署名といえば。

投稿者: | 投稿日時: 2009年02月28日 11:30

周産期医療の崩壊をくい止める会は現在、「妊産婦死亡した方のご家族を支える募金活動」を行っています。昨年9月22日から始めて、今月初頭の時点で募金総額は386万円を超えたようです。ただ、振り返ってみればくい止める会発足のきっかけは、福島県立大野病院事件でした。産科医の不当逮捕に対して署名活動を展開し、最終的に無罪判決が確定しています。

署名活動を傍らで応援していた私としては、その後も、市民による署名活動を目にすると、ついつい気になってしまったりします。最近では、骨髄移植フィルター問題に関しての署名活動でした。そしてこの問題は最近、ようやく無事に着地しつつあるようです。

問題の詳細、顛末は、いろいろなところでレポートされているのでそちらをご覧いただければと思います。簡単に言うと、昨年12月、骨髄移植に欠かせないアメリカ製の医療器具(骨髄移植フィルター)が経済危機の影響から突然に供給停止となってしまったことに対し、別の会社で作られたものを輸入して保険の範囲内で使えるようにしてほしいと、全国骨髄バンク推進連絡協議会が署名活動を行ったものです。骨髄移植は白血病等の患者さんにとっては最終手段で、毎月150人、年間2000人の人が命を救われているということですから、これは相当深刻な問題です。


署名は最終的に6万6000を超え、舛添厚生労働大臣の迅速な判断と行動もあって、他社製骨髄フィルターの確保、そして今週の保険適用まで、異例のスピードで事が運びました。(保険適用されなければ患者負担は数百万円にのぼり、移植が非現実的となるそうです。)


私はこの話を知り合いの医師から聞いて知りましたが、まず「すごいな」と思ったのが、署名をやろう! と決めた全国協議会会長の大谷貴子さんの行動力です。大谷さんは、ご自身も20年以上前にお母様より骨髄移植を受け、その後、日本の骨髄バンクの設立に貢献された方。日々、患者さんやそのご家族と向き合いながら、問題解決のために署名を呼びかけて日本全国を飛び回られたようです。それでも、草の根的に始めた署名活動で、およそ2ヶ月で6万6000超集まったというのは、ものすごいことです(ちなみにくい止める会では1ヶ月で6500超、最終的に1万1000超)。大きな企業の社長が社員にいっせいに指示を出して票を集めたりするのとは違って、この署名は純粋に、患者さんとそのご家族、友人、知人、そして一般の方からの「生きる」ということに対する切なる思いの結晶というわけです。


ただし今回の騒動そのものは、多くの人が指摘しているように、かなりいろいろな問題提起を含んでいました。


なかでも情報の流通については、患者さんたちは相当、やきもきされたことと思います。。大谷さんも第一報を知ったのは新聞報道から、しかも患者さんのご家族の電話連絡を受けてからだったといいますし、そもそも厚労省自体が、同じ新聞報道から最初の情報を得たと知って愕然としました。その後も厚労省の公式発表はなかなかアップされず、骨髄バンクや全国協議会のホームページを見ても患者さんが安心できそうな材料はなかなか見つからず、誰がどう動いているのか、そもそも何かが動いているのか、さっぱりつかめませんでした。患者さんやご家族の不安は並大抵でなかったと思います。情報公開の徹底は、こうした緊急事態の鉄則だと思うのですが……。厚労省は今回、その体制も整っていなかったということを露呈してしまったかたちになりました。

また、ここへ来て保険適用が決まり、ひとまず安心と思いながらもなお気にかかるのは、もう少し先の時点での供給の問題です。そもそも新しく適用が決まった骨髄フィルターも製造・販売が特定の1社のみに限られているという状況は、以前と同じリスクを抱えていることになります。アメリカのバイオベンチャーだということで、その生産規模とその安定性がどれほどのものなのか。今後、国レベルで奪い合いになるようなことが起きないといえるのでしょうか。これらは、以前から使用されてきた機器の販売再開がいつごろになるのか、そしてそれを日本でも滞りなく入手できるようになるのか、という疑問とあわせてひっかかったところです。


要するに、舛添厚労大臣のコメントにもありましたが、危機管理の問題です。今や医療も、グローバル化した経済社会の中にいやおうなく組み込まれているという側面があります。世界的な不況にあって、これからも同様の事態が起きない保証はありません。そんなとき、いつも大谷さんのようなバイタリティ溢れる誰かが署名活動を主導し、世論そして行政に訴えかけられるとは限りません。そういう人がいなくても、そして特例的な対応によらずとも、万が一に備えられる体制の整備を、なんとしても急いでほしいと思います。

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