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特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高齢化は悪いことではない 2周目の人生も緩やかに現役で

江崎 今の日本の医療制度は、結核に代表される感染症から労働者を守り、経済成長を維持することを目的に整備されました。問題は、主たる疾患の性質が感染症から生活習慣病に変わっているにもかかわらず、医療制度はそのままになっていることです。この結果、健康管理に努めていようが、不摂生な生活をしていようが、病気になれば全く同じように医療費の給付が受けられるのです。

梅村 そうです。

江崎 また、2012年時点で日本には約460万人の認知症患者がいて、2025年には700万人に達すると言われています。慶応義塾大学の研究によれば、2014年時点で認知症に対する医療費は1.9兆円ですが、介護費用や家族の負担も含めたコストの総額は約14.5兆円と推計されています。認知症患者が700万人を超えると、社会コストは尋常でない規模になります。

梅村 単純に掛け算するだけでも大変なことになりますね。

老後の自律を整える

江崎 現在行われている社会保障制度改革の議論は、満杯の客で沈みそうになっている豪華客船に、さらに多くの客をどう乗せるかという話に似ています。多くの問題が噴出する中で、座席が足りないとか、1人あたりのスペースが狭くなるとか、椅子やテーブルの並べ替えばかりを議論しているようなものです。椅子やテーブルをどう並べ替えようと、船が沈むことには変わりありません。必要なのは、どうやって乗船客を減らすかです。

梅村 分かりやすいたとえですね。

江崎 歳をとれば誰もが当然のように医療や介護のサービスに頼るのではなく、リタイアした後も社会との繋がりを持ち続けて自立した生活を送れる、そういう環境をどうやって整えるか、あらゆる観点から考えることが重要なのです。

梅村 理想論としては、その通りですが、簡単ではないですよね。

江崎 もちろん、お年寄りの方々に若い人と同じように働けというのは無理な話です。ただ日本の年金制度は良く出来ていて、標準的な生活レベルの方を前提に計算してみると、リタイア時に数百万円程度の預貯金を持っていれば、100歳近くまで従来通りの生活水準を維持することが可能です。仮に預貯金が少なくても、月に2~3万円程度稼ぐことができれば、十分生活を維持できます。むしろ徒に年金制度の不安を煽ることで掛金を払わない人の増えることが問題です。

梅村 国からそういった具体的な情報提供はあまりないですね。

江崎 特に、子育てを終えた高齢者にとって重要なのは、働いて収入を得ること以上に、社会的存在としての自分の居場所を確保し、社会の役に立っているという実感を持ち続けることだと言われています。介護施設で暮らす高齢者の多くが「何もさせてもらえない」という悩みを持ち、急速に認知症が進行してしまうという現状にもっと目を向ける必要があります。高齢者が緩やかに社会活動や経済活動に関わり続けることのできる環境が整えば、世代間負担論に終始する必要はなくなるのではないかと思っています。

梅村 非常に面白い視点だと思います。ただ、医療業界やとか個々の医療機関から見れば、そうした取り組みが進んだら、船に乗った人たちの面倒をみるという自分たちの仕事が減るのではないかと心配になるのではありませんか。
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