後発医薬品には松竹梅がある~シリーズ・薬の値段、変じゃない?
使え使えと国が言うし、値段も安いらしいから、と後発医薬品(ジェネリック医薬品)のお世話になっている方、少なくないと思います。でも、メリットであるはずの「安い」が本当に徹底されているかを突き詰めると、意外と怪しいのです。
本誌編集発行人 川口恭
国は、後発医薬品のシェア(数量ベース)を今年中に70%、2020年度末までに80%に到達させる目標を掲げています。「患者負担の軽減や医療保険財政の改善に資する(厚生労働省サイトの記述)」そうです。方向性には異議なしなのですが、数量シェア以上に影響の大きそうな数字がなぜか無視されていること、注意喚起したいと思います。
その数字とは、後発医薬品の薬価です。
さて、後発医薬品は名前からも分かる通り、先発医薬品が先にあって、その有効成分の特許が切れる寸前か切れた後に出てくるものです。この特許切れの先発品を長期収載品と呼ぶこともあります。先発品は製造販売する会社が基本的に1社なのに対して、後発品は何社でも参入できます。
先発品は、臨床試験で安全性・有効性を確かめて承認されます。対して後発品では、「有効成分」を先発品と同じ量含み、同じ投与経路、用法・用量も原則的に同じと限定し、「生物学的同等性試験」という簡便な試験で、有効成分の挙動が先発品を基準として一定範囲内に納まっていれば、治療学的に同等と見なされ承認されます。原料や添加物、製法などは異なっていても構いません。
つまり全くの同一ではなく、実際、銘柄によって、また製造工場によって、相当のバラつきが出ます。
ただし、それは後発品の品質が悪い、ということとは違います。「粗悪品」はそもそも承認されない前提になっており、人によっては後発品の方が体に合うことだって考えられます。いずれにせよ、先発品と後発品さらに後発品同士の間で薬そのものの品質上の優劣は存在しないという「お約束」に基づき、後発品は普及促進されているわけです。
一方で、使用経験の蓄積のような、薬に付随する情報の質や量は、先発品の方が圧倒的に優れています。その付加価値がある分、長期収載品が後発品と別扱いされるのは当然とも言えます。
なぜか価格が違う
ここまでを整理すると、買い手側から見た薬の妥当な価格は、後発品については薬の与える効用に見合う金額、長期収載品はそこに情報の付加価値が乗った金額ということになるかと思います。この「妥当な価格」、後発品同士では、そんなに大きく違わないはずです。
ところが、実際には、どうもヘンテコなことになっています。
例えば、コレステロールの治療に用いられるプラバスタチン(メバロチン)10mg錠は、先発品の薬価が84・8円なのに対して、後発品の銘柄によって44・5円、33・7円、20・4円と3つの価格が存在します。まるで松竹梅です。患者が処方箋を出す薬局が「松」を置いているのか「梅」を置いているのかで、薬代は倍違うことになります。
こんなこと知りませんでしたよね?
お約束」違反
なぜ、こんなことが起きるかと言うと、後発品は自由競争という建前と、業界を護送船団方式で守るという本音とが入り混じった、奇妙な薬価制度があるからです。
現在、後発医薬品は、最初に登場する時は機械的に同じ薬価(内用薬で10剤までは先発品の5割)になり、原則2年に1度の改定(引き下げ)時に、薬局への納入競争の結果を反映する市場実勢価格に応じ3段階に調整されることになっています(下図)。
ブツ自体の品質には差がないという「お約束」、「患者負担軽減や医療保険財政の改善に資する」という目的から見て、3段階に分ける合理的理由は全くありません。なぜなら、薬価から仕入れ値を引いた差益の絶対額は、「梅」のものより「松」のものが大きくなりやすく、つまり割高のものの方が薬局に採用されやすくなってしまうからです。それは薬価の高止まりにつながります。薬価が1段階しかなければ、普通は仕入れ値の安い方が勝ち、その連鎖で薬価は改定の度どんどん下がっていくことになります。
もし国が、3段階薬価を正当化するだけの差が後発品同士であると判断しているのであれば、それを費用負担者である患者・国民に説明する必要があります。それがないまま、割高の後発品でもOK、と普及率のみ追求されていることに激しい違和感を覚えます。
6月末に和歌山市の原薬メーカーが、風邪薬などを製造する際に申請と異なる安価な原料を使っていたとして業務停止命令を受けたこと、ご記憶の方もいると思います。このようなインチキをして価格を下げるのは論外なので、インチキが見つかったら一発アウトのような監視と規制は必要です。と同時に、後発品の薬価がどんどん下がっていくよう価格の一本化をしていかないと、「患者負担の軽減や医療保険財政の改善」は絵に描いた餅です。
そして、後発品の「安さ」というメリットが突き詰められることによって、そこに情報の付加価値をまとった長期収載品に対して払って構わない価格というのも、自ずから妥当な所に落ち着いてくる可能性が高いと考えます。それは日本の医薬品産業を強くするため、避けて通れない道のはずです。