先を越された

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2010年04月04日 19:57

 市民のためのがん治療の会の會田昭一郎代表から4月1日にメールを頂戴した。
 同会がこのほど、『放射線治療医の本音・増補改訂版』という書籍を出版し、その中身全頁をweb上で公開しているというお知らせだった。日付はエープリールフールだったが、ウソではなかった。
 先を越された、やっぱりこうなるよな、と思った。

 古くは佐野眞一氏が『だれが「本」を殺すのか』で指摘したように、日本の出版業界はどうしようもない閉塞状態にある。実質的経営破たん状態にあると思われる多くの出版社が、それを糊塗するため、新刊を出すと取次からの売り上げを立てられるという奇妙極まりない商慣行を利用して、雑に本を量産し、取次はそれを書店に押し付け、しかしそれはほとんど読者の手元に届くことなく取次の倉庫に戻り裁断される。出版社は、一度立った売り上げ分を返金しないといけないが、それだけの手持ちはないから、代わりにさらに新刊を出してという無限地獄。そのサイクルの中では、書籍は単に手形の代わりでしかない。

 真面目に本を作っている中小の出版社が、この流れから離脱しようと考えるのは当然のことだと思う。

 そういう所は、本の中身に自信があるわけだし、何より世の多くの人に読んでもらいたいという気持ちが強いはずなので、無料公開も選択肢の中に入ってくるはずだ。

 現に弊社でも、今、熊田と新井が書籍を執筆中だが、その全頁をweb上で公開しようと考えている。

 この流れは恐らくもう止まらない。無料公開されているものの方が質は高いという逆転現象すら、今の状況では起こり得ると思う。ロハス・メディカルも、その先駆けだという自負はある。

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コメント

志に大変共感します。ぜひがんばって風穴を開けてください。

ただ、なぜ部分公開ではなく全頁公開なのかがよくわかりませんでした(もちろん、収益を度外視して、とにかく広めることが目的なら全頁公開も選択肢にあがると思います)。

全頁公開で売れる本は、部分公開でも売れるのではないでしょうか。売れるかどうかは、何よりその本の内容によると思いますが、それは全頁公開して入手のモチベーションを下げなくても伝えられるのではないかと思うのです。

なお、おっしゃっている出版流通の奇妙な商慣行は、各種取り次ぎを確保している比較的大手の出版社だけに言えることであって、お話されている「真面目に本をつくっている中小の出版社」の状況とはあまり関係のないことのような気がいたしました。

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