福島県立大野病院事件第五回公判(1) |
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投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年05月26日 08:36 |
この日も検察側証人尋問。
証人は死亡した妊婦さんの子宮を病理鑑定した
福島県立医大のS助手。
たった1人の尋問だったのだが
17時50分まで延々と長引いたらしい。
らしいというのは
糖尿病学会・ロハス・メディカルWSの準備があって
私は傍聴を午前の部(12時45分まで)で切り上げたため。
結局、検察側の主尋問だけで終わってしまった。
なので、今回はいつもに増して
周産期医療の崩壊を食い止める会頼みの面がある。
自分で体感していないこともあるのだが
今回の傍聴記は本当に悩んでしまった。
尋問に込めた検察の狙いを掴みかねたからだ。
下記のやりとりだけ見れば
「いい加減な鑑定をしやがって!!」と
無罪判決が出た場合に備えて「戦犯」追及しているようにも思える。
検事 鑑定書の後でさらに病理診断したことがありましたか。
S助手 あります。
検事 それは自発的に行ったものですか。
S助手 依頼されて行いました。
検事 誰から依頼されましたか。
S助手 警察と検事さんから
検事 どのような趣旨でしたか
S助手 癒着の部位、範囲について
検事 どのように依頼されたか覚えていますか
S助手 せん入胎盤かかん入胎盤か、よく明らかにしてくださいとのことでした。
検事 再度検査をする契機になったのは何ですか。
S助手 弁護人側の鑑定書が公開されて、鑑定に食い違う部分があるから、その食い違いをもう一度見直してもらえないかということでした。
検事 依頼を受けた時期は覚えていますか。
S助手 昨年だったか。。。
検事 記憶喚起のために言いますが、契機になったのは弁護側の鑑定書が出てきてからでしたね。
S助手 今年の1月でした。
検事 平成19年の1月に間違いありませんね。
S助手 はい。
検事 今度は組織学的に鑑定書を作成したわけでしょうか。
S助手 以前の鑑定書で癒着でないと判断していた部位に癒着が新たに見つかったので、それを鑑定書にしました。
検事 どうして判断が変わったのですか。
S助手 理由はいくつか挙げられます。一つは残存する絨毛が少なく剥離による挫滅で判断できない部分があったことで、紛らわしいものについて前回は癒着はないものと判断していましたが改めて見てみると癒着と判断し直したところがありました。それから、癒着胎盤の診断基準は絨毛と子宮筋層との間に脱落膜が介在しないことなのですが、栄養膜細胞が脱落膜細胞と同じ構造で区別できないので、難しいところは脱落膜細胞ということにしておこうと判断していましたが、私自身も過去の標本を見て勉強し直して改めて見直すと、脱落膜ではなく栄養膜と判断できるものがあり、そういう理由でいくつか前回は癒着でないと判断したものの判断が変わりました。
滔々としゃべるのを聴いて唖然とした。
鑑定結果って、そんなに簡単に変わるものなのか?
癒着と鑑定された部位が拡大した結果
「子宮の後ろ側だけでなく前部にも癒着があったのだから
帝王切開実施前に癒着胎盤を予見できたはず」
との検察側主張を裏付けることになった。
しかし、どうもS助手の行動は辻褄が合わないような気がして
スッキリしないのである。
弁護側の反対尋問でも明らかにされたことだが
S助手の専門は腫瘍で、子宮の病理診断に長けているわけではない。
1月の時点では、医療界を上げての加藤医師支援が広がっており
弁護側の立ててくる鑑定人が
分野の第一人者となることは火を見るより明らかで
弁護側の鑑定結果との間に食い違いがあると言われた場合
私だったら、自分の方が間違えているのでないかと考えるし
対立がより明確になるようなことは避けたいので
以前の鑑定書以上にエッジを立てるようなことはしない。
むしろ、恐ろしくてできないと言うべきか。
私なら「専門外の鑑定だったのだから勘弁して」と言って
お茶を濁すと思う。
特に研究者というのは、どちらかと言えば臆病な人種であり
勘弁してもらいたかったのに許されなかったのかな
という感じがしてならない。
そうやって考えてみると
鑑定で癒着の範囲を広げてきたのには
検察の意思が働いたと見るべきなのだろう。
そして以下のように弁護側と押し問答する以上
検察側は
まだ有罪立証をあきらめていないと見なければいけないのだが
しかし、それもどうもしっくりこない。
検事 証人は判断した根拠を説明できますか。
S助手 はい。
検事 写真を示せば説明できますか。
S助手 はい。
検事 写真なしで説明できますか。
S助手 写真はあった方がいいと思います。
検事 甲〓証(平成19年1月時点での鑑定=捜査事項照会回答書)添付の写真を示したいと思います。
弁護人 異議があります。検察は平成18年3月で公判維持に足る証拠があるとして起訴しているわけですから、後だしジャンケンのように鑑定をやり直すのはおかしいですし、その文書は不同意にしておりますから。
検事 癒着胎盤の範囲を示したいもので、やむを得ない事由は証人の証言から明らかです。
別の検事 この書証は刑事訴訟法321条4項に該当するものとして、後ほど証拠として提出いたします。
裁判長 留保事項としてということですが、いかがですか。
弁護人 留保の何も弁護人は不同意にしておりますので、証拠採用されている甲6号証の写真を使えばいいではないですか。
いつもならすぐ判断を下す裁判長が
左右の陪席判事と1分以上相談している。
と
検事 あのもう一つ。甲6号証についているのは顕微鏡写真ではないので。
裁判長 まったく別のものなの?
検事 はい、いや拡大したものなので、写真としては別のものです。
裁判長 この写真には、どこの部分と記載されているわけね。異議は棄却します。
こうして顕微鏡写真を使っての講釈を挟み
検事はS助手に、子宮写真の上に
癒着の範囲を図示させた。
そして、おや?と思うやりとりがあった。
検事 帝王切開創と癒着胎盤の範囲とは重なっていますか。
S助手 改めてマッピングしてみたところ、今回必ずしも一致していません。
検事 以前は重なっていると鑑定していましたね。
S助手 はい。
検事 変更された。
S助手 そうです。
検事 理由は何ですか。
S助手 前回の鑑定では標本の一部に癒着があった時、標本のブロック全体が癒着していると考えましたが、今回はより詳細に検討しました。
ビックリである。どうやら最初の鑑定書では
胎盤と帝王切開創が重なっていたことになっているらしい。
であれば
子宮を切開した時に胎盤も傷をつけていることになり
胎盤を無理やり剥がした云々以前に
出血が止まらなくて当然ということになる。
医療ミスと言われても仕方ないかもしれない。
検察は
S助手が証言を覆すことを知らずに質問したとも思えないので
やはり狙いは、「いい加減な鑑定をした戦犯」の印象づけだろうか。
ただ、S助手は何を根拠にそんな重大な鑑定をしたのか。
警察なり検察なりから
誤った情報か圧力を加えられていたとでも考えないと
客観的に見た際にすぐバレるような鑑定書を書くとは思えない。
午後、S助手は弁護側から相当追及されたようである。
専門家として鑑定書を書いてしまった以上当然とも言えるが
S助手だけが悪いのでもなかろう、と少し同情した。
コメント
どうもよくわからないのですが、癒着胎盤とは、腹腔内の癒着とは関係ないのではないですか?
もし、そこで出血していたなら、開腹時から出血が止まらなかったはず。出血したのは児娩出後からであり、この病理結果では、まったく臨床的な状況からかけ離れています。