自分たちの食糧の源を守らない日本人

投稿者: 堀米香奈子 | 投稿日時: 2017年08月03日 01:11

今年4月21日、「主要農作物種子法を廃止する法律」交付されました。施行は来年4月1日です。内閣が法案を提出したのが2月10日、そこからワイドショーが森友学園問題で賑わっている間に、しれっと、衆議院農林水産員会~衆議院本会議~参議院農林水産委員会~参議院本会議と、(形式上とはいえ)4つもあった関門を、いとも簡単に通過して成立してしまいました。政治に疎い私でも、さすがに不甲斐なさと不安とを感じずにいられません。

種子法とは何だったのか?


「主要農作物種子法」(以後、種子法)とは、一言で言えば「稲、麦、大豆の種子生産を都道府県に義務付ける法律」です。制定されたのは戦後ほどない昭和27年。背景を調べていると、種子法廃止法案に関連して農水省が作成した概要説明資料に以下の記述がありました。

戦後の食糧増産という国家的要請を背景に、国・都道府県が主導して、優良な種子の生産・普及を進める必要があるとの観点から制定


要するに、戦後の自国の農業を振興し、もって自国民を守り、盛り立てようとする「国家的要請」として、公的種子事業が制度化された、ということです。


具体的には種子法では、稲・麦・大豆の種子を対象とし、

●都道府県が自ら普及すべき優良品種(奨励品種)の指定
●原種と原原種の生産
●種子生産ほ場の指定 (ほ場=圃場とは、農園のこと)
●種子の審査制度

などについて、都道府県が役割果たすべきと規定しています。実際、この法律に基づいた公的種子事業により、「種子生産者の技術水準の向上等により、種子の品質は安定」したと、農水省は認めています。
確かに、例えば米作だけを見てみても、各都道府県の品種改良の努力がブランド米として実を結び、減反やコメ自由化などの波を乗り越える原動力となってきたように見えます。私が子供の頃は、お米と言えば新潟のコシヒカリと、それに次ぐ宮城のササニシキ、と2大ブランドが台頭していました。その後にあきたこまちやひとめぼれなどといった新興ブランドが各地から頭角を現したり、旧ブランドに取って代わったりして、今では、様々な銘柄がスーパーの店頭に並んでいます。昔はお米の穫れるイメージの全くなかった北海道からも、ゆめぴりかやななつぼしといったブランド米が登場し、北海道米はすっかり我が家のスタメンになっています。


ちなみに、一部ですが、お米の親戚関係は以下の図のとおり。意外な血のつながり(?)で面白いですね。これら誰もが知るブランド米が、種子法に則って設置された各都道府県の農業試験場で数多く誕生してきた、というわけです。

おコメの品種.gif


廃止しなければいけなかったのか?


しかしながら、こうして戦後65年間、日本の食卓を支えてきたともいうべき種子法は、国民からほとんど注目されない間に、あっさりと廃止されてしまいました。


農水省では、その「背景」を以下のように説明しています。
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/nougyo_kyousou_ryoku/attach/pdf/nougyo_kyoso_ryoku-19.pdf
http://www.maff.go.jp/j/law/bill/193/attach/pdf/index-13.pdf

●主要農作物種子法に基づく奨励品種に指定されれば、都道府県はその種子の増産や審査に公費を投入しやすくなるため、公費を投入して自ら開発した品種を優先的に奨励品種に指定。

●一方、民間企業が開発した品種は都道府県が開発した品種と比べて、特に優れた形質などがないと奨励品種には指定されず、例えば稲では、民間企業が開発した品種で、奨励品種に指定されている品種は無い状況。

●その結果、都道府県が開発した品種は、民間企業が開発した品種よりも安く提供することが可能。

●このように、都道府県と民間企業では競争条件が同等とはなっていないため、民間企業が稲・麦・大豆種子産業に参入しにくい状況となっている。

●都道府県による種子開発・供給体制を生かしつつ、民間企業との連携により種子を開発・供給することが必要。


これだけ見ると、「なるほど、そうかも」と思ってしまいそうですが、これに対して京都大学大学院経済研究科の久野秀二教授は以下のように指摘しています(新聞「農民」2017年3月6日付)。

●この主張は、農業の現場から出たものではありません。政府は、他の生産資材については高価格体質を理由に「規制改革」を迫っているのですが、種子については低価格が問題だといいます。

●仮に、優良な民間育成品種の普及が妨げられているとすれば、例えば奨励品種の指定方法など運用改定で対応すればいいのであって、それ自体は問題なく機能している種子法を廃止する理由にはなりません。


また、久野教授は、3月27日に有志の呼びかけで開催された「日本の種子を守る会」集会でも以下のように指摘しています。(「農業協同組合新聞」2017年3月30日付

●国家戦略として位置づけるのなら民間に任せるのではなく、より公的な管理が重要になるはずではないか。そしてそもそも生産資材価格の引き下げがテーマだったはずなのに、低廉な種子を供給してきた制度の廃止は、種子価格の上昇を招くのではないのか

●法的な根拠がなくなってしまえば都道府県の主要農作物種子事業の予算も根拠もなくなる。安定的に種子を確保できるのか。あるいは都道府県間での競争の激化も考えられる。そうなると、種子の需給調整を全国で図ることも困難になるだろう

つまり、種子価格の観点から優良な民間育成品種の普及の妨げを主張する農水省の見解は、矛盾する結果を招くことが容易に早々でき、種子法廃止の必然性も必要性も説明できていないのです。


だから人はこれを「モンサント法」と呼ぶ


今回の種子法廃止では、むしろ懸念材料の方が明確です。上記の通り、種子の価格高騰や安定供給を招くのではないか、ということに加え、日本の農業のあり方、農家の存在意義を変えるターニングポイントにもなりかねないのです。


再び久住教授の指摘です。

●都道府県が開発・保全してきた育種素材をもとにして民間企業が新品種などを開発、それで特許を取得するといった事態が許されるのであれば、材料は「払い下げ」で入手し、開発した商品は「特許で保護」という二重取りを認めることにならないか。(同「農業協同組合新聞」)

●公的財産であるはずの遺伝資源をもとに改良された新品種が、知的所有権、育種者権の強化によって一部企業の特許の対象になると、他人が自由にそれを使えなくなってしまいます。(同「農民」)

さらに言えば、そうした特許に守られてビジネスを拡大する「民間」の「一部」企業は、国内の企業とは限りません。それどころか、多くの人が、特定の企業を連想しているのです。

●背景にあるものは、農業の成長産業化の名のもとの政府・財界による新たな農業・農協攻撃であり、また、植物遺伝子資源を囲い込んで種子事業を民営化し、公共種子・農民種子を多国籍企業開発の特許種子に置き換えようとする種子ビジネスの攻勢だ(同「農業協同組合新聞」)

●農作物の素材になっている遺伝資源は人類共有の公的な財産です。民間育種が主流の作物では、中小を含む多くの種子会社が遺伝資源管理の一端を担ってきましたが、そうした種子会社がモンサントなどの多国籍企業によって世界中で次々と囲い込まれてきました。(同「農民」)


実際、今回成立した「種子法の廃止法」は一部で、「モンサント法」と揶揄されています。前回見たように、同社は除草剤グリホサートとそれに耐性を持たせた遺伝子組み換え大豆でビジネスを拡大し、今は小麦の商品開発に力を注いでいるようです。将来的には、アジアで広く食べられているお米に手を伸ばしてくると考えるのが、むしろ自然に思います。


「いやいや、かつてタイ米騒動(相当懐かしいですね。世代がバレます)の時だって、結局は日本のお米は美味しいことを再確認したじゃない」「いわゆるカリフォルニア米はインディカ米でなくてジャポニカ米だけど、やっぱり日本のお米が美味しい。日本のブランド米はそうそう真似できないし、脅かされないよ」などと言うかもしれません。


それほどに楽観はできなかったとしても、確かにお米を買って家で炊いて食べる場合には、銘柄を選んで買う人が多いことでしょう。それについては日本のブランド米は安泰かもしれません。しかし外食や加工食品はどうでしょうか。ブランド米のご飯を売りにしているレストランは別として、普通は安価な業務用米や古米を使っている企業が多いのではないでしょうか。農水省資料によれば、「例えば、『酢の吸収が良い米を好む寿司業界』や『汁通りが良い米を好む牛丼業界』等では、新米の出回り以降も計画的かつ安定的に1年古米が使用されている状況」とのこと。


また、以下のような記事もあります。

●ブランド米 飽食 「最高評価」44銘柄、ひずむ市場
「高値を狙うブランド米の作付けが増えすぎた結果、外食や中食に欠かせない業務用米の生産が減り、必要量をまかなえなくなっている」
「日本経済新聞」2017年2月23日付


ブランド米にこだわらず、価格やコメの性質を重視する業務用に関しては、‟様々な“お米(の種子)とそのビジネスが入り込む余地があるように見えます。


もちろん、お米に限ったことではありません。一部の例外を除いて、外食や加工食品の各商品にどんなお米、小麦、大豆が使われているのか、私たちが知ることはかなり困難です。その意味では、すでに外食の大豆製品には遺伝子組み換え原料が入り込んでいるのかもしれませんが、出された製品を見ても分からないのです。


近い将来、「食糧自給率」という言葉自体が形骸化してしまうのではないかーー。そんな状況にならないか、とても気がかりです。

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