医学生の会勉強会1

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年11月11日 23:48

この日の講師は土屋了介・国立がんセンター中央病院院長。
後期研修班会議の班長でもある。
参加した医学生は当初申し込みがあっただけでも10大学約80人とのことだった。
全学年いたが、中心は3年、4年のようだ。


勉強会とは言うものの、実際は学生たちが土屋院長に意見をぶつけるスタイル。
やはり気後れするのか、最初はお行儀のよい質問が続いたが
段々と自分の体験に根ざした勢いのあるものが出てくる。
いくつかご紹介する。


慶應6年男性
「自分の世代の反省として、学生が上の言いなりだったと思う。実は、慶應2年ストレートの臨床研修を希望していたんだけれど、慶應の定員が急に60人から55人に減ったという事件があって、減ったのは2年とも慶應のコースが15人から10人になった。その過程が問題だと思うのは、願書を出した後に突然減った。なぜこういうことになったのか、受験票と一緒に紙が送られてきて、厚生労働省からの強い要望と書いてあった。たとえ、この措置が医師偏在の解消に役立つとしても、いきなり学生に負担を押しつけるというのはおかしくないか。変えるにしても、学生の声を聞いてからするべきではないのか。今まで何も声を上げてこなかったから学生側も簡単にやられてしまうのだと思った」


土屋
「臨床研修制度のできた経緯を見れば、大学がまじめに医師を育てようとしていないことは明白。(中略)学生も考えなきゃいかん、その通りだが、患者さんにとってという視点を忘れちゃいかん。それを基準に考えていけばズレない。(後略)」


東大3年男性
「患者さんのニーズと言うけれど、そこに学生側のインセンティブがなかったらうまくいかない。地方に学生を行かせるというので、最初は予算つけちゃえという所から始まって、それでうまくいかなかったら読売新聞のように強制的配置にしろという意見が出てくるけれど、でもそんなことしたら、しばらくはいいけれど、医師をめざす高校生が減って、結局医師不足が進むだけだと思う。学生に対して、どんなインセンティブを与えればよいと思うか」


土屋
「インセンティブの話をする前に、何が医師冥利に尽きるかということなんだが、これはやはり患者さんの感謝の言葉、治って笑顔になる、治らなくてもお礼を言ってもらえる、この職業から足を洗えなくなるのは、そういう喜びが大きいからだ。要は人間と人間のふれ合いの中に喜びはあって、そういうものが具現化しやすいのは、実は大学の中ではなく、開業してその人の人となり背景事情を全部知って家族のようになったところだ。最近は特に開業したからといって金儲けできるわけじゃない、むしろそういう喜びを求めていく人が多い。中堅や若手の医師が僻地に行きたがらないのは、僻地へ行けるだけの教育をされてないから。自分の実力が心配なのだ。ある診療科しかやったことがないのに、いきなり総合医・家庭医の必要な地方へは行けない。読売新聞もバカを言っちゃいけない。あの私案、大筋ではいい線行っていると思うが、若手の強制配置に関してだけは現場を見ないで言っている。地方へは中堅どころが行かないと意味がない」


群馬大5年女性
「卒前教育を充実してほしい。アメリカではメディカルスクールの後ろ2年はほとんどクリニカルクラークシップとして実習できている。でも日本では6年生は座学中心で、5年生は医師免許がないから見学になっている。そういった卒前での教育の遅れが、卒後教育の遅れにもつながっている。私は、臨床研修の検討会に嘆願書を出している。5年終了時に医師国家試験を受けるチャンスを与えてほしい。免許がないと医療行為ができない。6年生に自動的にとは言わないから、試験を受けて合格した学生には実習を受ける権利を与えてほしい。やる気のある学生にインセンティブを与えてほしい」


土屋
「よく分かった。私は1970年の卒業だが、私が学生時代にしていた議論そのものだ。いかに進歩してないか分かる。系統講義なんかは、学生を信用して、本を読んでおけ試験するからで十分だろう。そうすれば実習の時間は取れる。で、国家資格はなくても関係ない。というのが、医師に何が一番必要かというと、たとえ外科医であっても腕ではなくマネジメントのブレインワークだ。どういう治療を適用してあげるかが大事なんであって、そのディレクター機能が一番必要。その時にベッドサイドで患者さんを診てどう考えるか。ロジックをつくって解答を出す。つまり診察が一番大事だ。診断学だけが別建てであるのは、そういうわけだ。問題は何か、その解決法は何か、抽出すること。そのために必要なテクニックは後で学んでも構わない。たとえば注射できないとしても、それは看護師にやってもらえばいいんだから、診察して方針を出して、それをレジデントにチェックしてもらって一致したらやっていい。ただ、そういったことをするにはマンツーマンに近い体制でないとできない」


東大3年男性
「ラディカルなことを言えば、総合医が各科ローテートする必要があるのをひっくりかえすと、たとえばがん専門医のようにスペシャリストをめざす場合、ローテーションはいらないのでないか」


土屋
「専門が分化すればする程、周辺領域のことを知っておかないと使いものにならない」


帝京1年男性
「先生は、レジデンシーを自明によいものとして、米国の制度がよいという前提で話をしているが、米国は19世紀以来の歴史の中で市中病院優位の流れがある。一方で日本はドイツの医局講座制で発展してきたんであり、ドイツ的な医局制度に中途半端にレジデントを木に竹をつぐ形で入れたから話がおかしくなったんでないか。(後略)」


土屋
「今やドイツも昔のドイツの制度ではない。実は各国ともにかよってきている。それぞれの国でどういう医師を育てるか考えてきたら、結果的に似てきたということだろう。ところが日本の場合は考えてこなかった。それは政府が悪いのではなく、医師が職能集団として真面目に考えてこなかった。だから制度が悪いというのは天にツバするようなものであり、国民からしたら、お前らが悪いと言いたいだろう。米国が一番よいと思っているわけではないが、あそこが一番よく考えられている。ヨーロッパや日本が歴史の足かせのあるところで、アメリカは100年の間大きなコミュニティで考えてリニューアルを続けてきた。(中略)大事なのは日本の土壌にあったシステムを考えることであり、歴史的な足かせのある分、最終的にはヨーロッパの方がお手本にはふさわしいのかもしれない(後略)」


この他にも、たぶん医学生にとっては重要なんだろうという
やりとりがずっと続いたのだが
部外者には余り関係ない話なので、この辺で報告を終わる。
最後に土屋院長が以下のメッセージで締めくくった。


「学生に求められていることは何か。皆さんは自分で自分の針路を考えている。それで十分。試験だったならば100点をあげる。自分で考える。医学部以外なら、みなやっていること。どうぞ自由にやってほしい。医師免許があれば何とかなる。教科書は患者さん。患者を向いてやれば、間違いは起こらない。医師に必要なのは、技術、知識、知恵の3つ。とかく前2つが偏重されがちだが、知恵は自分でトレーニングしないと身につかない。そのうえでさらに必要なのは倫理観、チームをまとめる和。さらに論語調になるが「仁」。慈しみ思いやり自己抑制と他者への思いやりだ。今患者さんや患者団体が医師を責めているのは、そこが足りないからだ。そして最後に「徳」。よい行いをする性格、身についた品性と人を感化する人格の力だ。午後5時過ぎたら悪さをしても構わないが、少なくとも医師である時は徳を失ってはいけない」

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コメント

学生実習を如何に活かせるかどうかは、学生本人次第ということは今も昔も変わらないと思います。

自分の学生時代には春夏冬の長期の休みを利用して全国各地の市中病院などに個別に実習受け入れを依頼して1週間ほど泊り込みでよく出かけたものですし、実家が病院である学生の場合には父親の手術を手伝ってきたなどという話も聞いたことがあります。

実習を受け入れる側からすれば、意欲もあり事前によく勉強し、態度も慎重な学生なら例えばオペの最後に何針か縫合をやってみるかということにもなりましたし、そうでない学生の場合には追い払われました。これは制度云々ではなく、その学生が指導医や患者側からの信頼がどの程度得られているかどうかの違いのように思います。

自分は北米のクリニカルクラークシップも学生時代に経験しましたが、米国、カナダのみならず、欧州からも相当数の医学生がやってきて実習していたことを覚えています。ことによると自校以外での一定期間の臨床実習が義務付けられていたのかも知れませんが、日本の大学病院もまず国内での臨床実習の交流を活発にするという余地はあるかも知れません。

しかし自分を含めて英語を母国語としない外国の医学生にERの初診患者の縫合やキャスト(ギプス巻き)程度は全て任せてしまうという懐の深さと文化の違いには驚きました。もしアジアやアフリカの医学生が日本で同様の実習を行う場合、本人次第ということで患者やプレスは許してくれる土壌はあるのでしょうか?


…北海道でもやりたいですね。

「医師のキャリアパスを考える医学生の会」事務局の森田知宏です。

11日は来て下さり本当に有り難うございました。
おっしゃる通り、「お行儀の良い」議論に終始することは避けたいと思っていましたので、ある程度面白くなったのではないかと思います。

今後も引き続きこのような機会を作っていくつもりです。
応援よろしくお願い申し上げます。

森田知宏

「医師のキャリアパスを考える医学生の会」のホームページを拝見しました。

今後の発展と皆さんが立派な医師になられることを期待しています。

事務局の森田知宏さんに提案ですが、せっかくのセミナーですので、その詳細内容を後日HP上にアップされたら全国の
医学生も喜ぶのではないでしょうか?

動画とかあれば最高でしょうけど。

勉強に忙しいとは思いますが、勝手な提案をさせてもらいました。

皆様、コメントありがとうございます。
大変勉強になりましたし、また清々しい気持にもなりました。

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