全国医師連盟設立準備委員会・総決起集会

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年01月16日 14:47

13日午後1時。
東京・有明の東京ビッグサイト会議棟7階703会議室。
150席。
主催者説明によると
有料参加者110人、招待者10人、メディア30人。
立ち見が30人くらいいた。これは関係者ということか。


田中康夫参院議員(新党日本代表)が飛び入り傍聴。
来賓の小松秀樹虎の門病院泌尿器科部長が誘ったらしい。


会本体がどんなものだったかは
既にあちこちのブログで書かれているし
さらに興味があればDVDで分かると思うので
特に印象に残ったことだけ書いて
会場からの声と会見のやりとりをメインで紹介する。


定刻より15分遅れて開演。
執行部の三輪高之医師が開会の挨拶をした後
小松部長が激励の挨拶。
冒頭と最後とに
「歴史的な役割を果たすことを期待している」と繰り返す。
自分(たち)の行動が後世にどう影響するか
どう評価されるかという「歴史的な視点」を持たないと
この八方塞がりの中なかなか頑張れない。
小松先生が「割に合わないこと」を必死にやっているのも
歴史的視点があるからなんだろうなあと思う。


続いて済生会栗橋病院の本田宏副院長が講演。
面白いの一言。皆さんもぜひ生で聞いてみてほしい。
中で印象に残ったフレーズをいくつか。
「正しい情報を国民に伝えないと、医療は崩壊の一途」
「要するに情報戦。
 医療が総選挙の争点になれば良くなる可能性はある」
「国民を幸せにできない国がどうして世界で尊敬される?」
「厚生労働省に分断統治されているのに気づいていない」
「ここまで来るのに8年かかった。
 皆さんも闘ってくださいよ。
 自分たちのため、国民のため、自分たちの孫のためなんですよ」
凄まじく忙しいだろうに8年も続けているんだあ、と素直に感動する。
自分は8年前に一体何をしていたろうと思う。
ロクな事をしていなかったことだけは間違いない。
こう書いてみると
たかが2年半で状況が好転しないからといって
弱音を吐いている場合ではないな。


そして、いよいよ黒川衛代表世話人が話す。
医療再生のために
この組織として以下3つを行うという。
①医療労働環境の改善
これは患者から見れば診療環境の改善であり
具体的な手段としては、別組織としての労働組合の設立と
患者に影響を与えない遵法闘争の検討をするそうだ。
②医療報道と世論への対策
具体的手段としてはマスコミが医療報道をする際に
何か分からないことがあったら教えてもらえるような
医療説明サービスの実施、と
報道の検証制度創設、と
タイミングを狙ってマスコミに積極的にアピールする
プレスリリース配布、を考えているという。
③自浄作用の発揮
医師にふさわしくない人材を自分たちで断罪しないと
この組織自体が信頼されないとのことで
これは、三重大の木田博隆助教が中心になってやるらしい。
木田医師が準備委員会のメンバーなのか
そうでないのか今イチ分からなかったのだが
これはまあ今のところ大したことではない。


多くのメディアが注目していた日本医師会との関係については
「医師会が目覚めてくれるのなら合流してもよい。
 つい最近私も医師会に入った」
とのこと。


さて、準備委員会の会員は420人だそうだ。
ブログなどでは随分と盛り上がっていたので
もっと参加者が多いのかと思ったが意外と少ない。
かなりの医師が様子見をしているのだろう。
雪崩を打って合流となるか、しばし静観になるか
小松先生の言葉を借りるなら
準備委員会がどの程度の「勢」を見せるかにかかっている。
その意味では
誰がいったい何のために何をしたいのか今イチ見えづらい。


(1)〜(3)のどれか一つでよいから
実際に形にして見せたら、それが「勢」になると思う。
個人的には
(2)の特に「説明サービス」が実現するなら
新聞やテレビで識者コメントが欲しい時に
全国医師連盟の〜医師は「〜」という使いかたをされるので
非常にインパクトが大きいと思う。
ハッキリ言って
今のマスメディアが識者コメントを取る相手はかなり適当である。
その分野の第一人者を探したりせず
「あの人なら、すぐ捕まる」で頼んでいる。
だから同じ人のコメントばかり乗るし
トンデモコメントを呼びやすい。
ということで連盟が発足してからなどと言わず
すぐにでも輪番制で始めたらどうだろうか。


ここからは会場から出た意見を紹介する。
(自己紹介聞き取れず)「大筋で賛成である。しかしながら勢いが大切だ。そして今置かれている状況を認識することも大切だ。HCVの問題で政治判断があったけれど、私にはあれが驚きだった。福田内閣の支持率が下がったらコロッと変わった。政治が動きやすいのはねじれのある今この時期、総選挙までの期間しかない。1年か2年しかない。医療安全調査委員会の問題も間近に迫っている。ムーブメントを起こせなかったら終わりだ。国民のベクトルをいかに一つにできるかリーダーの資質が必要だ。leader すなわち、listen、evaluate、accept、disucuss、educate、recomendする能力である。この組織のすることが、保身とか言い逃れのためと受け取られたらダメだ。
現場のことを言えば、現実にお金を払えない患者さんは多い。年末に入院してきた大動脈解離の患者さんは5万円が払えないから退院するという。死ぬよと言ったけれど払えないという、こういう現実がある。大きなうねりに絶対にできる」

(坂口医師)「事故調に関して早急に声明を出すべきである。今の規模で組織を発足させるのにためらいがあるのは分かるが、いつまでも準備委員会では勢いがない。できれば早急に連盟を発足させて発信しないといけない。たとえ背伸びであっても連盟立ち上げは積極姿勢に出るべきだ」

川嵜医師(いのげ先生)「医師連盟の名前が某団体とかぶっている。それからネットのできない人もいるので活字も必要だ。平日昼間に必要な活動もあると思うが、そういうのには医学生にバイト代を払って、裁判傍聴したり書類閲覧させたりすると効果的だ」

執行部・三輪医師「専従者が必要と思っている。我々もネットですき間の時間を見つけて活動しているが、専従者がいないと難しい」

消化器内科13年目の医師「早急に会員を集めるべきだ。事故調の問題で、上先生から回ってくるメールなんかを同じ大学の分かりそうな人間を選んで転送しているのだけれど、そういう人間であってもリアクションがないのと変な目で見られがち。いまだに医療が大変な状況になりつつあるのを実感していない人も多い。脱医局も結構だけれど、教授などを攻めて啓蒙して数増やすようなこともすべきだ」

本田宏先生「数は大事。私など講演で回っていると、具体的にどうしたらよいのだと訊かれることが多い。方法があるなら協力したいという思いは確実に存在する。だから、医師連盟でも、自分達の目標をはじめに打ち出して、その元々の目標が客観的に見て協力してみようかなと思わせるものだったら皆乗ってくると思う。何かしたいけれど何したらよいか分からない感じだから。
ネットって凄いなと思う反面、ハードコピーを配らないと読んでくれない人はいる。何はともあれ、まず数。ある程度までは声をかけると変な目で見られるだろうけれど、数が集まってしまえば変な目では見られなくなる。心配は千人集まった段階で分裂してしまわないかということだが、宗教も政治も関係ないということで大きな目標だけ共有して、あとは皆勝手なことを言うでもしかたない」

73歳の医師「日経メディカルでこの会のことを知って、胡散臭い会ではないかと様子を見にきたけれど素晴らしい会だと分かった。戻ったら、少なくとも胡散臭い会ではないということを文書で配ろうと思う。年寄りが入ってきたら温かく見守ってほしい」

本田「数をふやす手段として、ひとつあるのは発起人になってくれそうな人、院長や教授に声をかけてどんどん増やしちゃうこと。どうしようか迷っている人も、自分のところの院長や教授が勧めているということになれば入りやすい。発起人が1000人とか1500人とかになれば、ドワーっと入ってくるんじゃないか」


最後に執行部の遠山義浩医師が閉会の挨拶をして終了。
以後、控室に会場を移して記者会見となった。
報道各社からの要望が強く急遽設定したとのこと。


私個人は会見を聞く必要性をあまり感じなかったのだが
立場を引っくり返して考えてみると
折角の晴れ舞台でメディアを通じて世に訴えるチャンスなのに
強く要望されて会見設定するというのが
どうもちょっと何か違う感じがする。
しかも、あらかじめ報道各社から質問を集めたという。
だったら会見しろと言われても仕方ない。


医師連盟の方々は会見をどう思っているのか知らないが
メディア側は個別に直接取材できるならそうしたい性癖があり
でもそんなのに、いちいち付き合っていたら身がもたないから
会見というフォーマットでコントロールするわけだ。
ただ普通、組織を作ろうなんて人はメディアに出たがるし
そうでなければ何のために組織を作るのか分からなくなるので
今回、執行部が事前に個別取材に応じなかったことに対して
「恐くて(素性を確かめる術がなくて)記事を書けない」
との声があった。記事の扱いで損した面もあったと思う。
まあ何事も経験といったところだろうか。


で肝心の会見の中身の方だが
日本医師会に対抗する勤務医の組織ができた、という
構図に落とし込みたい記者が1人いて
その手の質問ばかり繰り返したので少々ウンザリした。
ただ、この組織が一体何をめざすのか分かりづらいのも事実だ。


少しやりとりを拾う。ずっと同じ記者が質問している。

記者「今の医師会では足りないという部分は何か」

黒川「個別には、まず厚労省の第二次試案に執行部が賛成してしまったこと。その課題に関しては批判している」

記者「この組織の独自性は何なのか」

黒川「生まれて間もないヒヨコの状態。6、7月に実際に設立するその時までには規模を大きく、しっかりとした規約や理念、目的をハッキリさせていただきたい」

三輪「日本医師会は開業医の利権団体になりつつある。この組織では、臨床医、勤務医も開業医と平等の立場で意見を言っていこうということで、それは公共の利益のためだ」

記者「開業医の代弁をするのか、勤務医の代弁をするのか」

木田「先ほどの厚労省第二次試案の問題にしても医師会のトップが賛成してしまっただけで、都道府県医師会の中には反対の意見も多い。開業医ですら、医師会上層部には意見が言えなくなっている。開業医も元々は勤務医なので対立の図式は基本的にナンセンスだ」

遠山「私も医師会に入った。開業医、勤務医分け隔てなく現場をよくしていきたい。患者さんに面と向かっている声をボトムアップしていかれるかが問われていると思う」


こんな按配だ。
業界の事情をある程度分かっている人が
この回答を聞けば、ははあなるほど、と思うのだろうし
私自身も、下らない質問にウンザリしたことは確かだ。
だが、世の中へ発信するということは
こういう記者ともきちんと渡り合って折伏するということだ。
その点、もう少し明解な何かが見えてほしい。


そして、その「何か」とは何だろうと数日考えたが
おそらく抽象的な理屈ではなく
参加者たちの覚悟の程
自分たちの人生をどこまで賭けているか
その腹の括り方だ、と今は思っている。
最初から逃げ道を用意して戦ったら
官僚に勝てるわけないのである。
その覚悟が見えなかったから
何ともスッキリしないモヤモヤが残ったのだと思う。
(了)

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