本当に皆さんが勝手なことを喋っています。各委員が、どういうことを喋ったかは、ロハス・メディカルブログとかMRICのメールマガジンでご覧いただいている方もいると思いますが、本当にただ集まっているというだけで、好き勝手なことを喋っているのです。こんな検討会あるのかという位びっくりしまして、その驚きを皆さんにお知らせしました。自分で言うのも何ですが、これで世の中にも議論の過程はある程度出たし、さすがにアリバイにならないだろうと思ったわけです。


ところが、8月10日に共同通信ですけれども、こんな記事が出ます。「医療事故の原因について中立的な立場で究明する新たな組織創設を目指している厚生労働省の検討会が10日開かれ、患者の死亡事例を対象に新組織への届け出を医療機関側に義務付けることで委員の意見が一致した」。


これはウソです。実際の検討会では、義務付けのところ非常に異論が出ていまして、中間とりまとめも、ちゃんと両論併記になっています。それにも関わらず、共同通信が一致したと報じてしまうのです。なおかつ恐ろしいことに、記事が出た後に厚生労働省の第二次試案が出てくるのですが、試案では両論併記が無くなって、義務付け一本になっちゃったのです。


つまり、厚生労働省がやりたいことをアリバイ付けのために議論させているのですが、議論させているだけじゃなくて、その中で何を話そうが、勝手に厚生労働省が方針を立てて、さらにメディアがその通りに報じてしまいます。すごいことだなと思いました。メディアも共犯ということですよね。


となると、きっと他の審議会、検討会でも同じ事をしているに違いないと連想が働きます。厚生労働省の政策の本丸と言ったら、社会保障審議会かあるいは中医協だと思うのですが、お金にまつわることを扱っていて、特に今年は診療報酬の改定作業をやっておりますので、中医協がきっと面白いに違いないと考えて傍聴に行ったのです。きっと色々な面白い話が出て来るに違いないと思って、ひょっとすると、これを書いているだけで飯が食えるんじゃないかとすら思いました。


しかし、これは考えが甘かったです。なぜなら、中医協は議論する場ではなくて、厚生労働省がこうしますと方針を出し、適当に意見を出させては「承認」を繰り返していました。あなた方聞いてないとは言わせないよ、ちゃんと出したからねという場だったのです。


そして、そのことに対して、傍聴に行っている人達が特に疑問を感じていないようなのです。むしろ、少しでも早くその情報に接して、ラッキーだったというように思っているようです。そうなると、メディアとしては厚生労働省の方針をそのまま書いておけば、間違えようがありません。つまり、死因究明検討会で共同通信がやったことは、普段の検討会・審議会でやっていることを、そのままやったに過ぎなかったということなのです。


結論に入ります。メディアは一体誰のためにあるのかという根源的な疑問に立ち至らざるを得ないのですが、インナーと言いますか、検討会・審議会に出て来ている人達のために、メディアがあるのだとするならば、今のメディアのやっていることは非常に正しいあり方だと思います。しかし、そうではない人達のために存在するのだとすると、凄まじい背信行為を行っています。そのことをもっと外側にいる人達は怒らないといけないと思います。


これはあくまでも私の勝手な意見なので、その辺について後程、議論させて頂ければと思います。どうもご静聴ありがとうございました。

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