小松秀樹先生より2

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年11月22日 20:48

また小松秀樹先生から檄文が届きました。
謹んで掲載させていただきます。


                                2007年11月22日
「第二次試案」から行動へ
                              虎の門病院 泌尿器科
                                    小松秀樹

 厚労省は07年10月17日に、「診療行為に関連した死亡究明等の在り方に関する試案」いわゆる「第二次試案」を発表した。内容は、検討会の座長で刑法学者前田雅英氏の「法的責任追及に活用」という主張に沿ったものだった。私はかねてより、患者と医療側の軋轢を小さくして、医療制度を崩壊から守ることに目的をおくべきだと訴えてきた。第二次試案の考え方をもとに法律が作られると、日本の医療が混迷に陥ると危惧した。そこで、10月25日、日経メディカルオンライン・MRIC上に「医療の内部に司法を持ち込むことのリスク」(http://mric.tanaka.md/2007/10/27/_vol_45.html#more)と題する文章を発表し、この問題を読み解く考え方を提示した。一気に問題を解決するために多くのことをやろうとすると、弊害が生じたときに取り返しがつかなくなる。死因究明制度の議論だけを行い、当面、医師法21条や、業務上過失致死傷はそのままにしておけばよい。問題があれば、みんなで抗議すればよい。福島県立大野病院産婦人科医逮捕事件を契機に警察・検察も考え方を変えつつある。多段階で、関係者の認識の変化を確認しつつ、時間をかけて解決していくしかない。十数年の歳月をかけるに値する重要な問題である。


 その後、事態は急速に動いた。11月1日自民党の医事紛争処理の在り方検討会が開かれ、この席で、日本医師会、診療行為に関連した死因の調査分析モデル事業運営委員会の三者が第二次試案に賛成した。いずれも、事前に、第二次試案に賛成することを機関決定していた。時間的にみて、医師会・学会の会員に意見を広く聴取することなく、幹部だけで決定したものと推測された。意見を述べたのはこの三者だけだったので、参加した自民党の国会議員は、ほとんどの医師がこの案に賛成していると理解されることになり、座長である大村秀章議員(http://www.ohmura.ne.jp/index.html)は厚労省に任せる旨を表明した。さらにその翌日、日本内科学会と日本外科学会が、連名で第二次試案を高く評価するとの意見書を発表した。このように、来年の通常国会での法案提出に向けて、関係各所の意見を集約するための演出が着々と進んでいるように見えた。実際、知人の自民党議員に厚労省は第二次試案について医療界は全面的に賛成していると説明していた。


どう考えても上手な演出ではない。私はこれをチャンスと見た。医療に関する根源的な議論を、社会に見える形で展開できるきっかけになるかもしれない。従来、私は、現在の医療危機が、死生観、人が共生するための思想、規範としての法律の意義と限界、経済活動としての医療の位置づけ、民主主義の限界の問題など、社会を支配している基本的な思想の形骸化、単純化、劣化と、それに伴う考え方の分裂、齟齬に起因していると考えてきた。徹底した議論の過程がなければ、制度の議論も成立しないし、無理に制度を作ってもうまく機能しないと主張してきた。


私は、医療についての根源的な議論を喚起するために、第二次試案に賛成した日本医師会との対立を明確化することを決意した。話がそれるが、これにはもう一つ大きな目的がある。かねてより多くの仲間たちと考えてきた勤務医の団体の創設である。従来、最も厳しい医療を担ってきたのは勤務医だったが、代弁する組織がなかった。第二次試案についても、勤務医の団体があれば、ここまで事態は危機的にならなかったはずである。今回の日本医師会、病院団体、学会の安易な対応は、勤務医を立ち上がらせることになると確信した。勤務医は、指導的立場の医師たちが、苛酷な現場の状況を理解していないことを痛感するに違いない。


話を戻す。ここでは触れないが、私は、第二次試案の最大の問題点は第1ページの理念部分にあると思っている。届出の義務化、委員会の構成、報告書の扱いなどの具体的部分は、理念から派生した付随的な問題にすぎない。第二次試案は、大きな議論のきっかけになりうる。私と同じような意見を持つ数名のキーパーソンに相談し、同意を得た上で、11月17日、第107回九州医師会医学会の特別講演で、第二次試案に反対を表明し、「日本医師会の大罪」(http://mric.tanaka.md/2007/11/17/_vol_54.html#more)と題する文章を配布した。


予想通り、医療界に大きな波紋が広がり、いくつかのメディアで取り上げられた。また、日本医師会の中でも第二次試案に公然と反対する人たちが現れて、執行部を批判し始めた。私立医科大学協会の「医学振興」第65号で、獨協医科大学学長の寺野彰氏が第二次試案についての危惧を表明した。全国医学部長・病院長会議の一部メンバーも動き始めた。厚労省第二次試案に対するパブリックコメントが公表され、福岡県医師会を初めとした多くの医療関係者・団体がこの案に反対していることが明らかとなった。これは、検討会の委員が所属する日本医師会や学会のコメントとは対照的であった。


11月20日、日本医師会から私に会談の申し入れがあった。説明不足があったので、担当理事が説明したいとのことだった。社会に見えるところでの議論は大歓迎なので、口頭での説明ではなく、文書にして公表するよう求めた。


本日(11月22日)、厚労省の担当者が訪ねてきた。私は、今回の第二次試案の騒動をきっかけに、原点に戻って、総論部分の議論をしましょうと提案した。厚労省の担当者たちの善意と熱意をいささかも疑うものではないが、権力はチェックを怠ると何をし始めるかわからない危ういものであることも間違いない。今回の騒動でこの思いをさらに強くした。


 結論である。現場の医師はこの問題について、意見を表明しなければならない。指導的立場の医師の行動をチェックしなければならない。従来と異なり、我々はインターネットを使える。簡単に多数の人たちと通信できる。多くの若い医師がネットを利用して、横断的な組織を作りつつある。日本の医療の根幹部分を勤務医が支えていることは間違いない。いつまでも弱者と思わずに、自信を持って行動して欲しい。流れは我々にある。

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コメント

 小松氏の危機感は、一開業医でしかない私にも痛いほど理解できる。第二次試案がそのまま実施されれば、萎縮医療が更に進行するのは疑いの余地が無い。驚きなのは、日本医師会がこの案に賛成したということで、医師会員である私も全く知らなかった。医師会が医師の利益の代弁者である時代は既に終わっているとは思う。その証左として、医師会への加入率は低下し続けている。
 しかし、一方で小松氏の論中に違和感を覚えるのは、勤務医と開業医の対比である。勤務医の先生方のご苦労は無論理解しているつもりである。しかし全ての勤務医が激務で全ての開業医は安穏としているかのような論は極論である。氏は敢えて議論を分かりやすくするためにそのような議論を展開しているのかもしれないが、産科開業医は当然この試案に重大な影響を受けると思われる。また、我々のような在宅医療の担い手は終末期医療を行うことが多いが、死という微妙な着地点を探るという意味で、その「落とし所」を誤ればトラブルケースになりうるという危険も孕んでいる。
 小松氏の文中には、日本内科学会、日本外科学会も「連名で第二次試案を高く評価するとの意見書を発表した」とある。この二つの組織は、寧ろ勤務医が主体の組織ではないか。問題なのは日本医師会も含むこれら大組織の運営・意思決定過程であって、殊更勤務医と開業医を対比させることに強い違和を感じた次第である。

>在宅医@横浜先生
ありがとうございます。
ご趣旨まことにごもっともと存じます。
小松先生にお伝えいたします。
恐らく未だ方法論を模索中と思われ
いくらでも改善の余地はあるはずです。

本日、医療の質・安全学会第2回学術集会での午後のシンポジウムで、シンポジストしての小松先生のお話を伺いました。ほぼ同じ内容を、いつものように少し早口で講演されました。
勤務医医師会の創設を力強く提案されていましたが、午前中の学会主催の鼎談で、国立がんセンター院長の土屋氏、国際聖路加病院院長福井 次矢氏も、勤務医医師会の必要性を強調されていました。
 開業医と勤務医との違いを強調することは望ましくないとの意見もあるようですが、患者利用者の視点から医療を見積もるようにすれば、勤務医=専門医、開業医=家庭医(総合医?)という見方が大勢です。
 厚生労働省がいう医師数26万5千人の内、勤務医16万人ですから、勤務医の意見を反映できる職能団体が必要だと思います。
 各地の勤務医の中で、まだネット上での連絡網にすぎませんが、思いは一つになりつつあると、感じました。本日の学会参加での感想でした。

勤務医が、もっと自分の意見を主張した方が良い、って事には賛成。
そのために、勤務医の団体を作るのも賛成です。

ただ、勤務医は日本医師会を脱退しろ、とか開業医と対立、敵対しろ、って事であれば、私は反対ですね。

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