第3回不活化ポリオワクチン検討会(2) 麻痺患者は取り残される?

投稿者: 堀米香奈子 | 投稿日時: 2012年04月25日 11:23

引き続き、第3回不活化ポリオワクチン検討会のご報告です。


昨日は【①4月承認なのに、なぜ9月まで切り替えを待つのか】【②今春の生ワクチン定期接種は、接種率が相当下がるのではないか】という疑問について、検討会の議論に沿って考えてみました。今日はそれらにも関わってくる【③供給量は本当に足りるのか、医療機関窓口で混乱は生じないのか】【④4回接種に増えて、ますます接種スケジュールがタイトになる】という問題と、【⑤すでに生ワクチンで被害を受けた人たちは忘れ去られていかないか】という懸念について書留めておきたいと思います。

まず【③供給量は足りるのか、医療機関窓口で混乱は起きないのか】について、気がかりはやはり春の接種率低迷にともなう秋の不活化ワクチン接種希望者の増加です。前回もご報告したように厚労省側の示した数字では、不活化ワクチン需要量については春の未接種者分も「+α」でカバーしているということでしたが、ほんとうに大丈夫なのでしょうか。


昨日の繰り返しになりますが、

● 平成24年度末の時点で、ワクチン需要量は367.9万回分+α。(367.9万という数字は、平成23年度に接種対象だったが受けなかった人と、平成24年度の対象者(秋)の合計=133万人×2回分ちょっと。+αは、春の接種対象者で受けない人が多ければ、そのぶん増える)

● 一方、平成24年度末時点でワクチン供給予定量は、477万回分


ここで注目すべきは、上記の数字が「平成24年度末時点で」であることです。9月1日の接種開始時点で上記の供給量(477万回分)が用意できるわけではないのです。もちろん医療機関での接種能力を考えれば全て9月1日に用意しておく必要はないのですが、それでも殺到すればどうなるのでしょうか。これについて事務局は「初回については148万回分を用意できる予定です。今のところ+α分を見込んでもまかなえると考えていますが、
春の接種辞退者については不確定要素です。特に2回目以降の接種者が9月などに一気に殺到すると、一時的に不足することもありえます。ただ、いずれにしても毎月50万回分を生産していく予定なので、年度末までには全ての対象者に接種できる見込みです」と説明しました。


要するに、年度末までには全員打てるけれども、9月の開始後すぐには混乱がおきることもありえる、ということをはっきり言っています。しかし、「いずれにしても年末までには皆さん打てますよ、という点については、きちんと国民に対して国として早い段階で国民に発してほしい」と発言したのが、小森構成員(日本医師会常任理事)でした。「9月いっぱいで148万回分、毎月50万回分で足りますね?」と念を押し、「新型インフルのときは、足りない、打てない、という懸念から、たくさんの医療機関に多くの予約を入れる人も出てきてかなり混乱が生じました。そうならないようにしていただきたい」と現場の懸念を具体的に伝えて要望しました。


一方、一部の自治体や現場の医師は、こうした混乱をすでに覚悟しているようでもあります。

坂本構成員(川崎市健康局医務監)からは「希望者が医療機関に殺到した時に、接種できる優先順位などを希望者に対して示せないか」という要望がありましたが、廣田構成員(大阪市大大学院教授)はじめ「不可能」などとして否定的な意見が多く、外山健康局長も「新型インフルの時とは違い、今まさに流行っているわけではないですし、経験上、優先順位をつけるとまた守れる守れないでかえって現場に混乱が生じるのでは。あくまで自然体で、自然に、自治体や現場でやっていただければと思うのですが」と発言。一理ある部分もあると思う反面、なにが「自然体で」「自然に」なのか、正直さっぱり分からなかったのですが、続く保科構成員(日本小児科医会会長)の発言でなんとなく分かりました。「自然に、流れていくだろうと思っています。来た人順というイメージで行くしかないだろうと。それはもう「9月1日から」といわれた時点で覚悟しています。きっと鳴り続ける電話を取るばかりで対応に追われることだろうと思っています」。坂本構成員は「それぞれの先生(医療機関)の事情もいろいろなので、コールセンターなど設けてやっていかないとパニックにはなるのでは」と食い下がりますが、岡部座長も「コールセンターの研修が必要にはなるでしょうから、国がサポートしてほしいと思います。集団接種からただ、いずれにしてもその後どんどんワクチンも出てくるのだから、落ち着いてくるでしょう。とにかく急がないと大変危険だというワクチンではないことを周知して、冷静に対処してほしいと思います。」と締めくくりました。


結局、ちょっとした混乱は生じるけれども、想定の範囲内ですから諦めましょうということのようです。いくら騒いでもないものはない、打てないものは打てないけれど、年度末までにはみなさんなんとかなりますよ、と言うことらしいです。ちなみに、不活化ポリオワクチンの接種間隔は、省令では初回接種については「20日から56日までの間隔をおいて3回」と定められる予定です。それが医学上、つまり免疫を確実につけていくために望ましいからです。しかし、この導入期にあっては特別に、この56日の制限を取り払うそうです。ここでもやはり行政上の理由です。ですから「年度末にはなんとかなる」とのんびりしたことを言っていられるわけですが、そんなにのんびりしていて免疫のほうもきちんとなんとかなるのか・・・そもそも赤ちゃんは免疫がつきにくいから3回も打つのですよね?


そこで関係してくるのが【④4回接種に増えて、ますます接種スケジュールがタイトになる】という問題です。現状でさえ、ヒブや小児用肺炎球菌ワクチン、ロタワクチンと次々にワクチンが導入されて(特に助成が始まって以降)、乳児のお母さんや医療現場は大変なことになっています。そこへさらに2回プラスされるのです。不活化ワクチンですからほかのワクチンとの間隔は1週間ですが、それでも全てのワクチンをきちんと受けるためには、1度に1本しか打てないとすれば、生後2ヶ月から1度たりとも風邪も引けないのです。これは絶対に不可能なことは、小さいお子さんをお持ちのお母さんなら全員がお分かりのはずです。


早い話、同時接種がますます重要になる、ということです。予定では同時接種については厚労省の通知で「医師が特に必要と認めた場合に行うことができる」と示されるようです。これまでの同時接種の議論から、まったく前進する気配がありません。しかし現場や自治体としても、今回の不活化ポリオワクチン導入は転機となると見ている向きもあります。


昨日の検討会でも、齋藤構成員(新潟大学教授)からの「三種混合(DPT)、単独不活化ポリオワクチン、生ポリオワクチン、それぞれ今までに打ったものによって、今後いろいろな組み合わせが出てくるものの、いずれにしても同時接種していかないと無理です」という発言を皮切りに、同時接種の話題になりました。保科構成員(日本小児科医会会長)からは「現状では、スケジュールがますます立て込んで、1つで打つタイミングをはずすと、すべて立て直さなければならず、かなり大変です。自治体でも講習などを医療機関や医師向けにやらないと、かなり混乱してミスがでるのではないか。実際、OPVの接種率は実感としてかなり下がっていて、2回目接種について相談を受けることはあっても、1回目接種の人は聞きにくることさえもうないです。スケジュールの組みなおしで頭が痛い。医療機関としては、本当は秋の接種くらいまでは従来どおり集団接種だとありがたい」という本音も出てきました。さらには、「この先、4種混合(DPT-IPV)が導入された際に、単独IPVやDPTとの兼ね合いでいろいろな接種パターンが出てくると、接種を請け負う医療機関との価格交渉も複雑になって大変。自治体としては、もとからIPVと三種混合を同時接種していれば価格交渉もスムーズに行くはずなので、ぜひ同時接種を基本とできないか」(坂本構成員)という、そんな理由で同時接種を求める声も上がりました(そういう事情もあるのか、と妙に感心)。


岡部座長も「今後、同時接種は制度として、予防接種部会などでも検討されるべきことだと思います。現在は『医師が特に必要と認めたとき』となっていますが、これを『医師集団が認めたとき』と解することも許されるでしょう」と同時接種を推す発言。齋藤構成員が重ねて「そもそもこれはDPTとIPVだけの問題ではありません。ではほかのワクチンはどうなのか、となります。ワクチンで予防できる病気はこれだけあって、そのワクチンを確実に適切なタイミングで打つには同時接種は必要な医療行為です」、中野構成員も、「ワクチンの基本は接種できる月齢になったら、打てるものからどんどん打っていくことです。そうして一刻も早く免疫をつけねばなりません」として、同時接種については全会とも推進の方向で異論ないようでした。


さて最後に、私が個人的に危惧している問題でもある【⑤すでに生ワクチンで被害を受けた人たちは忘れ去られていかないか】ということについてですが、その前に、検討会でも一番最後に岡部座長から「それでは最後にお話を聞きたいと思います」と紹介のあった、丸橋構成員(ポリオの会)と小山構成員(同会会長)の発言の要旨を書き出してみたいと思います。


(丸橋構成員)

●お話を聞いていてIPVへの切り替えの大変さはわかった。ただ10年前に医師会から切り替えの要望が出されていたのに、以降これまでに認定されただけでも15名がワクチン関連麻痺を発症している。この現実を踏まえて、お金の話もあったが、今なおなぜ日本のワクチン行政は遅れているのか。世界で通用する日本のワクチン行政を求めたい。

●今回の不活化ワクチン導入で、生ワクチンは危険と国が認めたことになる。小山さんが先にも言ったように「やめて」と言いたい。しかし実際問題として、生ワクチン接種を簡単に中止できないのもわかる。しかし、判断するのは国民でありお母さんたち。今回、9月1日に不活化ワクチン導入とアナウンスされたことで、この春打つ選択をする母親がどれだけいるのか。これが国民の声であり、現実。


(小山構成員)

●被害を出したくない。とにかく生ワクチンはもう接種をやめてほしい。やめることの危険性も分かりながら、やめてほしいと言わねばならない。これも理解してほしい。

●今回は4種混合(DPT-IPV)にとらわれているようだが、世界ですでに使用されている5・6種類混合のワクチンであれば、医療費も削減となり、スケジュール管理も楽で接種漏れもなくなる。行政が先導してしっかり進めてほしい。

●IPVの承認、本当にありがとうございます。ずっと待っていた。丸橋ともどもありがとうございます。


私はお二人の発言に、複雑な思いを感じ取りました。あるいは、少なくとも私は複雑な思いになりました。中でも、小山会長の「ありがとうございます」という言葉にどうしても違和感を覚えてしまったのです。もちろんこの「ありがとう」は、「ついに不活化ポリオワクチンが定期接種に導入される」「生ワクチンによる被害が9月以降は出ないだろう」ということでひとまずの安堵感もあり、少しでも駒を前に進めた行政への礼儀として発せられたものだろうと思います。実感として「ありがたい」という思いはあったのかもしれません。しかし本当は、この不活化ワクチンの導入は、ポリオの会の方々がそこまで頭を下げてお礼を言うべき事柄ではないはずですよね。国が国民の健康を守るために当然やるべきことを今までしていなかったのを、ようやくひとつクリアしただけのことだからです。まして、生ワクチンで被害を受けた人々にしてみたら、ぜんぜん「ありがとう」ではなくて、むしろ自分たちがこれまでの国の不作為について謝ってもらっていい立場なのです。


まして、私が個人的にずっと危惧している、導入後の世の中の話など、出てくる気配などどこにもありません。現在でさえ、ポリオによる麻痺と認定されている人は、ほんの氷山の一角です。この秋から新たな患者はいなくなります。しかし麻痺を発祥した赤ちゃんは、数十年、半世紀以上、一生麻痺と付き合うことになります。さらには、いったん麻痺症状が軽減したり消えたりしても、数十年後にポスト・ポリオ症候群を発祥したときには、日本では(もしかしたら世界でも)ポリオ麻痺患者はほぼいない世の中となっています。そのときに、彼らは自分の病気をどう認識し、さらには人にどう理解してもらうのか。記録のない人は自分でも原因不明の麻痺と闘うことになりますし、おそらく医療者でもそうと気づいて特定することは難しいでしょう。


この検討会では、そんなマイノリティーの事情に時間が割かれるはずもありません。それは分かっています。でも、そんなマイノリティーの今後の人生を国として保障してくれるシステムはほとんど機能していなくて(だってほとんど認定されないのですから)、今後も国として特別な対応をする姿勢もありません。国の不作為によって被害を受けているのに責任も取ってもらえないなんて・・・。「自らの作為・不作為によって生じた事象の責任を取る」のが大人の基本だと思っていました。あるいはその考え方はまだ機能しているのかもしれませんが、立証責任が被害者側にあって、それは実際かなり困難なことが多いわけですから、結局は国に逃げ道が用意されているんですよね。


お二人の発言の後、検討会はまもなく終了しました。お二人の発言を受けた特別なコメントも、議論も、やはりありませんでした。正直、岡部座長がお二人を紹介したときから、それは想像がついていたことでもありました。大変失礼だけれども、岡部座長の紹介の仕方も悪く言えば取ってつけたようで、いわゆる“ガス抜き”として一応うかがっておきましょう、という様子に見えてしまいました。全てはシナリオどおりなのだなあ、と思うばかりでした。岡部座長が一番最後に「まとめると、事務局からの提案は受け入れ、時期的にはもっと早くしてほしいところではあるけれども、諸々の事情から9月1日は妥当ということでよろしいでしょうか」ときれいにまとめて第3回検討会は閉会。事務局からはいつもどおり、「次回は改めて日程調整のうえご連絡します」と事務連絡があっただけでした。9月1日という期日が設けられたことで、あとは脇目も振らずにずんずん導入に向けて調整を進めるだけになったわけです。そうしていかにも官僚的に作業が進んでいくのは、それはそれで必要なことですが、ポリオ麻痺の当事者側にいる私にしてみると、すっかり取り残されたような複雑な気分でした。こうしてやっぱり置き去りにされてしまうんだなあ、と。

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コメント

お気持はもっともです。
しかし、報道のバランスをも御考慮ください。
ワクチンという言葉の語源となった「牛痘」の時代には行政の責任うんぬんどころではない、病気そのものとの闘いでした。今、患者さんは、病気そのものにしてもワクチンの副作用にしても、「被害者」感情があまりにも強く、恨む相手が違うのでは?と、つい、言わずもがなのことを言ってしまいそうになります。医者なら、役人なら、患者や国民の生命を救って当たり前、それに失敗したら非難される?ううーん。確かに、組織の怠慢や不作為を非難するのも報道の使命でしょうが、病気そのものがあまりにも強敵である、無傷で勝てる相手ではない、だから戦死者戦傷者は税金で救済していきましょう、という、制度上の議論になるわけで、完全な制度というものもこれまた存在しません。医療の限界、行政の限界、その中で前進していくことへの冷徹な評価をくれぐれもお願い申し上げます。敵は「自然」なのであり、津波や台風と何ら変わらない猛威なのであり、微力な人間は負ける運命なの
です・・・・。ですから、行政の努力をねぎらった、ポリオの会の態度に、大人だなあ、と思うのは、いけないのでしょうか。

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