学術会議分科会in早稲田

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年04月29日 20:59

連休ど真ん中の日曜日。
東京は汗ばむくらいの良い天気だった。
弊社オフィスは神宮球場のそばにあり
4月から早大生のハンカチ王子が先発とかで
界隈は大騒ぎだったらしい。


でも私は
ちょうどその試合の時間帯
逆に早稲田大学へお邪魔してきた。
なぜかと言えば。。。


日本学術会議の医療事故紛争処理システム分科会が
開かれていたから。
学術会議と言えば
新規オープンがなったばかりの国立新美術館のご近所さん。
それなのになぜ早稲田大学で開くかと言うと
「学術会議はお役所だから
 土日に会議を開くなら自分たちで会場を確保しろ
 と言われちゃう」(by和田仁孝委員長)


和田先生の名前を見てピーンと来たあなた
あなたはロハス・メディカルの良き読者に違いありません。
今号と次号の医療崩壊特集を監修してくださっているのが
誰あろう和田先生なのだ。


まあ、そんな前置きはさておき
そんな連休ど真ん中の日曜日にも関わらず
和田委員長の席から右回りで順に
廣渡清吾・東大教授
手嶋豊・神戸大教授
中西淑美・大阪大特任講師
守屋明・関西学院大教授
福嶋雅典・京大教授
中村芳彦・法政大教授
長谷川剛・自治医大准教授
という先生方が熱心に議論を重ね大変面白かったので
ご報告する。
どうやら福嶋先生が土日しかダメということで
この日程になったらしい。
なお分科会メンバーは、現在のところ、あと3人いる。


なお、この分科会は今回が3回目とのこと。
どんな目的で何をしている会か
まだ説明が済んでいなかったが
実は私もよく分かっていたわけではなく
3回目にして初参加の福嶋先生にとっても同様だったようだ。
で、また福嶋先生が非常に積極的に発言されたので
その発言の軌跡を中心に追っていくと
この分科会の性格や議論していること
方向性が見えてくると思う。


では会議の模様を追っていこう。


福嶋委員が初出席だったため
まず簡単な相互紹介があった後
冒頭、和田委員長から次のような発言があった。


「この分科会は法学委員会の中に設けられているわけです。
学術会議会長に先日ご挨拶したところでは
我々で粗粗の案を提言した後で
もう少し上の文系・理系・医療系を含む大きなところで
やっていきましょうとのことだった。
ところが先日、事務方から医療系の先生方も興味があるだろうから
その先生方にも資料をオープンにしてよいか尋ねられ
断る理由もないのでお見せしたところ
医療系の先生方から「ぜひ分科会に参加したい」と要望が出てきた
とのことだった。
そのメンバーというのが北村惣一郎・国立循環器病センター総長、桐野高明・国立国際医療センター研究所長、永井良三・前東大病院院長、本田孔士・大阪赤十字病院院長の4人。
正式には5月24日の学術会議本体で委員の推薦が行われ
そのあとで分科会の委員となるらしい。
専門の先生方がご参加くださることは歓迎すべきことだが
ひとつタイミングの問題がある。
現在、厚生労働省の方で事故調づくりの作業が始まっていて
6月から7月には固まるようだ。
この作業に対してアカデミックな立場から
できるだけ早期に提言したいということで
5月中に取りまとめるつもりだった。
しかし、5月24日に決まる新メンバーを受け入れるとなると
提言のタイミングを逸する可能性が高い。
ということで、新メンバーを受け入れるのか
受け入れるとしたら分科会の目標そのものを
再設定するか、皆さんの意見を伺いたい」


廣渡委員が促されて発言する。
「この問題は元々広い分野での討議を必要とする。
この分科会そのものが
厚労省に学問的なことをインプットする目的で
時限を切ってスタートした経緯はあるが
メンバー受け入れを断ると角が立つし
そもそも分科会が急いで提言をまとめても
上部機関のレフリーを何段階か受けなければ
学術会議の名前では出せないのだから
医療系部会とのすり合わせは必ず要る。
ということで機動的に報告書を出すのは難しいのでないか
もともと難しいと思っていたが
新メンバーを受け入れて
設置の目的を再設定するしかないと思う」


長谷川委員が口を開く。
「どうせメンバーを拡大するなら
たとえば航空業界の人とか
他の分野の方々にも入っていただいたら」


和田
「保険システムの方には
もともとヒアリングしたいとは思っていた。
ただ5月中の取りまとめで動いていたために
オミットした面はある。
いっそ、いったんリセットして
課題別委員会に改組するというのは」


廣渡
「課題別委員会は同時に10個までしか
走らせることができない。
課題別委員会として扱ってもよい題材とは思うが
手続きに1~2ヵ月はかかる。
厚生労働省との関係で何か言いたいのなら
新メンバーに率直にその意図を伝えたらどうか」


中村
「元々法学委員会に分科会を置いたのは
ADRをメインに取り扱う趣旨だったから。
事案解明機関は主でないので
そこに焦点を当てるのはどうか」


廣渡
「あるいはADRに限ってやるか」


和田
「4人に入ってもらって
提言のタイミングは延びざるを得ないから
中間報告としてADRなんかについて
分科会として報告するという手は
可能性としてあるのかなと思う」


よく、ここまで我慢して読んでくださいました。
過去2回の議論があった上でのやりとりなので
何のことだかサッパリ分からない人がほとんどだろう。
それは福嶋委員にとっても同じだったようだ。
「ちょっといいですか」と議論に入って来たと思ったら
一気に話をかき回した。


「厚生労働省がまとめようとしているのはどういうものか。
先ほどから出てくる学術的な観点とはどういうことか。
ゴールをどの辺に設定されているのか。
そもそも、ここで議論しているような組織が
日本の法体系の中でどう位置づけられワークするのか。
かえって不信感を買う可能性が高いとあえて申し上げる。
拙速でこのように大きな問題が片付くとは思わない」


福嶋委員から質問が出た厚生労働省がまとめようとしているもの
とは、先日当ブログでも検討会の模様を報告した
あれのことである。
和田委員長が説明する。


「厚生労働省がやろうとしているのは
医療事故の事案解明機関とADRのセットという
我々のテーマとまったく同じことで
ただ厚生労働省の方はADRは先の課題として
モデル事業を発展させた形の
事故調を作りたいということ。
そこで原因究明を行うと同時に
刑事事件相当のものは警察へ回すという振り分け機能も
持たせようとしている。
この点について私は
解明機関は原因究明のみを行うこととして
その先でどうするかは患者さん側が選ぶ方が良いと思う」


福嶋
「参加希望の先生方をよく知っているが
実際の医療事故を取り扱って
法廷に立ったことがないならご遠慮願いたい。
どちらかといえば医療訴訟などには
全然タッチしたくない、したこともないという方々ではないか。
実際の医療訴訟で何が起きるかと言うと
我々、医療事故相談センターに相談が持ち込まれて
カルテを取り寄せ鑑定書を書く。
そうすると学会の権威筋というところから
自分たちの論文に書いていないような学術的に噴飯モノの
鑑定書が病院側の証拠として出てきて
裁判所もそちらに流されるわけですよ
参加希望の先生方も
出てくるなら本気で勉強してもらわないと。
それから学術的というなら
事案解明機関を作るために
何を議論の対象として調べなければならないのか
それを明らかにするのが学術的スタンスというものではないか」


福嶋委員は同センターの鑑定書作成に協力しており
同センターでこれまでに鑑定した事例は1000件に上る
とのこと。
これは医療訴訟全体の約1割で
最近ではその割合が2割から3割程度まで上がっている
との説明もあった。
つまり、医療事故・医療訴訟の実態について
参加者の誰よりも知っているとの自負があるようだ。


和田
「先生方に来ていただいて巻き込んでいくことは重要。
きっちりとした議論をする長期的プランも必要だろう。
問題は厚労省が医療事故に関して
おかしなことをしようとしている場合に
そこに対して提言するような
二本立てが重要でないか。
参加希望の先生方は受け入れることとして
私があらかじめ非公式に情報をお伝えしておく
そんな手順で行きたい。
ところで長期的な議論をするとなると
この分科会そのものが1年の時限のものだが」


廣渡
「延長が必要かもしれない」


福嶋
「一朝一夕に解決する問題ではない。
厚労省のができたとしても、とてもワークするとは思えないので
早晩新しい法律が必要になってくる。
医療と教育の問題にも絡んでくるのだが
医療界には品質保証・品質管理の概念がない。
何しろ医師が医師法・薬事法を理解しておらず
治外法権のように勘違いしている人がいる。
医療事故に関するデータという意味では
医賠責をやっている保険会社が膨大なデータを持っているが
なかなか出してくれない。
保険会社にはリスクマネジメントの専門家もそろっている」


まだ福嶋委員は議論内容になじんでいないようだ。


和田
「長期的視点でやるとすれば
そういった方々にもお入りいただいて保険の問題も
議論の対象とするべきだろう」


廣渡
「たしか桐野さんがヘッドで、同じようなことをしている
委員会があったと思う」


和田
「本論に入りたい。ADRの方から。
前回の議論を踏まえて、試案をまとめた。
メディオの調査では
訴訟をした患者・家族の7割が弁護士に不満を持っているという。
弁護士の資質にもよるだろうけれど
これは司法そのものがニーズに合っていない
と見なすべきなのではないか。
加藤弁護士(医療事故相談センターの中心メンバー)の言う
患者・家族の5つの願いを達成するためにも
医療メディエーターが仲立ちとなって
当事者どうしが対話を促進する必要があると思う。
ただし、対話だけではどうにもならないこともあるので
何らかの形で事実の解明や評価を行う中立的機関も必要と思う。
今後詰めなければならない点としては
設置主体と財源、その規模の問題がある」

************************************************
ここから先、
書き上げたのに保存の際に誤って消してしまった。
あまりにもショックなので項を改めることにする。

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コメント

僕も見に行きたかったー
前の東大教授の桐野先生がいらっしゃるなら
ぼくのような四流脳外科医の出る幕ではないですな

>いのげ先生
こんにちは。
今回は随分議論が進みましたが
これだけの重鎮が4人も加わると
スピード感はどうなるのかなというのが
少々気になっております。

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