”患者の声を医療政策に反映させる”(2)

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年11月24日 08:07

パネルディスカッションから。
伊藤理事長、そしてやはり副代表世話人の海辺陽子・癌と共に生きる会副会長の2人が加わる。


埴岡
「医療基本法を党として推進するのか」


浜四津
「先ほども申したように党として議論してはいないけれど私は不可欠と思っている」


鈴木
「私もぜひ頑張りたい。一致するなら議連をつくりますか」


埴岡
「それができるなら、この会の目的は達したことになるのだが、医療基本法の必要性について改めて、伊藤と海辺から一言ずつ」


伊藤
「各論地獄で混迷している医療政策に出口を見出すのに必要だと思う。それというのも、これからの社会保障にはどうしても負担増がつきまとう。国民的合意を形成していくには政策の中身もさることながら、それ以上に現場で色々な当事者が集まって議論するプロセスが重要になっていく。これだけ大事な話なので与野党には政争の具にしてほしくない」


海辺
「高い視点から鳥瞰的に見る能力はないのだけれど、普通の主婦として、なぜそうなってしまうのかと思うことが非常に多くあった。医療には、普通の人が考えてこうあるべきだと思うことと全然違う方向に議論の行ってしまう不思議さがある。たとえば、がん検診の受診率が低いという時に、それを上げようとしたら、受けていない人がなぜ受けてないのか調べる必要があると思うのだけれど、検査機器の話とか負担の話とかになってしまった。そういう一つ一つの瑣末なことの根本に流れているのは一緒なのかなとも思う。ぐちゃぐちゃになってしまうことが当たり前のことに変わるために、根本となるものが必要だと思った」


埴岡
「たしかに既存の政治状況を所与の条件として考えねばならず、そもそも論ができないというのは感じている。医療基本法制定までのプロセスとかシナリオをお聞かせ願いたい」


浜四津
「党内の議論をするところから始めないといけないが、早急に部会として意見をまとめて、法律をつくる時は与党それぞれ機関決定した後で持ち寄って一致して結論を得たならば、今度は野党に呼びかけて理解をいただいた後で提案ということになる。まずは与党案作成に向けて動く」


埴岡
「がん対策基本法の時は、前年春ぐらいに話が出始めて10月には骨子が明らかになり、1月・2月には案になって翌春には成立していたが、そういうこともあり得ないことはないか」


浜四津
「機運にもよるが、しかし理念には誰も反対できないと思うので、それ程の時間を要するものではないのでないか」


鈴木
「党内と国会と分けて話す。我が党の中は既に04年度の医療制度改革の際に対案として患者の権利に関する法律を提出しており、それをもう少しメタレベルを上げるだけなので問題なく一致できると思う。がん対策基本法の時は、我々で案をつくって速やかに公明党とは合意に達し、最終的にできあがった。国会全体ではいくつかの方法があるだろう。まず政府が閣法として提出する可能性がある。その場合は政府の中でしっかりした枠組みができるまで時間がかかるだろうし、今の厚生労働省は気の毒なくらい懸案事項をいっぱい抱えていて、果たしてその中でどの程度のプライオリティになるのかなというのは心配だ」


埴岡
「議員立法は?」


鈴木
「議員立法の可能性はある」


埴岡
「年明けの次期国会に出てくることは?」


鈴木
「政治状況次第。平時であれば」


埴岡
「マニフェストの売り物として対立軸を鮮明にしたくなるところかもしれないが、我々としては先ほども伊藤が言ったように政争の具にしてほしくない」


浜四津
「基本法の性格上、対立軸になるとは思わない。政局が不透明ではあるが、着々と手続きを進めていきたい」


鈴木
「私は超党派のものを色々とやっている。いかに政争の具にしないかというのがポイントで、そこには様々なノウハウがあるので、それは最大限提供したい。変な言い方だが、メディアの方々の強力も重要だ。今現在でも超党派のものはいくつも進行中だし、ねじれ国会であっても民主党の法案賛成率は9割ある。だが特にマスメディアの特に政治部の手にかかると、あえて対立構造に持っていくので、そういう手法を取らない他の部の記者に担いでもらえればよいのでないか」


埴岡
「がん対策基本法は最初に民主党と公明党とがイニシアチブを取って、しかもその中身が患者から見ても高いレベルで瓜ふたつだったことが幸いしたと思う。状況が進んで、自民党としても乗らないわけにいかなくなった。今回もそういう風になればと思う。続いて患者参加のあり方財源や財源のあり方を決めるプロセスについてどう展望するか」


伊藤
「一つは基本の医療政策を決定するうえで、そのプロセスにどう参画するか、医師会や看護協会といった主に医療提供側が集まっていた検討の場に明確に患者が参加すると位置づけるべきだろう。そして常に負担と給付の関係について議論していく、今までの各論の審議会よりさらに上部の審議会みたいなのを想定している。それを盛りこんでもらえれば」


海辺
「患者参加は世界の先進各国では当たり前だが日本は始まったばかりで試行錯誤にならざるを得ないのかなと思う。ただ、がん対策協議会に参加してみて、いかに医療というのがその世界の常識に囚われて当たり前のことを考えられないようなガチガチになっているかと強く感じた。その意味で思うのは、利害に関係ない人が加わること自体が大きい。場合によっては、患者ですらない市民の参加が必要かなと思う」


浜四津
「患者さんのための医療という本来の目標を達成するためには、政策決定の場に正規メンバーとして参加し声を発することが必要だろう。がん対策協議会がモデルになるのでないか」


鈴木
「現場は、まず患者、その横にいて診療にあたる医療者、この両者がよきパートナーであることが大切なんだと思う。今まで、この両者とも政策決定の場には入れていなかった。たしかに日本医師会は代表者を出しているけれど、患者さんの診療にあたっている勤務医の声を代弁するメンバーは出ていない。むしろ、その両者を中心に構成するべきなんでないか。それからやはり市民が大事。負担と言った時、納税者、保険者、患者本人の3者の負担がある。市民が入ることで前2者の負担も考えることができる。

政治家として申し上げるのは以上なのだが、加えて制度設計の公共政策論を研究している身として申し上げるならば、患者さんと一口に言っても様々なグループがあって、それぞれの利害が相対立することも少なくない。たとえば未承認薬を早く承認しろという方々と、薬害を出すなという方々、どちらも大事。だが足して2で割っても何にもならない。連立方程式として、より高度な次元の解を見出す必要がある。そのためには相当の知恵が必要。患者というカテゴリーも大事だが、同時に、色々な立場の人を包含していくことも必要だ」


埴岡
「患者会は一枚岩になるべきというご指摘だが、その辺りどうだろうか。いきなりで申し訳ないが長谷川代表」


長谷川
「おっしゃる通り。個別の患者会のあり方はそれぞれあって、一方で共通する基本法については共通して声を出せると思う」


埴岡
「ビジョンとしては大連合をめざしている。超党派の議連と患者の協議会が重なっていけばかなりのことができるだろう。負担と給付の割合に関して、この会場で医療費を増やしてもいい、そのための負担が増えてもいいという人挙手を。はい9割が増やしてもいいと言っている。しかし国民の中ではその意見はマイノリティ。どうやってマジョリティにしていくか」


海辺
「私は普通の主婦だが、たまたま勉強せざるを得ない状況に置かれて色々と勉強した。そうしてみると知らなかったことがたくさん分かって、だからこそ普通の人は絶対にそういうことを知らないということが分かる。負担を増やすという話になると、新聞やテレビでは、すぐにその前に無駄を省けという話になって、そういうのが出てくると皆払いたくないからそうだそうだとなるけれど、しかし日本は既に限界近くまで小さな政府になっていて、国民負担は実は大きくない。そんなこと普通の主婦をしていると全く知らなくて、もう少し贅沢がしたいとか、子供の教育費が大変だとか、そんなことを考えているので、負担してくれと言われてもイヤだという話になる。そういうことをもっと根気よくアピールしていかないといけないと思う。ただ、そういうのは政府の側ももっと上手にアピールするべきなんじゃないか。普通の主婦の私がいきなり街頭に立って訴えることとは違うような気がする」


埴岡
「先進的な主婦も街頭に立つのは違和感がある、政治家もポピュリズムで負担増の話はしたがらない、行政自らがそういう手法を使うのは禁じ手、マスコミもステレオタイプということになると皆すくんでいる状態で、基本法の世界まで行ってしまえば楽なのにそこの前の壁を越えられない。突破口はどの辺りにあるんだろう」


伊藤
「医療費の総額抑制を見直しましょうというのは、ある程度コンセンサスになっていると思う。ただ誰がどう負担するのかというと話が止まる。私は基本的に保険料を上げていくしかないと思っている。ただ、そのことを了解してもらうには、その決定プロセスの中に国民に入っていただいて、現実的な負担と給付のいくつかの選択肢を示して、それを国民に問うていく、それを政党がマニフェストに入れて信を問うていくという作業が欠かせないと思う。負担増を訴えると選挙で負けるから訴えないというビヘイビアでは、行き詰まると思う」


埴岡
「マニフェストに医療基本法と1行入れてもらえないか」


鈴木
「努力はしてみる。法の名を何と呼ぶかは、また別にして。もちろん問題意識は共有している。ただ伊藤さんが言うほど実は簡単な話じゃない。私は、麻生総理が2200億円削減をやめると思っていた。しかし、先日堅持するんだと言った。政策決定の過程より何より決定的に世論醸成が大事。実は自民、公明、民主の各党は、相当の頻度で世論調査をやっている。やり過ぎという感すらあるんだが、言ってみて世論を見て軌道修正しているのが現実。医療費増は世論の支持を得ていない」


埴岡
「我々の世論形成能力が問われていると」


鈴木
「それも確かにそうだが、話はもっと大きい。1億2500万人の世論形成って本当に大変」


埴岡
「財政確保の面で、削るところから生み出すのか、増やすのか、若干の差異はあったと思うが、ここでは深入りしない。今後の財政論の議論の仕方について」


浜四津
「安定した財源確保の必要性は言うまでもないことで、その費用は国民負担で賄われているのだから、負担と給付の関係について十分に納得してもらう必要がある。国会議員がその説明責任を十分に果たしているかというと、たしかに負担増に拒否的反応が強くて、特に総選挙前では議論が止まってしまう。そうは言っても政治の働きは非常に重要であり、特に消費税の問題と関連付ければ、医療にどれだけのお金が必要なのかを中期的に示していく必要がある。段階的に進めていくしかない」


鈴木
「患者負担増は限界に来ている。従って税投入を増やすしかない。それから高所得者の保険料負担を増やすことも必要ではないか。特に国民健康保険の所得区分で上の方にもっとランクを増やすというのはあってしかるべきだろうということで、そこは研究中だ。税に関しては1.9兆円増やすということで党内のコンセンサスは得ている。財源に関しては繰り返しになるが、先ほどの無駄遣いの話で、小泉政権で減ったとはいえ公共事業費率が依然として対GDP比5.0%ある。ドイツは1%ちょっと。その差の3%分を医療と年金と教育に回せということを我々は主張している」


埴岡
「医療基本法については」


鈴木
「国会の中のプロセスについては、いろいろある。がん対策基本法のようなパターンもあるだろうし、最初から自公民フレームで各党あえて法案を出さずに一発で通してしまうのもある。政争の具にしないよう、早期に実現するよう最もよい戦術を考えたい」


埴岡
「戦術も大事だが内容も大事だ」


浜四津
「党内のコンセンサスを得ることは短期にできると思う。ネックになるのは他党との違いをどう調整するか。具体的には自民党との法案の内容の調整が時間がかかるかもしれない。民主党とは、これまでも共通する法案内容が多かったのだけれど、自民党の中はかなり多様なのでそれを一致させて調整させるのが大変」


伊藤
「選挙の時期も視野に入れて、あり方協議会としても他の団体とも協力しながら与野党のキーパーソンにお願いに参りたい」


海辺
「協議会としても、もっともっと勉強して様々な立場の意見を伺って、医療基本法というものをもっと立体的に捉えられるようにしたい。昭和47年に野党3党が共同提案された法案の内容は実にすばらしく、今回の医療基本法がそれより後戻りすることのないようにしたい」


海辺氏の感性にはとても共感した。こういった感性を持ち続けて、医療基本法制定を、国民的議論を巻き起こすための手段と捉えて協議会が活動するならば相当に面白いことが期待できると思う。しかし目的と捉えてしまうと、作ったはいいけど何も変わらなかったということになりかねないと思う。
(了)

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コメント

この話がどこまで実現可能性に繋がるのか知りませんが、理念だけが先行して何となく総論賛成、各論で躓くということのないように願いたいものです。(お題目だけの法律では立法の労力だけ無駄という趣旨。少なくとも衆参の厚生労働委員会のメンバーが積極的に参加するような方向に機運が高まらないと、潰れる可能性は大という気がします。)


以下立法レベルで盛り込むべきと私が思うエレメントを思いつくまま順不同に列挙します。(どの程度賛同が得られるか定かではありませんが)

財源問題:日銀法の改正(で間に合うかどうかわかりませんが)を行い、最後は中央銀行に医療財源の下支えを行わせることで安定財源を確保する。

医療事故時の逮捕・拘留および刑事罰問題:刑法の改正(刑訴法、警察官職務執行法なども必要なら)を行い、医療事故に対しては専ら民事訴訟で解決するよう場合によっては(知財裁判所があるなら)医療裁判所の設立も視野に置く。

医療に関わる知的財産権問題:必要な医療は広く万民に行き渡らせるべきとの理念から手術法などの医療手技に特許権などの知的財産権を認めないことは勿論のこと、厚生労働大臣が必要と認める品目については、既存の知的財産権を停止し国内での製造販売を認める(ブラジル等の中開発国や途上国が抗エイズ薬で取った措置。明らかに不当に高値の米国製カテなどの医療材料の価格を下げることに繋がれば病院も患者も保険者も助かると思いますが)。知財法の改正が必要か。

新薬等承認の期間短縮の問題:新薬及び新しい医療用具の認可を薬事法から切り離し(薬業法と名称変更か)、少なくとも諸外国で既に使われている薬や医療用具の認定(安全性の審査、効能の審査)は簡略化し、市販後のサーベイランスを強化することにより対応。

薬害等による事故対応への問題:既承認薬のみならず特に上記新薬等の使用に当たっては、その副反応や事故を効果的に情報収集する仕組みを構築。いずれは医療安全事故調査の枠組みや無過失保障問題の枠組みと同一化する方向になるかも知れない。

無過失保障問題:脳性まひ、産科に限らずその適用範囲を拡げよとの議論になるはず。

医療安全事故調査の問題:医療者、患者が納得する枠組みを十分議論してください。

患者の声を医療政策に反映と言う響きは凄くいいのですが、では実際にどうなんでしょうか?「がん対策推進協議会の議事録」を見て頂ければご理解いただけるかと思いますが、患者抜きの議論になっているようです。
結局は患者本意ではないのではないかと思います。
もっと患者の声を代表して頂ける勇気のある委員はいないものかと悲しく、また自分がそこまで活動できない歯がゆさで
本当に悔しい限りです。
議事録には誰も触れていませんね
患者が負担する医療費についてですが、ある大学の研究によると年間自己負担100万円以上と言うデーターもあります。
生かされている事は凄く嬉しい事なのですが
片方では「生きてて申し訳ない」とすら思う患者の気持ち
本当に理解してくれているのでしょうか?
せめて化学療法にクールがない進行がん患者には助成が必要ではないでしょうか?
全額とは申しませんが毎月の高額な医療費はもっとオープンに出すべきで、保険料の未払いも減るのではないでしょうか?
そんなに甘くはないでしょうか?
しかしある政治家は「日本は医療に差がない」と言いましたが、所得には格差があります。
地域だからと言って医療費が安い訳ではありません。
そんな末端の現実を協議会でもっと話し合われてもいいのではないでしょうか?
あの状態で患者に反映される事はあるのでしょうか?
患者が求めている医療は「見た目立派な病院」ではありません。

海辺氏の発言の「日本は既に限界近くまで小さな政府になっていて、国民負担は実は大きくない。(中略) 子供の教育費が大変だとか、そんなことを考えているので、負担してくれと言われてもイヤだという話になる。そういうことをもっと根気よくアピールしていかないといけないと思う。ただ、そういうのは政府の側ももっと上手にアピールするべきなんじゃないか」という部分は同感です。

政治家の(医療者もそういう面はあることは完全に否定は出来ませんが)複雑な問題をしっかり分かるように説明する「説明能力」が低いのではないでしょうか。

例えば「現時点で医療と言うのは既に国のシステムとしてコストパフォーマンスの良いものが出来ている。しかし財源が足りないので負担を上げないと崩壊してしまう恐れがある。ここでお金を出すのをケチってしまうと、せっかくの制度が崩壊して、結局皆不安だから民間の医療保険に入らないといけなくなってかえって割高になってしまう」ということを国民に理解してもらうことは本当に不可能なんでしょうか?まあもし国が率先して医療保険を壊そうとしているならこんなこと言うだけ無駄なのかもしれませんが。

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