黒岩知事大いに語る。(現場からの医療改革推進協議会シンポ 傍聴記1)

投稿者: 堀米香奈子 | 投稿日時: 2011年11月07日 07:42

昨日、白金台にある東京大学医科学研究所で、「現場からの医療改革推進協議会 第6回シンポジウム」 (2日目)が開催され、そのなかで、ポリオを中心とするワクチン行政について2時間のセッションが設けられました。今をときめく黒岩知事はじめ、興味深いシンポジストの面々に惹かれ、私も出かけてきました。

まずはその1人目のシンポジスト、黒岩祐治神奈川県知事の話を振り返ります。

ちなみに、このシンポジウムの模様は後日、インターネットでも見られるようになるそうです。
また、このポリオワクチンに関するセッションの司会進行は、ロハス・メディカルでも、個人的に下の子の不活化ポリオワクチン接種等でも、大変お世話になっているナビタスクリニック立川院長の久住英二氏でした。久住氏の紹介で、黒岩知事が壇上に上りました。


黒岩知事の話は、自身の掲げる「神奈川県から医療のグランドデザインをつくる」というスローガンを何としても達成しようとする熱意と決意、そしてそれを本当に達成できそうな勢い、あるいは着実に達成への第一歩を踏み出している自信に満ちていました。


知事自身は、知事となる前の1年半、厚労省の予防接種部会で委員を務め、その当時から日本の予防接種行政のあり方に関してはおおいに疑問を感じていたとのこと。しかし、ワクチン後進国である現状を改善すべく様々なワクチンの導入について「早く決断を!」と声を上げ続けたにも関わらず、ああでもない、こうでもないと理由をつけられて訴えは「無視」され、知事は部会メンバーの中で「孤立していた」そうです。しかしその1年半で、日本のワクチン行政のお粗末さ(遅々として進まない議論と意思決定、患者不在の政策決定等)に実際に触れ、痛感したからこそ、今回の神奈川県独自に不活化ポリオワクチンを導入するという前例のないアクションにつながったと言います。


とはいえ、公式発表にいたるまでは、噂どおり、まったくもって容易な道のりではありませんでした。黒岩氏は、神奈川県知事となってまず、不活化ワクチンの導入について「国がやらないなら県でやりたい」と県庁で意向を表明。しかしやはりというべきか、なんだかんだと理由を付けて、事務方はまったく動きませんでした。「小児科学会から、県医師会といった全ての医学界が反対しています」と。「神奈川県だけ実施したら、他からも希望者が押し寄せて大変なことになる」「あと1年半もすれば定期接種化されるのだから、待てばいいじゃないか」・・・etc(医療界が反対しているとなれば、県が及び腰になるのも想像に難くはありませんけれどね)。


しかし知事は食い下がります。「だったら県だけで、県の関係の医療機関や医療関係者(医系技官のようなスタッフ)を使ってやればいい。ワクチンも県(の関係の医療者)が個人輸入すればいい」。それでもなお、事務方は動きません。「万が一のときの、補償がない」云々。それに対して知事も「その旨の同意書をとればいい。そして、もちろん万が一の場合は誠実に対応すると明言する」と、道を切り開き続けます。


ついに、第1案を事務方が持ってきました。「やります!県内の1病院で、1日あたり5名」。お話にならない少なさです。知事も「なんなんだ」と、当然ボツ。そんなこんなのやりとりを経て最後にようやく、知事の熱意が伝わり、「事務方も腹を括った」と言いいます。県内5箇所で、17000人分の接種を目指す方針が決まり、発表に至りました。


公式発表の前に情報が出て一斉報道とならなかったこともあり、発表直後は、黒岩知事が思い描いていたような国民的議論にはすぐに発展しませんでした。しかし、そこへ思わぬ助っ人(結果的に、ですね)が入ります。小宮山厚労大臣です。神奈川県独自の不活化ワクチン導入に対して、「望ましくない」と公に批判したのです。これで一気に「神奈川県VS国」という分かりやすい構図が出来上がり、マスコミが飛びついてきました。マスコミ出身の黒岩知事にしてみれば、マスコミとはそういうもの。まさに、してやったりというところです。ここぞとばかりに、ワクチン行政とその改革は「母親の気持ちになって」「政治主導で」推し進めねばならないことを強調。そもそも黒岩知事に言わせれば、小宮山発言も「厚労省の役人が書いたことそのまま」だということが、手に取るようにわかるそうです。大臣は役人の思うまま動いているだけ、ということ。ですからそれを乗り越えるのが「政治主導」で、そうでなければ何も変わらない、と。というわけで国に対し、「1年半後になるというなら、それを前倒しし、出来ないなら緊急輸入しろ(過去にポリオ生ワクチンを緊急輸入したこともあるではないか)」という要望の提出にもつながりました。提出の場には、小宮山大臣は引っ込んでしまって出てはこなかったようですが・・・。


ただ、黒岩知事としては、もっと他県が追随してくると見ていたのですが、現実はそう簡単ではない様子。なぜでしょうか?先日の関東知事会(神奈川のほか1都9県)でも黒岩知事は、未承認の不活化ワクチンを早期導入するよう国に要望することを提案しましたが(関東知事会として要望するかどうか最終判断はこれから)、神奈川県のように独自の緊急措置に踏み切ろうという県は出てきませんでした。全国でも神奈川以外にありません。これは、独自の未承認ワクチン輸入・接種というのは、やはり県の行政の範疇を超えているから、ということにつきます。神奈川県の今回の施策は、その一線を越えてしまっている。このことからしても、神奈川県の職員がどれだけの覚悟で、まさに「腹を括っている」のかが分かります。正しいことをやろうとしているという自負があるからこそ、県の職員にも決断できたのだろうと思いますが、それにもまして、それだけのリーダーシップを黒岩知事が発揮しているということですね。


さて、神奈川県での不活化ワクチン導入をめぐる県内部の攻防(?)について、実はセッションの一番最後に、黒岩知事からスペシャルゲストが紹介されました。県の保健医療部長である中澤氏です。要するに、県独自の不活化ポリオワクチンに抵抗していた医療分野の事務方のトップ。しかし、中沢氏、そして神奈川県庁の事務方はもはや“障壁”ではありません。神奈川県独自の不活化ワクチン導入の功労者となるべき人々であり、黒岩知事にとっては盟友に間違いありません。黒岩知事自身も、行く先行く先で中沢氏らの決意と行動力を褒めて回っているのだとか。2人の信頼関係は、聴講席にいる私たちにもしっかりと伝わってきました。


その中沢氏によれば、現在、1日もはやく不活化ワクチンの接種を始めたいと、「鋭意調整中」。病院や国、ワクチンの業者、やはり決断し発表しても、調整しなければならない先や事柄が山ほどあるのですね。そして、当初、事務方らが難色を示した理由はやはり、費用、補償制度の問題に加え、市町村で生ワクチン接種をきちんと実施している現状がある、という点。つまり国からの委任事務として定期接種を行っている市町村との関係、調整の問題だったようです。もちろん中澤氏個人の考えとしては、生ワクチンによって被害が生じる率そのものは一般的な予防接種と比べて特に大きくないものの、他にもっと安全な方法があるのに使わないのは問題がある、ということでした。


ここで黒岩知事から鋭いツッコミが入ります。「厚労省へ行ったら健康局長から怒鳴られた、という噂があるけれど本当ですか?」(←会場はどっと沸きました。)中沢氏いわく、「怒鳴られたということではなくて、予防接種法第3条に反するのではないか、という点について“議論”はしました」とのこと。黒岩知事も笑いながら「怒鳴られたんなら、怒鳴り返そうと思ったんだけど」。黒岩知事のことですから、まんざら冗談だけでもなさそうですよね。


黒岩知事は話の途中何度か、この都道府県初の試みを決定する過程について、「3ヶ月かかってルビコン川を渡った」と表現していました。そうして、ことは動かせば動くのだ、という自信を得たようでした。まさにそういうことなんだと思います。「(国ではなく)神奈川県から医療のグランドデザインを」「神奈川をワクチン先進県に」という強い思いに、今では、当初は“けんもほろろ”な反応を示した神奈川県医師会も賛同してきているとのこと。先にもありましたが、小宮山大臣の懸念発言(=厚労省の意向そのまま)がかえって助け舟になり、世論を喚起して黒岩知事率いる神奈川県の画期的な取り組みを後押しする結果となってきていますね。厚労省も苦笑するしかない、というところでしょうか。今後の動きからも、まだまだ目が離せません。

(つづく)

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コメント

いつも批判されてばかりいる、
あるいは、
縁の下の力持ち

中沢保健医療部長が会場の拍手にちょっと照れ笑いを浮かべている姿に、実のところ感動しました。

黒岩さんの粋な計らい、と思いましょう。

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