福島県立大野病院事件第七回公判(1) |
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投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年08月31日 23:35 |
今回の公判ほど検察の恐ろしさを感じたことはなかった。
何が恐ろしかったのか順に説明していく。
いつもより30分早い9時30分開廷。
この日は
午前午後ぶっ通しで被告人・加藤克彦医師の被告人質問。
グレーのスーツ上下に身を包んだ加藤医師は入廷すると
弁護人と遺族とに一礼してから着席。
尋問の順序がいつもと逆で弁護側からスタート。
弁護人 逮捕拘留されたのはいつですか。
加藤医師 昨年2月18日です。
弁護人 検察に送致されたのは翌日ですか。
加藤医師 はい。
弁護人 起訴されるまで21日間拘留されたのですか。
加藤医師 はい。
弁護人 当時、何人ぐらいの患者さんを担当していましたか。
加藤医師 10人くらいです。
弁護人 手術の予定はありましたか。
加藤医師 はい。3月はじめに入っていました。
弁護人 外来では何人の患者を診察していましたか。
加藤医師 日に20人から30人くらいだと思います。
弁護人 逮捕拘留されて引き継ぎはできましたか。
加藤医師 いえ、突然の逮捕でしたし、接見も認められなかったので。
弁護人 患者さんが気がかりではありませんでしたか。
加藤医師 はい、気がかりでした。
弁護人 早く拘留を解かれたいと思いましたか。
加藤医師 はい思いました。
弁護人 解かれたかった理由は何ですか。
加藤医師 患者さんの診療をしなければと思いました。
弁護人 お子さんはいらっしゃいますか。
加藤医師 はい、一人おります。
弁護人 お子さんの誕生日はいつですか。
加藤医師 昨年の2月25日です。
弁護人 逮捕拘留された時、奥さんは妊娠何週でしたか。
加藤医師 〓(聞き取れず)週で、いつ生まれてもおかしくない状況でした。
弁護人 予定日はいつでしたか。
加藤医師 2月22日です。
弁護人 誰が赤ちゃんをとり上げる予定でしたか。
加藤医師 私がとりあげる予定でした。
弁護人 お子さんが生まれたと聞いて、どんな気持ちになりましたか。
加藤医師 嬉しかったんですけれども、とりあげることも会うこともできず悔しい感じがしました。
弁護人 早く会いたかったのではありませんか。
加藤医師 はい、早く会いたかったです。
強制調査に着手する時期を
第一子出産の時期と重ね、精神的に揺さぶろうとしたのでないか
そんな疑念を抱かせる弁護側の先制パンチである。
そして、この後の公判の展開を経験した身からすると
その時期を狙ったに違いないと確信する。
敵の最も嫌がることをするのが戦いのセオリーとはいえ
「処罰してやる」という強烈な意思を感じ
そして、巻き添えを食う人がいても知ったことではないという態度に
国家権力の傲慢さも感じ、背筋の凍る思いがする。
さて、なぜ精神的に揺さぶる必要があったかであるが
弁護人 取り調べは毎日ありましたか。
加藤医師 はい。
弁護人 1日の取り調べ時間は長くてどれくらいでしたか。
加藤医師 8時間程度でした。
弁護人 取り調べの際、拘置場から検察庁まで移動しませんでしたか。
加藤医師 はい、移動しました。
弁護人 移動にはどの程度の時間かかりましたか。
加藤医師 往復2時間弱です。
弁護人 すると移動と取り調べで1日11時間弱とられたということですね。
加藤医師 そうなります。
弁護人 そのように長い取り調べが行われたのは、拘置中ずっとですか。
加藤医師 最後の1週間だけです。
弁護人 そのときの長い取り調べ時間とはどの程度でしたか。
加藤医師 7時間から9時間でした。
弁護人 休憩はなかったのですか。
加藤医師 いえ、食事とトイレの時間はありました。
弁護人 取り調べを受けている時、冷静に考えられましたか。
加藤医師 いえ、突然逮捕されて変な緊張感があって、頭がボーッとする感じで、何が重要か分からない状態でした。
弁護人 調書の読み聞かせはありませんでしたか。
加藤医師 それはありました。
弁護人 調書を作成されたのはいつですか。
加藤医師 ほとんどが最後の1週間でした。
弁護人 検面調書が21通ありますが、そのうち何通が最後の1週間に作成されたものですか。
加藤医師 20通です。
弁護人 自由時間はありましたか。
加藤医師 留置場に戻ってからもありませんでした。
弁護人 取り調べの内容を整理する時間はありましたか。
加藤医師 筆記用具を貸してもらえませんでしたので、よく整理できませんでした。
(中略)
弁護人 弁護士との接見はできましたか。
加藤医師 はい。
弁護人 文書のやりとりはできませんでしたか。
加藤医師 できましたが、受け渡しする文書はコピーを取られるので、自由にはできませんでした。
弁護人 コピーを取られるかと思うと、渡しづらかったのですね。
加藤医師 はい。
弁護人 取り調べを担当した検事はどなたでしたか。
加藤医師 田中(と聞こえた)検事です。
弁護人 田中検事が取り調べ中に声を荒らげたことはありませんでしたか。
加藤医師 はい、ありました。
弁護人 どんなときに声を荒らげましたか。
加藤医師 私が経験したことや思ったことを話すと、それに対して声を上げまくしたてる感じで「そんなことはないでしょう」と言われました。
弁護人 例えば、どんなやりとりですか。
加藤医師 胎盤剥離する時の剥離面からの出血を説明している時、宮本先生が上手に吸引してくれていたのもあると思うのですが大量ではなかった、ガーゼのカウントも気になる量ではなかったと話したところ、「大量出血を吸引が上手だったせいにするのか」とか「カウントが遅かったせいにするのか」とか言われました。
弁護人 そのように言われて、どう思いましたか。
加藤医師 何も言うことができず、違う言い方で話をしようとするのですが、なかなかそれも伝わりませんでした。
弁護人 調書に署名する前に読み聞かせがあったと思いますが、その際訂正を求めたことはありましたか。
加藤医師 はい。
弁護人 訂正してもらえましたか。
加藤医師 訂正していただけることも、していただけないこともありました。
弁護人 なぜ、訂正してもらえなかったのですか。
加藤医師 訂正の時になると、怒ったような不機嫌なような感じで、言ってもなかなかそれを訂正してくれないのです。
弁護人 訂正を申し入れやすかったですか。
加藤医師 いえ、訂正したいと思っても訂正できなかったこともありました。
弁護人 記憶と違うことが調書にされたこともありましたか。
加藤医師 はい、ありました。
弁護人 乙24号証の調書では「用手剥離が困難になった場合、それまでは直ちに子宮摘出に移っていた」という供述がありますが、これは事実ですか。
加藤医師 いえ、こういうことはありません。むしろ、子宮摘出しないケースの方が多かったです。
弁護人 後日の調書では訂正されましたか。
加藤医師 はい。
弁護人 乙28号証。(メモ漏れ)
加藤医師 はい。
弁護人 2通の調書間には矛盾があるわけですね。
加藤医師 はい。
弁護人 (メモ漏れ)福島県立医大のS先生とのやりとりは電話ではなく申し送りだったとの供述内容になっていますが。
加藤医師 状況を詳しく覚えていなくて、詳しく覚えていないと話しましたが、このように断定的な調書にされてしまいました。
弁護人 乙19号証「胎盤のある部分を切ったことが分かりました」との供述がありますが、これは事実ですか。
加藤医師 いえ、術中にも超音波検査して胎盤の位置を確かめましたから、切っていません。
弁護人 取り調べ中にも、そのことを説明しましたか。
加藤医師 しました。何回もしました。
弁護人 ではなぜそのような調書になったのですか。
加藤医師 S先生(病理鑑定者)の鑑定書を見せられまして、病理的にはそのように見えているのかと驚き、手術の時にはそんなことなかったのに何かおかしいなと思いながらも、調書にまとめられてしまいました。
弁護人 S先生は、この法廷で、胎盤の部位は切っていなかったと訂正しましたね。
加藤医師 臨床的判断と病理的判断が一致してホっとしました。
裁判長 もっと大きな声で話してください。
弁護人 「看護師が書き足した」という供述があります。
加藤医師 僕が書き足したんじゃないかと言われて、いやH先生(麻酔医)じゃないかと思うのですけれど分かりません。看護師の人かもしれません、と言ったら、このような表現になりました。
弁護人 「副胎盤はなかったと思っている」という供述は。
加藤医師 いえ、副胎盤は見えていましたし、実際にそう思っています。超音波で見た時には分からなかったと言ったらこうなりました。
弁護人 「最初は3本指で剥離していましたが、だんだん指が入らなくなり、2本、1本となって最後にクーパーを用いました」という供述は。
加藤医師 いえ、指が入らなかったのではありません。
弁護人 では、なぜクーパーを用いたのですか。
加藤医師 用手剥離でかなり剥がれて、剥がし終える時期だったので出血を目で見ることのできるクーパーを用いました。用手剥離は盲目的なので、見える状態で剥離したかったのです。見えないところでやる場合、子宮を傷つけたり胎盤の取り残しが出たりしますが、見えていればとり残しもないし、子宮も傷つけないからです。
弁護人 経膣分娩でもクーパーを用いますか。
加藤医師 いえ、経膣分娩ではクーパーの先端が見えないので、使いません。
弁護人 帝王切開で先端が見えるから用いたのですね。
加藤医師 そうです。
弁護人 クーパーの方が細かい操作ができると考えてよろしいですか。
加藤医師 それはあります。
弁護人 検察官にそれを説明しましたか。
加藤医師 はい。
弁護人 何度も説明しましたか。
加藤医師 はい。
弁護人 では、なぜ調書があのようになっているのですか。
加藤医師 最初から指が入らなかったからクーパーを使ったというのが頭にあったみたいで、なかなか理解してもらえないようでした。
弁護人 クーパーは危険だという認識ですか。
加藤医師 そうです。
弁護人 どうしましたか。
加藤医師 何度も説明しましたが、理解してもらえず、納得してもらえずでした。
弁護人 噛み合わない状態はどれ位の期間続きましたか。
加藤医師 逮捕拘留されてからずっとです。
弁護人 調書を取られる3月4日までずっとですか。
加藤医師 はい、ずっとです。
弁護人 具体的には、どういう状況で指3本、2本、1本という話になったのですか。
加藤医師 検察官と話をしている時に、手が入らなかったからでないかと言うのに対して、僕はずっとさっきの説明をしていたのに、なかなか理解してもらえず、何回も同じことを言われ続けて、じゃあ一体どう言えばいいんですかという話になって、「たとえば指が3本でも2本でも1本でも入らなくなったので、クーパーを使用したみたいに言えばいいんですか」と聞いたら、「そういうような具体的な話がいいんだ!」とメモを取られてしまい、検察官どうしでもそういう引き継ぎをしているので、メモを取られてしまったので同じような話をしなくちゃいけないのかなと思いました。
弁護人 現実にそういう状態はあったのですか。
加藤医師 いえ、そういう状態はありませんでした。
弁護人 検察官は、クーパーを使うことが問題だという意識だったのですね。
加藤医師 はい。クーパーを使うこと自体が殺人行為であり、言い方を換えると、あなたは殺人者だと言われました。
弁護人 身柄拘置についての見通しは教えてもらえていましたか。
加藤医師 起訴(?聞き取れず)までは出してもらえないと聞きました。
最初から検察官の頭の中にストーリーができていて
「さあ吐け!」で取り調べが行われたことが、よく分かる。
検察官の見立てに迎合せず自分を持ち続けるのは
よほどの胆力でなければ難しかろう。
しかも、この理不尽な取り調べを
ショックの大きい時期に不意打ちで行うという念の入れようである。
見立て通りの調書を取れなければ公判維持も覚束ない
そう踏んでいたからこそ
最大限に精神的に揺さぶっておいたのだろう。
どのくらい理不尽か
この後で私たちも片鱗を目撃・体験することになるのだが
そのことは後で報告することにして
上記の弁護側尋問に対して検察側がどのように反論したか見ていこう。
時刻は午後6時半、開廷から9時間後である。
加藤医師の答えにも疲労と検事への反感が強くにじみ出る。
検察官 逮捕拘留期間中から複数の弁護人を選任していましたね。
加藤医師 はい。
検察官 接見に来てくれていましたね。
加藤医師 はい。
検察官 面会に来てくれたのは6人でありませんでしたか。
加藤医師 人数までは記憶していませんが複数でした。
検察官 どれ位、面会に来てくれましたか。
加藤医師 どれ位というと頻度ですか。
検察官 面会がなかった日はどのくらいですか。
加藤医師 何日かありましたが、よく分かりません。
検察官 21日くらいの期間で面会がなかったのは5日だけ(?)ではなかったですか。
加藤医師 分かりません。
検察官 1日の面会時間はどれ位でしたか。たとえば平岡先生は。
加藤医師 詳しく覚えていません。
検察官 2時間くらいなかったですか。
加藤医師 ちょっと覚えてないですね。
検察官 では水谷先生の場合は1回どのくらいの時間ですか。
加藤医師 いや、ちょっと覚えてないです。
検察官 2時間以上なかったですか。
加藤医師 覚えていないので覚えていません。
検察官 弁護士の先生方から取り調べに対するアドバイスはありませんでしたか。
加藤医師 色々な話はさせていただきました。
検察官 訂正してくれない調書のことも相談したのではありませんか。
加藤医師 話はしています。
検察官 訂正する必要があるところは全部伝えましたか。
加藤医師 全部は話できていないと思います。
検察官 全部ではないにせよ、問題だと思う事は話したのではありませんか。
加藤医師 話はしてあります。
検察官 弁護士の先生から検察への訂正申し入れはされましたか。
加藤医師 いやちょっと分からないです。
検察官 あなたが話したことに対する先生方のアドバイスはどんなことでしたか。
加藤医師 気を確かに持ってとか精神的なことを言われました。
検察官 他にはどんな助言がありましたか。
加藤医師 いや、ちょっと覚えてないです。
検察官 どんな助言があったか覚えてないくらいの、その程度の相談だったのですか。
加藤医師 分からないです。
検察官 調書に署名・指印しましたね。
加藤医師 はい。
検察官 検察官に読んでもらって、署名・指印したものですね。
加藤医師 はい。
(延々と調書全部の署名・指印部分を加藤医師に見せる)
検察官 拘留されている期間に訂正申し入れをして訂正してもらったものはありましたか。
(中略)
加藤医師 あったような気がします。
(訂正の入っている調書を示す)
検察官 今、見てもらっている調書は、午前中の尋問にも出てきた3月4日作成の「3本から2本、2本から1本」の調書ではありませんか。
加藤医師 はい、そうです。
検察官 3本、2本、1本については訂正がされていなくて
(断続的に弁護側から異議が出るが認められず)
検察官 なぜ、3本、2本、1本についても訂正申し入れをしなかったのですか。
加藤医師 その時は訂正箇所の方に目が行ってしまったのだと思います。
検察官 違うことについては違うで訂正してくれたのですから、3本・2本・1本も訂正してもらえばよかったのではありませんか。
加藤医師 2つ訂正という感じまで頭が回らなくて、読み聞かせられている最中に、どう訂正してもらおうかシナリオを考えているので、他のところまで気が回らなくなっていたのだと思います。
検察官 3本・2本・1本については訂正申し入れをしていないですね。
加藤医師 いないです。
(後略)
法廷にいた実感としては
検察の取り調べが理不尽だったことを打ち消すものではないのだが
判決を起こす段階で裁判官が読む調書上は
ある程度の意味を持つのかもしれない。
ただし、ここに書いたことは
事件全体の構図から言えばジャブの応酬みたいなもの。
検察の恐ろしさは、こんなものではなかったのだ。
(つづく)
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コメント
ちょいと補足
>尋問の順序がいつもと逆で弁護側からスタート。
主尋問すなわち呼んだ側が先、という意味ではいつもと同じであります
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それはそれとして
すくなくとも本件の福島地検においては
犯罪は立証するものではなく、作り上げるものである、という検察の立場が明確になったわけです。
>いのげ先生
補足ありがとうございます。
奥さんや患者を人質に取って自白を迫るというのは、拷問と変わりませんね。でも(4)まで書かれているのに、検察の本当の怖さが明らかになっていないそうなので、何が出てくるのか冷や冷やしながら待っています。
>bamboo先生
コメントありがとうございます。
(5)をご覧いただくと分かると思うのですが
法の番人に過ぎないはずの検察が
自分でルールを作ってしまっていて
いったん動き始めると誰も止められないということ
ここにとてつもない恐ろしさ感じました。