問題はたぶん、マタニティーマークの有無じゃない。

投稿者: | 投稿日時: 2009年09月25日 14:51

数日前、こんな記事が掲載されていました。

●マタニティーマーク 浸透まだ 妊婦半数「役立たない」
(2009年9月15日 産経新聞)

マタニティーマーク.gif


妊娠初期にはお腹も目立たず妊婦と認知されにくいい一方、体調は悪阻で一番つらい時です。タバコの副流煙も胎児によくないといわれています。そこで、このマークをデザインしたキーホルダーやワッペンなどで周囲の人に配慮を促そうと、厚労省が3年前に策定したものです。鉄道駅等で無料で配布されていますが、認知度はいまいちで、効果も期待されたほどに上がっていないようだ、とのこと。


私も妊婦でこのマークを一応つけていますが、上記の記事を受けて改めて考えてみたいと思っていたところ、読売新聞が管理しているインターネット掲示板でかなり率直かつ辛辣な議論が膨れ上がっているのを見つけてしまいました。

と、その前に、ところでそもそも皆さんは、マタニティーマークというものをご存知でしたでしょうか?


厚労省のホームページではこのマタニティーマークを、「妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保」のために、

●妊産婦が交通機関等を利用する際に身につけ、周囲が妊産婦への配慮を示しやすくするもの。
●さらに、交通機関、職場、飲食店、その他の公共機関等が、その取組や呼びかけ文を付してポスターなどとして掲示し、妊産婦にやさしい環境づくりを推進するもの。

と説明しています。要するに、少子化対策の一環として、妊産婦が子供を作りやすい環境を整えよう、ということですね。それがさほどうまくいっていないようだと・・・。


さて、そのかなり厳しい意見が飛び交っているインターネット掲示板について。(全やり取りはこちら。かなりのボリュームです)


トピックのタイトルは「電車の優先席と妊婦バッチ(愚痴?) 」。2人目を妊娠(4ヶ月)し、悪阻やお腹の張りを抱えながら働く女性からの相談です。
●マタニティーマークをつけているが、通勤電車でほとんど譲ってもらえない。
●優先席がないと、なおさら無理。「なくても譲りましょう」というのだったら、それを啓蒙してほしい。
●「妊婦だから優遇しろ」と言うわけではなく、辛い時は助け合える社会を。
●「つわりで具合が悪いのでどなたか席を譲って頂けませんか?」と言うべきか。
●仕事をやめろ、休め、という議論とは別にしたい。


この意見だけをちょっと読むと、掲示板にこうして書き込むかどうかは別として、妊婦に限らず体調の悪い人が電車に乗るときにふと思うことばかり、といってよいかと思います。ただ、その後のやり取りで、賛同、同情、反対、反感、本当にいろいろな考え方の人がいることをあらためて認識されてしまいました・・・。


以下は、妊娠の経験の有無にかかわらず、同情者側からも反感を持った人からも多く聞かれた意見です。

●時間帯をずらしたり、始発駅まで行って座れるようにすれば良い。自分で決めた・選んだマタニティーライフ。他力本願でなく努力が必要(お金等がかかっても)。
●つらいのは、妊婦だけではない。内部障害や心疾患のほか、一時的に体調が悪い人もいる。
●そもそもつらそうな人には、優先席でなくても譲るべき。
●自分から頼まないで、気づいてもらおうというのは、ずうずうしい。譲ってもらえるよう、お願いすべきだ(すれば譲ってもらえるだろう)。
●マタニティーマークなど目に入らない。言ってもらわないと分からない。
●皆、同じ金額で乗っているのだから、平等。妊婦は偉くない・・・。
●そもそもあまり知られていない。気づかれにくい。(これについては、不妊の人への配慮もあり大々的に宣伝できない、という部分もあるとか。)


書き込んでいるのは、圧倒的に女性が多いようです。
とくにへえ、と思ったのは、経産婦の方々の意見に「自分は譲ってもらわおうとも考えずに頑張った。甘えるな」というものが多いこと。そう言われてしまうと、もうどうしようもないのですが、なんだか残念です。社会全体として、妊婦に限らず体調が悪い人に席を譲るのが当たり前になることは、私は非常に望ましいことだと思っています。妊娠は確かに病気ではありませんが、妊婦も体調が思わしくなければ、普通に考えてやはり弱者です。しかし弱者は我慢しろ、自分だけの力で出来ることだけやっていろ、という社会は、とても住みにくい、生きにくそうです。かつて大変な時期に自力で何とかなった経験のある人でも、さらにこの先、自分や自分の大切な人がいつ弱い立場に立たされるともしれません。それを想像しない・できないのは傲慢ですし、これは少子化対策以前の問題です。


もちろん確かに時間帯をずらすなどの工夫は必要かと思います。それは他人や社会云々というより、なにより自分と、そして妊婦の場合はお腹の子供のためだからです。おそらく、やむを得ずすでにそうしている人がほとんどではないでしょうか。ただそれでも、たとえば想定外に電車が混んでいることもあります。あるいは、ちょっとした混雑なら乗らざるを得ないこともありますし、大丈夫と思って乗っても途中で体調が悪化してくることもあります。そんなとき、周囲の人でそれに気づいたのに、なおかつ健康上のさした問題もないのに、見てみぬふりをすることは、良いことでしょうか?・・・なんて愚問ですよね。こう聞かれて「よい」なんて答える人はまずいません。しかし、実際にはそういうことが普通に起きているということのようです。私はそのあたりは結局、自尊心の問題だと思っています。自分はどういう人間でありたいか。あるべきか。そうした自尊心を育てることが出来るかどうかは、家庭や社会を含めた教育の問題なんでしょうね。


ひとつだけ、多く出てきた意見の中で、私も「確かにそうだな」と思わされたことがあります。それは「自分から願い出なさい」ということです。実際のところ、これは難しいことです。それこそ「ずうずうしいと思われるだろうな」と躊躇して、私なら体調が本当に厳しければ電車を降りるほうを選ぶと思います。また、本当ならそこまでしなくても、誰かが体調が悪いのに気づいたらさっと席を譲りあえる、という状況が社会的により普通なら、妊婦に限らず誰にとっても助かるのではないかと思います。しかし、社会にはいろいろな人がいます。そして何より、助けを必要としているかどうか、外見では分からないことも少なくありません。だからこそ、助けが必要なら自分から言い出さないとどうしようもないのです。


確かに現状では言い出しづらい。お願いしづらい。助けが必要なときに、いつでも見ず知らずの人に気軽に求められる雰囲気の社会ではありません。だからと誰しもが我慢し、黙っていたら、いつまでたっても「言い出せない」社会、「我慢するのが当たり前」の社会のままなんですよね。実際、お願いされて断る人は、特段の事情がなければ、それほど多くはないだろうと思います。もちろん、たとえば席を譲ってくれというお願いとなれば、内心しぶしぶの人も多いかもしれません。それはしょうがない。正直な気持ちです。でもそれでもお願いする、それくらいの「ずうずうしさ」は持ってよい(もしも状況を変えたいと積極的に思うなら持つべき)と思うし、社会もそれを当然のこととしてみるようになってほしい、それくらいの余裕があってほしいと思うのです。

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コメント

妊婦さんにエール!
とにかく、いろいろな考えに惑わされず、自分に正直に生きましょう。善意の人は意外と多いという楽観論で貫いたほうが精神的には健康的と思います。くじけないでください。

掲示板のやりとりを見ました。どうやらトピック主が「妊婦様」の典型であるようなので、いわゆる「野良妊婦」とどこか重なり、良い感情は抱きませんでした。まあ、トピック主のキャラクターはさておき、具合の悪い人は、妊婦に限らず、周囲に気付いてもらえないのであれば自分で申告して「席を譲って下さい」と言ってしかるべきだと思います(トピック主はどうやら具合が悪いのではなく、自分が妊婦だから毎日座れてしかるべきだ、という主張を、最終的にはしていたので、この範疇からはずれますが)。私は地方の勤務医で車通勤ですから都会のラッシュ電車は学生時代しか経験がありません。平日の今の睡眠時間で普通席に座っていたら間違いなく爆睡していますから、目の前にどんな人が立ってるか気配りできる訳もありません。直に頼んで頂けないと、気付かないでしょう。また、髪を染めて今にも折れそうなハイヒールを履いてる妊婦や煙草の匂いがする妊婦は実際に目にしており、マタティーマークの意味を勘違いしている妊婦がいるのは事実です。更に、ただの妊婦よりも明らかに身体がしんどい一見普通の人(持病の種類によっては長時間のバランス保持立位が困難だったりします)が少なくないであろう事も、職業柄容易に想像できます。妊婦だから譲られないのはおかしい、毎日席を譲られて当然、というオーラがトピック主の書き込みからは漂ってきました。感謝の念が欠落しているから、私はいい感情を持てませんね。権利ばかりを声高に主張して場の雰囲気を壊していく、いわばモンスターペイシェントやモンスターペアレントに通ずるものを感じます。
必要なら席を譲って頂けないかと頼んでみる、頼まれた人にも事情があって断られたとしても、近くに誰か譲ってくれる人がいるかもしれない、譲ってもらったら相手に素直に感謝する、そうすれば譲ってくれた人の好意も生きるでしょうし、今度はそれを目にした他の人が、次のチャンスに誰かに好意を示すかもしれません。そんなシンプルな事の長い積み重ねで、譲りやすい、譲られやすい、電車の中になっていくのではないでしょうか。

生涯さま、kontaさま、コメントありがとうございます。

そうですよね、結局は掲示板等に書き込んだりすること以上に、その場で実際、自分が動く、声に出してお願いする、という行動が大事なんですよね!自分とお腹の子供のために、妊婦自ら立ち上がること。思うことがあったら自ら、ちょっと頑張ってみるしかないし、そうすべきだということですね。それによって、何かが少しずつ変わっていくのかもしれません。

>kontaさま
>感謝の念が欠落しているから、私はいい感情を持てませんね。

まあまあそう一概におっしゃらず、ご自分もお母さんのおなかの中にいた時期、おかあさんがお腹の中のあなたを健やかに産むためにどんなお気持ちだっただろうかと想像なさってごらんください。世の男が妊婦さんの気持ちを具体的に想像するにはそれくらいしか方法が無いような気がしますよ。

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