それゆけ!現場リポート①
所要時間は約20分。同じ長屋の数軒隣の家も覗きます。1年前に末期がんの娘さんを自宅で看取ったご両親がお住まいとのこと。長尾医師は、ようやく少し元気を取り戻してきたご両親のことが、気になっていたのだそうです。仏壇の前で、15分ほどお話。グリーフケアも兼ねているといいます。
続いて5分ほど歩いたところにある2階建てアパートの前へ。長尾医師、1階のとある部屋のドアを引っ張ると開きました。異臭が鼻をつきます。以前は「ごみやしき」で、1Kの部屋の中にごみや排泄物が散乱していたのを、訪問診療開始後に片付けたそうです。
認知症もある80歳の男性が、生活保護を受けながら独り暮らししています。診療日以外にも、ついでの時にボランティア訪問として様子を覗きに来るとのこと。軽く世間話をしながら認知症の進み具合を確認し、辞しました。
再びアーケードに戻って10分ほど歩き、裏道に回ると戸建住宅が並んでいます。そのうちの一軒へ。患者は、糖尿病、認知症、アルコール依存症の重なった元自営業の80代男性。介護保険も年金もない状態で、二人暮らしの奥さんが老老介護しているそうです。奥さんも糖尿病を患っています。長尾医師がドアを開けると奥さんが迎えてくれました。一階の玄関脇の部屋に介護用ベッドがあり、本人が寝ていました。
長尾 入るでー、ごめんね遅くなって。長尾やで、入るで~。お母ちゃんー。
妻 こんにちは。
長尾 お父ちゃん、こんにちは。今日はもう一人の先生も連れてきたよ。お父ちゃん、お母ちゃん、どんな感じ?
妻 一昨日は一日中起きとったんやけど、昨日は一日中寝てばっかり(笑)。
長尾 寝てばっかりか、肺炎起こしとったけど、治まったやろ。
妻 うん、ちょっと下がった。
長尾 お父ちゃん、肺炎で危なかったんやでー。
本人 危なかった......
長尾 そうやで、お父ちゃん、危なかったんや。そうなったらあかんで。
妻 そう、危なかったんや、生死の境をさまようとった。
長尾 お父ちゃんな、ゴルフうまくてシングルで、クラブ対抗やインターの選手やってんな。
妻 昔のことやで、ふふふ。
長尾 おばあちゃんも、ここで95歳までみてたな。
妻 ちょっと親子の間が狭すぎるな、おばあちゃんが亡くなったのは、まだ5年前よな。
長尾 介護保険もないしな、なんぼ払ったら介護保険は入れるんやろか。
妻 お金がないから......
長尾 お父ちゃん、危なくなったら入院はしたいか、どないや?
妻 お金がな......。それにこの人、ずっとここで頑張っとった人やから、ここで。
長尾 そうか。お父ちゃん、入院はいやか? 家がいいか?
本人 わしは病気やない。
妻 病気やないって(笑)
長尾 2週間前まで、椅子に座っとったもんな。お父ちゃん、何月か分かる?
本人 11月?
長尾 いや、2月や。正月あったやん。