後期研修班会議2(2)

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年10月10日 19:20

お待たせしました。


この日は
日本専門医制評価・認定機構の池田康夫理事長
日本医師会の飯沼雅朗常任理事
の2人からヒアリング。
2人のプレゼンの内容は、追って公開される班のサイトをご覧いただきたい。
ここでは、まさに真剣勝負という感じの質疑応答をご紹介する。


最初は池田理事長。


土屋
「日本の現在は学会中心の専門医育成だが、アメリカはプログラムオリエンテッドという話だった。機構としては、その方向を目指すというか」


池田
「学会に投げかけたい。長い間専門医制度は学会がつくってきているし、これからも学会がつくっていかなければならないであろう。学会に、専門医が何人必要か、プログラムオリエンテッドの育成制度に対して専門性の指針を整備していただく必要があるのではないかということ、その辺で意向を各学会にお聴きしたいと思っている」


土屋
「理事長としては、プログラムの方向、しかし各学会全部の合意を得られていないと」


池田
「その通り。長い歴史があるので一朝一夕に変えることができない学会もあると思う。ただし、今後専門医にインセンティブを付けるとなったとき、患者さん側から要望がでてくると思う」


土屋
「適切な専門医数、これをどこが決めるか、これを最終的には機構で決める方向性なのか、各学会の決めた数を容認する方向なのか」


池田
「適正な数を出すことは大事だが難しい問題。何が適正か言いづらい。各学会はどういう試算のもとに適正な数を考えているかを問い合わせた結果としてそういう議論を巻き起こしたい。日本の医療で専門医の果たす役割を考えたとき、診療科の偏在や地域医療の問題を解決するひとつの策になっていくのかなと思う。プログラムも各都道府県に置くことになれば、当然そこで専門医が育っていく。地域格差の解消にも一石を投じる格好になっていくのではないか」


土屋
「各学会の総会うんぬんというお話だった。一方で、第2版の整備指針3ページに基本的に参加年限は問わないとなっているが、学会が守っていないということか」


池田
「その通り。会員歴は問わないとなっているが学会では決めている。問わないというのは、問うのが悪いということではなく、トレーニングの経過である程度認定ができれば良いのだろうという考え方」


土屋
「先生のご挨拶にも、整備指針の最初にも、第三者機関ということばがでてくる。第三者は契約の同意者でない主体となっている。当事者でないという定義があいまいなのが一般的だろうが、それはともかく、第三者というのは1つ、予断無く専門知識を活用して内容が適正かを評価する。これは社会システム研究本部の見解だが、道路公団の民営化が該当して施策や事業内容まで検討する。2つ目のタイプは内容ではなくプロセスを評価する。今までのお話では後者と解釈して、内容に踏み込んで指示を出すまでは持ってないし、今後もそうだということで」


池田
「その通り。プロの集まりとして学会を基本にしながら、学会だけということでは患者の視点や違った意見が反映されづらいので、専門医審議会をつくり、メディアの方、日本医師会、医学会を含めた審議会で方向の議論をいただいているのが現状」


土屋
「この審議内容は公開されている?」


池田
「まだ公表されていない」


阪井
「機構のミッションとして、専門医のトレーニングの質の向上維持は患者のためであるとコメントされた。その通りと聞いた。機構はアドバイザリーコミティーで外部の意見を聴く、ということだが、理解が正しければ理事のメンバーに外部の人を加える、患者さんを入れるのがよろしいかと考えるが」


池田
「それは大事な指摘。ここの機構が、学会もそうだと思うが、機構の運営が専門医をつくるにあたり、どういう仕組みで動いているが、transparencyが求められる。機構の運営についての指摘は傾聴に値すると思う。今は入っていない。各学会の定款が決まっていて、各学会から理事会が選ばれて運営されている。その定款を変えないとそういう形にいかない。そのためにも外部の方の意見を吸い上げる形は別にどうしてもつくらねばならない。定款を変えるか議論の必要性がある」


外山
「今の専門医認定機構が、日本の専門医をつくるにあたって、一番上の委員会と解釈してよろしいか」


池田
「その通り」


外山
「全体的なことをやるには、具体性と実効性、それがないと組織がうまくいかない。先に進まないと思う。そういうところで、先生の会の中で下部機構、いわゆる目と足と耳をつかって動くという、そいういう組織は考えているのか」


池田
「それがないと集まっているだけでは、実際はできない。施設訪問するにしても、具体的なアクションをするにしても、専門的なコントリビューションする人が非常に少ない。評価委員会でも理事の方、班員の方、評価委員会のメンバを募っているが、専門家だけが負担がかかる状況がある。そういう足腰を強くする仕組み作りは今後当然つくっていかねばならない」


外山
「そのためには、財政的な支援、第三者、色々な別の職種の理解のある方のサポートが必要。アメリカでも莫大なお金がかかっている。先ほど学会はプロフェッショナルの集団だというお話があった。いわゆる学会が運営者の集団なので、学会の意見、各学会でまとめてもらう責任があるのはもっともだと思うが、学会がそれを行うだけの実際の能力、精神力、誠実さ、それがあるのかと思うと、少なくとも私が属す学会については懐疑的。すると学会に振らねばならないというところの基盤が脆弱な気がする。もっと突っ込んだ、学会にこうすべきというようなアプローチは今後されるのか」


池田
「加盟しているのが69学会、それ以外にも専門医制度をもっている学会がかなりある。そういう学会はルーズに専門医を設定しているかもしれない。69学会も温度差がある。専門医を育成するために多くの事務局を運営している学会も、ゆったりしている学会も温度差があるので、標準化をやらないと専門医という言葉が国民に理解されない形になる。機構は踏み出さざるを得ないし、責任をもたないと中心的な機構にならないと思うので、行政もサポートしてくださると思っているので、それを含めて考えたい」


土屋
「外山先生は具体的な実効性、とおっしゃったが、機構をバックアップする事務局機能、官僚機能は今どの程度の規模か」


池田
「まだ事務長以下、数人の規模。日本の学会でいえば、日本内科学会・外科学会は事務局が30~40人規模。事務局機能、人的サポートがないと、医師だけが理事会に出席し、会員も医師だから、それがそれぞれの仕事を持ちながら立ち向かうのは難しい。スタートとしては動きだしたといってもらって良いと思う」


土屋
「委員会理事会は、その時には良い意見がでるが、実行されない、その繰り返しがつづく。外山先生も私も胸部外科学会に属し、厳しい専門医にしようとすると理事から外されるとか、理事長選挙で落ちるとかの現状がある。中からの改革は難しい。上部組織強化の期待は大きい」


江口
「整備指針には触れているが、今回お話にならなかった中に指導医がある。今回は専門医のご説明があったが、教育の体制そのものが大事だと思うのだが、指導医が重要になるが、先ほど先生のお話にもあったが、指導医の体制も固める学会もあれば、紙一枚だせば指導医になる学会もある。指導医の中身、資質がどういうことが必要か機構が打ち出したらどうかと思うのだが」


池田
「指導医の定義認定はあえてしていないが、プログラムオリエンテッドになれば、どこの施設でどういうプログラムか、誰が指導しながらやっているのか、という仕組みになっていく。その施設では誰が教育を担当している、どういう方なのかということになると、自ずと指導者の役割、資格が決まってくるのではないかと思う。今の段階で指導医は色々な学会が色々な定義をしていっるので、あえて定義していない。それが先ではなくどういうプログラムか、どういう施設か、で位置づければ良いというのが私の考え。これは機構の中でまだ十分にディスカッションしていることではないが」


土屋
「外山先生、アメリカには指導医の分類はある?」


外山
「ない。専門医だけ」


土屋
「専門医か、それを取る前のトレーニング段階かどちらかしかないということ?」


外山
「その通り」


土屋
「日本の専門医は」


江口
「施設から言うと、指導医がいないと専門医の施設認定がうけられない。本当は専門医は教育の資質も持っていなければならない。残念ながら今はかなりばらつきがある」


土屋
「暫定的には指導医が必要。そうしないと、専門医になるために100年勉強しないといけなくなる。しかし、きっちりとした専門医制度ができあがって育てば、二段階でよろしいと。その辺、専認協の認識は」


池田
「その通りと思う。機構はたくさんやらなければならない仕事がある。1つには、プライマリボードといっている内科、婦人科、外科などほとんど専門医という名前で呼んでいる中で、内科だけが認定医、そのうえにサブスペシャリティが乗っている。これから患者を診るには取らねばならない資格を位置づけると、専門医というかその領域の医師、そのうえに立って本当のサブスペを選ぶ方向にもっていくのではないか、と個人的には思っている」


岡井
「専認協として、これまで専門医制度の体制固めの動きはあったが、所属している学会から見ると著しい前進があったとは思えない、そういう認識があると思う。この機構は公益法人だが、社員は各学会で、お金を各学会が出している。この立場では、学会の意向で活動することになる。そうすると専門医制度を、どう定着させるかということになって、厚労省と交渉するのがメインになる。機構の意思は社員の意思できまるので学会の言うことをきかざるをえない。

機構は患者のため国民のためと言う、ところが社員である学会代表は学会会員の利益を考える立場にいて、自分達の学会を主張する。ここに矛盾がある。学会の代表者が集まるのではなく、もうひとつステータスを上げる方向にもっていかないと、学会の意見を聴いても何も進まないことになりかねない。組織をもう一歩上にあげる努力がいるのでは」

池田
「大切なご意見と認識している。この機構の歴史を申し上げたが、学会が集まり考える。成り立ちはプロの集団の集まりとしてよかったが、はっきり専門医制度はどういう役割かという視点に代わっているので、今は学会だけがつくっている、学会が金をだしている機構で学会の意向を無視して方向性を決めるのは難しいと思っている。第三者中立的というからには経済的、組織としても相応しい組織の在り方を模索せねばならない。現在経済基盤確立の努力をしている」


土屋
「ご指摘のように専認協は各学会のあつまり。アメリカは学会代表も出ているが、学部長、病院長の代表、医師会代表、同じ医者でも違う職域を網羅している。教育専門家も網羅している。第三者機構という形の綱引きができている。関係者だけでも第三者的な活動ができる。機構は学会代表だけ」


池田
「ご批判は当然あるので、審議会として日本医師会、医学会、有識者、メディアが入ったものを設けて中立的第三者的立場をある程度反映させたいとつくっている」


外山
「ラディカルに考えてうまくいくと良いと思うが、ラディカルというのは今の日本の学会のありかたは決してきちっといっているとは思っていない。アメリカと比べても。どの学会でもとはいわないが。学会の体質をどう変えていくかインセンティブが必要。土屋先生もおっしゃったように変えていくことができると思う。アメリカでは理事会に医師だけでなく、アシスタントフィジシャンを入れたり、レジデントも入れたりしている。学会だけの意見で決めないというブレーキがかかる。25名のうち20名が学会関係者だと多数決ならそちらに動くように思うが、しかしそれでもそれなりの公平性・客観性が保たれているように思える。学会の質にある程度切り込まないと基本的問題解決にはならないのでは」


池田
「学会へのご指摘はある点当たっているが、ある領域の学会では学会の在り方を考えて代わろうとしている学会はかなりある。血液学会は70年の歴史をもった学会と50年の歴史の似たような学会があったが、1つの学会にして、患者からみてわかりやすい学会にしようと変わってきた。70年50年の歴史を一気にかえるのは難しいがそういう動きはみられているので、学会も日本の医療の現状をみて、変わらざるを得ない状況になっていると思う。今までは学問の交流に終始していたが、社会的な医療を中心に考えるということになると社会性、対患者を意識しなければならない。もともと日本の学会は学問的なことをディスカッションするためにできた経緯があるのだが、変わりつつあると思うので、みていきたいと思う。変化のスピードはたしかに学会によって様々。それをどうまとめて良い方向にもっていくか。機構のもつ課題は重要で任務も重いと思うが、その方向に向かって学会、患者さんの意見を吸い上げて一歩一歩と思っている」


外山
「努力している学会には敬意を表したい、と思うが、外科系の学会で改革をやっていこうという情報はお持ちか」


池田
「外科系の場合は手術をするスキルを大事にするので、手術を全くしていない人が専門医を名乗るのはおかしいと議論をしながら。手術件数は日本でどれくらいあるのか入れながら数を考えようという学会が出てきていると認識している」


土屋
「この問題は、やりだすときりがないので一旦終わる。1つ確認したいが、適正数を各学会に聴いてみるというのは、機構としてどのようなタイムスケジュールでどのへんまで目標か」


池田
「理事会、総務委員会で話をしたのは、各学会に適正な数をどう考えるか、数をあげられるか、数をあげるとすればどういう根拠でだされたのか問い合わせを早速してみたい。それで各学会が適正数を考えているのか、まずまとめをしたいということを思っている」

土屋
「調整すると、最終的に全体数がわかるのは何年くらいかかりそうか」


池田
「難しい。プライマリボードは位置づけが難しい。耳鼻科整形外科は標榜科にリンクした考えで良い。それは例えば卒業して患者をみる、医師としてはどこかに属すわけで。実際には。その専門医をとってほしい。そのうえで例えば耳鼻科であれば耳の専門か喉の専門なのか。耳鼻科の専門医はheadアンド neckを皆カバーできる専門医だが、実際患者が喉頭癌になったという場合には難聴の先生よりそちらにかかりたい。整形外科でもしかり、背骨と股関節でわかれる。整形外科を全般的に診られる専門医も必要。専門医という言葉がそれぞれの医師でイメージが違うのが問題だと思うので、専門医を国民的な議論の中で共通の言語としてもてるような議論をしていかねばならない。どれくらいの数をどこまでという答は難しい」


外山
「タイムスパンとスピードは重要。今、心臓外科が専門医1900人いる。日本は心臓外科の手術件数が5万というところで、専門医が多すぎる。これをまだ増やすつもりだという。いつまで増やすのかといったら、まだ足りないという。このまま増やして3千人となった時に、きちんとした専門医制度ができたとして、既に取ってしまった連中をどうするのかが問題。新らしい制度に合わないからおりろ、となるのか、ある時期20年30年の混乱がある。何のための制度導入かとなる」


池田
「数の議論のスピードは大事だが、もう一方別の味方をすると、どの地域にもある程度の専門医が必要。集約化をはかり、ある程度の病気は拠点に専門医をおくという考えもあるが、心臓外科以外の専門医には、各都道府県にかなりの数の専門医がいなければその領域の医療の格差が是正されないとなる。その問題も一緒に考えていかねばならないと思う。地域医療の格差も頭におきながらその解決を含めて考えるのが必要だと思っている」

土屋
「私も外山先生も外科医でせっかちなので、三年目四年目にはこういう姿なんだよと示してほしいと思ってしまう。時間も経過したので、ありがとうございました」

続きは次項。

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