「取次」のもう一つの顔~出版業界の貸金業者

投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2010年06月17日 17:14

先日、書籍流通の仕組みをお伝えした最後に、「取次」にはもう一つの顔があると言いました。

それは一体何でしょうか。

端的に言ってしまえば、「貸金業」です。

前回説明したように、出版社は新刊書籍を刊行すると取次に委託します。この時点では、あくまでも委託であって売れたわけではないので、本来であれば出版社に売上金は入りません。書籍が書店に配本され、顧客に売れて初めて売上が発生するはずです。その売上を、書店、取次、出版社で分け合うことになります。

でもこれでは、本が売れるまでの数カ月間、出版社にお金が入ってきません。出版社は月々のやり繰りに困りますし、余裕がなければ次の本も作れないので、品ぞろえの貧弱になる取次も困ります。このため、取次はある程度実績のある出版社に対しては、書籍が売れたら出版社に入るはずの売上金の何割かを前払いするのです。最終的に書籍がきちんと売れれば、取次も儲かりますし、出版社にもさらに売り上げが入って万々歳なわけですが、前払い相当分すら売れないなんてことも、しばしば起こります。その場合、取次は出版社に本を返して「売れた分と前払いの差額を返して」と要求するのです。

この一連の流れ、何かと構図が似てますね……。そう、新刊書籍を担保というか質草というかにして、お金を貸し借りしたと見ることが可能です。

出版社が取次に返せるだけの現金を手元に持っていれば問題ないのですが、大抵の場合そうではありません。この時に出版業界独特の商慣行が出てきます。改めて新刊を出して、その前払い金で返金分と相殺することが許されるのです。少し俯瞰して眺めてみると、本が売れなければ雪だるま式に「借金」が膨れ上がって行く代わりに、ひとたびベストセラーが出れば「借金」を完済してお釣りがくるというバクチのような状況です。手元に現金のない出版社が、このバクチからおりるということは倒産を意味します。「売れない」と判断された書籍のことは忘れて、次の書籍に賭けるしかありません。

こうして借金に追いまくられながら一攫千金を夢見る出版社群が、次々に新刊書籍を粗製乱造した結果、毎日200冊も新刊があるというトンデモない状況が生まれてしまったわけです。前回書いたように書店に並ぶ日数もどんどん短くなっており、本当にその書籍を必要としている人の眼に触れることもないまま返品されています。新刊書籍の部数にして4割が返品され裁断されていると言われます。この業界構造の弊害は10年以前から指摘されてきましたが、結局内部からは変革できないまま、ついに電子書籍元年を迎えてしまいました。恐らく、この商慣行は長くは続かないことでしょう。

さて、我がロハスメディアは、新しく規模の小さい出版社なので、そもそも取次が売上金を前払いしてくれる対象になっていません。このため一時に多額の現金を得ることはできない代わりに、前払い分を返せと言われることもありません。地道に長期間かけて1冊を丁寧にプロモーションしていくことができます。多くの人の思いが宿った書籍を、大事に売っていくことができるのです。負け惜しみのように聞こえるかもしれませんが、「救児の人々」がこうした「新刊スパイラル」に巻き込まれることがなくて本当によかったと思います。これからも、地道に営業活動をしていきますので、皆様よろしくお願い申し上げます。

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