最終回 |
|
投稿者: | 投稿日時: 2006年10月31日 14:06 |
「ただ待つしかない」
そう言われ、日々が過ぎていった。
この頃には、傷の痛みもなく、
胃が動かないことと栄養を摂れないこと以外はまったく普通と変わらなかった。
朝6時に病室の窓を開けることから一日が始まる。
眼下には不忍池。その向こうは上野の街だ。
この景色をこうして1ヶ月以上も見ることになるとは思いもよらなかった。
病気になって半年。
入院して3ヶ月。
季節は秋を通り越して冬の足音が聞こえてくる。
振り返れば、激痛とたたかった毎日、
フォアグラ療法で体重を増やし、そして手術。
何かが解決したのか、解決していないのか、
食事が開始にならない現在ではまだ未知数である。
先が見えない分、ずいぶん自分と向き合い、
過去の痛みを整理する時間が持てた。
苦しみのすべてが浄化され、
まっさらな自分に生まれ変わったようでもある。
とにかく、あとは胃管だけの問題だった。
手術から1ヶ月になろうかというある日、
突然、吸引される消化液の量がガクンと減った。
しかし、前例があるためなかなかバッキョ(抜去)の許可は出ない。
1日、2日、3日・・・、
突然好転した事態も、日を重ねるごとに実績となり、
とうとう晴れてチューブを抜くこととなった。
バンザイ!
1ヶ月ぶりにチューブの煩わしさ、溺れているような感覚のない、
自然な眠りにつくことができた。
その感動は忘れられない。
すべてのストレスがなくなり、
私は、「一患者」から「森まどか」に戻った。
3日後、退院。
久しぶりに外の空気を吸う。晩秋の冷たい空気。
いまここにいる自分がうれしかった。
ただいま。
やっと帰ってこられたね。自分にブラボーだった。
<完>
コメント
そして現在に至る、というわけですね。
お疲れさまでした。
引き続き、こんな連載楽しみにしてます!!