声明文

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年10月31日 11:06

墨東病院での妊婦さんが亡くなった件に関連して
産科医療協議会から以下の声明文が出されました。
謹んで転載申し上げます。


       声   明   文

平成20年10月30日

        産科医療協議会(http://jaop.umin.jp/about.html)

 日本の首都東京で大変悲しい出来事がありました。亡くなられた妊婦さん、ご家族の皆様に心からの哀悼の意を込めて、新しい生命・家族の誕生を心待ちにされていた皆様の悲しい、悔しいお気持ちをお察し申しあげる次第です。

 私達、産科医療協議会は、全国の周産期医療の現場で働く産科医が周産期医療・産科医療の向上を目的に個人の立場で集っているグループです。周産期医療に従事する医師として声明を発表いたします。

 今回の悲しい出来事は、周産期医療の最後の砦とされる総合周産期母子医療センターで発生しました。尊い命を失ってしまったことに、深い悲しみを私達は感じています。国民の医療に対する信頼と期待に応えることができなかったことは痛恨の極みです。今私達にできることは、なぜこのような事態になってしまったのかを検証し、再発の防止に努めることだと考えています。
 医療の最後の砦を担うことは大きな責任を負うことになります。その責任を負う施設には応分の支援が行われなければなりません。同時にその施設に従事する医師には相応の責任が課せられるのです。医師はその責務を全うすべく努力しますが、個人の力には限りがあります。個々の医師の能力をいかんなく発揮するためには人員と施設の整備が不可欠です。このバランスを欠いたマンパワー不足の状況が放置された中で、悲しい出来事が発生しました。
 状態が急変する中で、受入先がなかなか決まらず、妊婦さんとそのご家族はどれほどの不安と恐怖を感じられたことでしょう。生命の危機に瀕し、一刻を争う状況にある患者さんを受け入れてくれる高次施設を探し続けるとき、現場の医師はどんなに悔しい思いをしたことでしょう。その一方、要請を受けて断らざるを得なかった若い医師が、今回の結果に受けた衝撃も計り知れません。そのような状況に対応することができるはずの高次施設から医師がいなくならないような方策は本当になかったのでしょうか。
 この事態を私達は心から憂いています。私達は医師として救命に努めたいのです。不幸な出来事を繰り返さないためには就労状況の整備をはじめとする勤務医をとりまく環境を見直す必要があります。搬送先にどのように情報を伝えたかというような、緊急事態が発生している中でのやり取りを問題にするのではなく、搬送システムそのものの問題を議論するべきです。勤務医が安心して診療できる環境があってはじめて、1次施設も緊急事態に対応できるのです。そしてこれこそが患者さんが安心して診療を受けることができる環境なのです。
 産科医や新生児科医は以前から絶対数が不足しています。いつでも救急対応のできる周産期センターを全国各地で整備、維持することはきわめて難しく、地域によっては到底無理という意見もありました。それでも私達は、高次医療施設を中心とした周産期医療体制を確立する方向性は正しいと信じ、厳しい勤務条件をいとわず、日夜努力を続けています。周産期センターの産科医は法定の労働時間をはるかに超える勤務を行っています。それに対して適正な報酬が支払われているとはいえず、過酷な勤務に耐えられなくなる医師もいます。残った産科医師は、そのような中で、妊産婦さんと赤ちゃんのために働き続けています。
 周産期センターに母体搬送の依頼があっても、引き受けることができない場合があります。その理由の大部分は産科だけの問題ではなく、生まれることが予測されている重症の新生児のためのベッド(NICUの病床)が足りないからなのです。周産期医療はお母さんと赤ちゃんの両方のための医療です。今回母体搬送を断った多くの周産期センターの理由もこのためです。母と子の両方のベッドが確保できなければ母体搬送を受け入れることはできないのです。

 私ども産科医はこれからもお母さんと赤ちゃんのために全力をつくしていきます。産科医療協議会として、以下のことを提言いたします。

1)行政、病院設立母体、医療関係者、妊産婦ならびにその家族、すべての関係者が、地域における周産期医療システムの整備と円滑な運用に協力すること。

2)行政に対して:NICUベッドの確保をはじめとする周産期医療体制の維持に必要な医療資源とチーム医療で妊婦ならびに赤ちゃんを支えるシステムを早急に整備すること。救急医療と周産期医療の連携強化体制充実のための施策を早急にとること。特に、母体救命の際には地域の実情にあった迅速な搬送のルールを明確にすること。各地の周産期医療協議会で議論された内容を広く公開し、妊婦さんにより良いシステムを構築すること。

3)医療機関とその設立母体に対して:分娩取扱施設および周産期センターの勤務者(医師、助産師、看護師)の勤務実態を把握して、必要な人員の補充などの改善を図ること。その勤務の内容を正当に評価して、医療従事者が働きがいのある職場環境を整備すること。

 私達はここに声を大にして訴えます。高次医療機関に従事する医師が診療に専念できるように、医療行政は本気で取り組んでいただきたい。日本の母と子を守るために、医師、患者家族そして行政が一丸となって最善の方策を講じる努力を行っていかなければならないのです。根本的な診療システムの再構築に早急に着手することを強く望みます。

     産科医療協議会 コアメンバー:
        海野信也(北里大学医学部産婦人科教授)
        川鰭市郎(長良医療センター周産期センター長)
        久保隆彦(国立成育医療センター産科医長)
        斉藤滋(富山大学医学部産婦人科教授)
        篠塚憲男(胎児医学研究所代表)
        中井章人(日本医科大学多摩永山病院産婦人科教授)
        松田義雄(東京女子医科大学産婦人科教授)
        松原茂樹(自治医科大学産婦人科教授)


なおこの声明文をお読みになられた墨東病院で奥様を亡くされたご主人様から以下のコメントを頂いています。
「この度の皆様方の声明に対して、深く感謝申し上げると共に、心強く感じております。 決して恵まれたとは言えない環境の中、ご苦労が絶えないことと思いますが、決して屈することなく、命を取り出すという重責ある、尊い仕事を誇りを持ってまっとうして頂くことを心よりお願い申し上げます。」

            連絡先:久保隆彦(kubo-t@ncchd.go.jp)

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