全国登録で遺伝性乳がん卵巣がんの実態把握へ

投稿者: 堀米香奈子 | 投稿日時: 2014年12月25日 07:57

平成26年12月20日(日)、がん研究会で「遺伝性乳がん卵巣がん-遺伝子情報をがんの診療に活用する-」と題したセミナーが開かれました。日本では毎年数千人が遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)を発症すると推計されますが、国内データ不足と診療体制の未整備とが悪循環に陥っています。実態把握と診療体制の整備をめざした研究が、今年度から始まっています。

年間数千人がHBOCを発症


今回のセミナーは、厚生労働科学研究(がん政策研究)推進事業「わが国における遺伝性乳癌卵巣癌の臨床遺伝学的特徴の解明と遺伝子情報を用いた生命予後の改善に関する研究」の一般向け発表会として開催されました。
http://www.jfcr.or.jp/hospital/department/clinic/central/genetherapy/pdf/image_20141220.pdf


研究分担者で登壇者の一人、札幌医科大学の櫻井晃洋教授によれば、日本人の乳がんの約5%、卵巣がんの15‐20%がHBOCによると推計されます。2014年に新たに発症した患者は、乳がんは約86700人、卵巣がんは9900人と見込まれることから、1年間に数千人がHBOCを発症している計算です。原因遺伝子として有名なのがBRCA1・BRCA2で、変異陽性の場合、一生のうちに乳がんや卵巣がんを発症する確率は、それぞれ40‐70%、10‐50%と推測されます。がん研有明病院の新井正美遺伝子診療部部長によると、BRCA1陽性だと、35%の人は40歳未満で発症し、75%は50歳未満で発症するそうです。発症していなくても子に5割の確率で遺伝します。


その他、研究班メンバーの参加している日本HBOCコンソーシアム(http://hboc.jp/index.html)
では、HBOCの特徴として以下を挙げています。
http://hboc.jp/downloads/pamphlet.pdf

・若年で乳がんを発症する
・トリプルネガティブ(エスロゲン受容体やプロゲステロン受容体を持たず、HER2発現がないタイプ)の乳がんを発症する
・両方の乳房にがんを発症する
・片方の乳房に複数回がんを発症する
・乳がんと卵巣(卵管、腹膜を含む)がんの両方を発症する
・男性で乳がんを発症する
・家系内にすい臓がんや前立腺がんになった人がいる→遺伝性の可能性
・家系内に乳がんや卵巣がんになった人がいる→遺伝性の可能性


国内データ不足が生む悪循環


問題は、日本人のHBOCの実態把握が遅れていることです。実は上記の症例数の推計も、ベースとなる発症率には米国のデータが使われています。


国内症例データの不足の大きな原因の一つが、BRCA1・2遺伝子検査は保険が使えない、いわゆる自費診療であり高額であることだと、昭和大の中村清吾教授・日本癌学会理事長は説明します。現在、BRCA1・2遺伝子検査は20万~30万円程度の自己負担で行われています。2012年に、HBOC と見られる患者についてのBRCA1・2遺伝子検査を「保険外併用療養」として行えるように先進医療申請が行われたものの、日本人のデータ不足から認められませんでした。費用が高額であるために検査を受ける人がごく少数にとどまっており、そのためにデータが不足して国の補助が得られないという、悪循環に陥っています。


注意しなければならないのは、「祖母は老衰で亡くなった」と思っていても実は卵巣がんの腹膜転移を起こしていたり、「骨のがんで亡くなった」というのが本当は乳がんの骨転移だったりと、核家族化の中で親戚の病気まできちんと把握できず、「思い込みの家系図」で安心していることも多いこと。正しい把握が必要です。


そこで研究班は、来春をめどにHBOCの全国登録事業を開始します。症例データが少ないために国の補助が下りないというところから悪循環を断ち切ろうというわけです。


診療体制の多面的整備をめざして


研究班ではこのほか、予防的切除の安全性・生存率や、乳がん・卵巣がんのMRI検査の有用性、HBOCに関与しているBRCA1・2以外の遺伝子変異、遺伝子検査やカウンセリングの人材育成等についても研究を進め、HOBC診療体制の整備をめざします。


乳房の予防的切除については、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが手術を受けたことを公表して以来、どこの乳腺外科でも問い合わせが急増しているようです。ただ予防切除以外にも、乳腺MRI検査を受けながら様子を見ていくのも選択肢。亀田京橋クリニックの戸崎光宏放射線科部長によれば、乳腺MRIは、従来のマンモグラフィーや超音波検査では発見しづらかった乳がんまで見つけられるとあって導入が進み、機械の台数は実は日本が世界一なのだとか。問題はやはり自費診療であり検査費用が高額だという点です。一方、卵巣がんの場合は、骨盤MRIが未整備で、他の選択肢としての経口避妊薬の効果も「考慮」できる程度であるため、予防的切除が行われていると、慶應大学産婦人科の青木大輔教授から説明がありました。


遺伝子診断やカウンセリングに関しては、費用が高額であること以外にも、遺伝子差別や偏見の問題が、北里大学大学院の高田史男教授から指摘されました。偏見があるために検査さえも躊躇することになっては本末転倒です。正しい理解のためには、まずは正しい知識を得ることが大事ということです。また、遺伝子検査を受けたとしても、どこでフォローあるいは治療してくれるのか、医療体制も未整備です。そこで、今回のセミナーを後援している日本乳癌学会、日本婦人科腫瘍学会、日本人類遺伝学会の3学会に、日本産科婦人科学会と日本遺伝カウンセリング学会を加えた5学会が連携して、HBOCを診療できる医療機関の施設認定制度(遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度)の創設を検討していると言います。


余談ですが、私は母方の祖母を乳がんで亡くしています。最初に見つかったのは50歳を過ぎた頃とさほど早くなかったものの、乳房切除して10数年後に反対側にも発症しました。それでも母も伯母も60歳を過ぎても発症していないという安心材料もあって、普段はほとんど思い出すこともありませんでした。それでも今回、陽性の人の乳がん・卵巣がんの発症率は30~40代から急増、陽性の人は陰性の人より15年早くから検診・対策を、という話を聞き、遺伝子検査を受けてみたくなりました。もちろん、費用を聞いてあっさり諦めましたが・・・。必要とする人が必要とする検査や治療を受けやすい費用に収まるよう、またHBOCへの理解が進むためにも、日本人でのエビデンスを積み重ねられていくよう期待したいと思います。

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乳がん患者です。自身は、2004年6月にしこりに気付き、2aにて左乳房摘出している。私は、子宮内膜症で(病気が判明せず20歳から闘病し)1983年8月に、東京女子医大にて卵巣嚢腫、子宮内膜症が判明しました。しかし、乳がんは自身13歳頃より乳房の変形に気付いていた。初潮は11歳。東京女子医大では初診で教授が患者全員の胸部触診も、産婦人科では試みていたのですが。しかし、私の乳がんは見つかっていなかった。そうした体験も乳がん患者には起こりうるようです!

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