法令守って人命守らず? 介護現場に、もっと勇気ある議論を~ハート・リング通信㉚
ハート・リング運動専務理事 早田雅美
介護保険制度が施行されて丸15年経過しました。私自身、両親の介護でその初めから現在まで制度のお世話になっていますが、運用には様々な課題があるようです。
訪問介護員(ヘルパーさん)は「医療行為」をできません。ただ平成17年に国が「医療行為ではないもの」の判断を示し、できることがぐんと増えました。例えば、①腋下や耳での体温測定 ②自動血圧測定器での血圧測定 ③入院治療の不要な者へのパルスオキシメータ装着 ④軽微な切り傷、擦り傷、やけどなどについて専門的な判断や技術を必要としない処置 ⑤軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く) ⑥湿布の貼付 ⑦点眼薬の点眼 ⑧一包化された内服薬服用の介助(舌下錠の使用も含む) ⑨座薬の挿入 ➉鼻腔粘膜への薬剤噴射の介助などです。
一方、「痰の吸引」は医療行為として残り、平成24年に「社会福祉士及び介護福祉士法」の一部が改正されて、一定の要件を満たした登録事業所に所属し、研修を受けて許可を得たヘルパーさんは医療者の管理の下でできるようになりました。しかし要件が厳しく、まだまだ登録事業所は少ないのが実情です。
さて、千葉県に住む78歳の寝たきりのお年寄りに次のようなことが起こったそうです。自分で喉の奥に詰まりそうになる痰を出す力がないため、日頃は近くに住む娘さんや訪問看護師さんが枕元の吸引機を使って吸い出しているそうです。ある休日にヘルパーさんがおむつを交換していたところ、激しく痰が詰まって苦しみ出しました。訪問医や看護師がすぐ来てくれるはずもなく、「命の危機を感じた」ヘルパーさんが吸引機を作動させて吸い出しました。自分の親の介護経験があって、吸引機の使い方を熟知していたのだそうです。
問題は、このヘルパーさんの所属事業所が前述の登録を受けていなかったことでした。後日、地域包括支援センターから「二度としないでほしい」「事故があったら、事業所の存続に関わりますよ」と、厳重注意を受けたというのです。この話は、ヘルパーさんを「命の恩人」と考えていたご家族を打ちのめしました。万一の時に吸ってもらえないことの方がリスクだからです。
私の住む地域にも、土曜午後から日曜にかけて吸引や胃ろうの栄養注入に来ていただける訪問看護ステーションが一つもありません。在宅介護で頑張り続けるつもりでいても、明日は我が身と感じます。
法令順守は当然です。介護職の専門的研修の充実も待たれます。しかし、介護を受ける人たちの命は、時として風前の灯となることがあります。道端で前を歩く人が倒れた時に、助けて良いかどうかなどという議論はナンセンスです。同じように介護の現場でも、「緊急避難」の行動まで制限されるようなことがあってはならない、と私は考えます。