インターベンション学会報告(4)

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年07月09日 16:22

4番手は池上直己・慶應大教授。


「事の始めとして、医療における平等というものがある。世論はサービスの格差に反対である。そうすると市場原理で医療サービスは提供できないので、政治が決めることになる。財源をどこかから持ってくるかというと、保険料や税金として強制的に徴収することになる。徴収の仕方は応能負担になる。たとえば料率を一定にすると収入に応じて保険料は変わるけれど受けるサービスは一定である。

ということは、お金が高所得者から低所得者に向かって、青壮年から高齢者に向かって、流れる仕組みになっている。高所得者や青壮年は建前としては平等に賛成しても、本音では強制徴収される保険料を抑えたいと考えている。一方でサービスを平等にするためには、誰が受ける医療についても保険料の範囲・条件・料金を決めることになる。それが診療報酬。規定外のサービスを提供したり追加料金を要求すれば、全額自己負担になるという『混合診療の禁止』がある。

医療におけるお金の出所は国民と患者であり、患者が直接負担する分は少なくなるよう工夫されている。従って保険料が主なものになるのだけれど、給付より負担の大きな高所得者や青壮年の人は保険料が増えることに抵抗する。そうすると保険者は診療報酬を抑制する、とこういう構造がある。日本の公的保険の特徴は、公的保険の原則というものは相互扶助であるが、加入者が互いに助け合って応能負担で連帯するもの、これが病気になる程度によって保険料が異なる民間保険との違い。しかし日本の公的保険というのは職場や地域単位の限定的に組織されている。この間では相互扶助の考え方はあるけれど、職場や地域によって所得や年齢構造が違うので、そういう低所得者や高齢者の多い保険に対して税金から補てんすることが行われている。それから、高所得者や青壮年の多い保険者がそうでない保険者に対して補助するということも行われている。従って医療費の増加に対して、保険料を上げる、税金を上げるという二重の足かせがある。

もし保険料の引き上げが自分たちサービス改善のためという風に意識されるより、高齢者の医療のためと認識されているから反対が多い。税金についてはバブル崩壊後、非常に増やすことは難しくなっている。保険料と税金の関係を見ると、出どころは使用者(会社)、雇用者(サラリーマン)、自営業者の3つしかない。そのお金の流れには税金として流れるものと保険料として流れるものとがある。日本の健康保険は3つに大きく分かれていて、1つは使用者と雇用者の保険料だけで自立している大企業の健康組合や共済組合、次が政管健保で中小企業のためのもの。中小企業の社員は一般に所得が低いので税金で助成してもらっている。最後が自営業者や年金生活者は約半分税金で保険料をみてもらう。これが国保。これだけ複雑な仕組みの上、さらに4月から後期高齢者保険が始まった。保険料として高齢者自身から徴収するのは10%だけで、残りの40%は保険者から取り上げて、あと税金とこういうことになっている。

なぜ税金を問題にするかというと、医療費の半分は保険料から来ている。4分の1は国の税金から来ている。この26%分を定率で負担しているので、それを抑制するには全体を抑制しなきゃいけないという構造になっている。

そこで日本の医療費はどうやって決まっているかというと政治折衝で決まっている。税金における負担割合の26%は国の予算にとっては10%になって、防衛費よりも多い。全体に予算を抑制するには国税の医療費負担額も抑制しなければいけない。そのためには医療費全体も抑制しなければいけない。医療費というのは、点数に何回診療行為を行ったか回数をかければ決まるので、各医療サービスの量は価格が改訂されても基本的に同じ、つまり手術料が上がっても下がっても手術する回数は変わらないので点数を改訂することによって医療費全体をコントロールできる。全体の点数を下げると医療費を抑制できる。全体をどのくらい下げるか上げるかという総枠の決定は首相が閣議で診療報酬の改定率を決めて2年おきの12月に政治的手法で決着している。一方、医療費の中身をどう配分するかっていうのが中医協で決められる。個々の何の点数をどれだけ上げるとか下げるとか決める。

では、なぜ医療費を抑制するかというと、バブル崩壊後の国の財政悪化で。歳入は、企業の利益から取る法人税というのは企業が利益でなかったら取れないので少なくなるし、所得税は景気を浮揚するために減税されているので、歳入が減っている。一方の歳出は景気浮揚のための公共事業で増えている。歳入は減って歳出は増えているために国と地方の借金がGDPの2倍になっている。この借金の増加を止めて2011年より返済を始めようということが至上目標になっている。その目標を達成するうえで社会保障費、とりわけ医療費がターゲットになったわけだ。なぜターゲットになったかといえば、構造的に最も増加額が多いから。一つは高齢化、一つは技術進歩。技術進歩というのは、昔は単純X線だったのがCTスキャンになりMRIになるということは、診断という行為は変わらなくてもかかる医療費が増えている。権利意識の向上というのも影響している。

国民患者の負担は、保険料で取られる分と国・地方の税金として取られる分とに分かれている。医療機関も二つに分かれていて、公立のように補助金が来る医療機関とほとんど来ない私的医療機関とがある。ただし両方とも同じ診療報酬でやる

国の税金が減ってきて、患者負担を上げた、診療報酬を下げた。地方税も減ったので、公立病院への補助金も下げた。1980年代は医療費の伸び率と経済の伸び率が大体パラレルだったから問題なかった。バブルが崩壊すると経済が伸びなくなって医療費の方が若干落ちたとはいえ国の経済より伸びが大きかったから問題になってきた、これが一つ。それから医療費の伸び率と診療報酬の伸び率は非常にパラレルで動いている。診療報酬を下げれば医療費が抑制できていることが分かる。

一口に診療報酬の改定と言っても実は3つあって、まずNETの改定。薬価は通常下がる、診療行為は通常上がるので、下がるものと上がるものと合せていくら。これが政治的なもの。その他に薬価・材料の改定があって、これは市場の取引価格にマージンを乗せたものにされて、マージンの幅が薬は2%、材料は4%。本体部分というのは中医協で交渉するわけ。交渉の際にどの程度のエビデンスがあるかというと、ほとんどなくて、大部分は政治折衝によって決まっている。まさにバランス感覚やマスコミ報道による。その結果、今年度は産科や救急が上がった。エビデンスがあるのは薬価調査や医療経済実態調査。これは、病院の種類によって、どういう種類の病院が儲けが大きくて、どういう種類の病院の儲けが少ないか比べて、たとえば精神科とか療養病床が儲けが大きいようなら、その病院が扱うような医療行為の値段を下げていく。社会診療行為別調査というのはレセプトの調査で、各行為たとえばPTCAが年間何回あるか、そうすると点数を10%下げると医療費全体にどれだけのインパクトがあるか分かる。そういうことを参考にしながら阿吽の呼吸でやっている。

DPCのアリ地獄というのがある。DPCの入院料と言うのは、DPC分類の点数に入院日数をかけたものになるのだが、その点数が入院日数によって変動する。最も短い入院期間Ⅰと次のⅡとでは1日あたりの点数が3割違う。(ⅡとⅢとでは15%違う)。そうすると、病院はできる限りⅠやⅡのうちに退院させようとする。ⅠとかⅡというのは全国のDPC病院の短い方から25パーセンタイルの人が退院した日数がⅠであり、50パーセンタイルの人が退院するとⅡ。みんなが短くしようとすると段々平均も短くなるので、病棟の重症患者が増えて、医師の疲弊も増えて、ますます入院期間が短くなる。これは薬価調整に基づいて薬価が下がるのと同じアリ地獄。

そこで財源を増やせるか。患者負担を増やせるかというと難しい。混合診療も難しい。増税するかっていうと、社会保障費を抑制する基本方針が仮に撤回されたとしても、赤字があることに変わりはないし、後期高齢者医療制度は税金によって半分賄われているので難しいのでないかと思う。保険料を上げる可能性があるかにかけるしか私はないと思う。

今は高齢化というと、2005年に65歳以上が20%で医療費の半分を使っている。2025年になると65歳以上が30%以上に増え、医療費のうち3分の2を使うようになる。その半分は国の税金によって賄われている以上、少々シーリングを徹底したところで、医療費に国の予算が回る可能性は低いと思う。

そこで保険料が上がる可能性がないか。厚労省の行った改革のうちで私が評価できるのは、保険者が都道府県単位に集約されてきた。後期高齢者医療制度も政府管掌健保も。国保も県単位への合併を推進していくと、県による所得水準の格差は国が負担してくれる。しかし県民が受ける医療格差については県民の保険料で負担するということになる。従って、隣県と比べて安かろう悪かろうになった時、保険料を上げようという議論が起きてくる可能性はあると考えている。

ただし障壁もあって、県には保険を運営した実績がないので、知事や県職員の実力を評価していない。後期高齢者医療制度の県が主体を取ることを拒否したために県単位の市町村連合になった。また、県立病院からの撤退など、医療からいかに切り離せるかということばかり考えている。しかし保険者は県単位に集約されているし、医療計画も県単位。政治が悪いのは県民が悪いからで、国政選挙に比べて低い県議選の投票率とオール与党の知事。県レベルで医療を賄うスウェーデンなどでは、医療が最大の争点になっているので変化も期待できるのでないかと思う。

ただし保険料を上げるための条件としては、住民に対して医療を良くするためのものであることを納得させる必要がある。目標を建物などのハードから救急体制の安定化などソフトに転換する必要がある。努力しているというエビデンス、稼働率だったり連携の構築など患者サービスの向上に努力しているというエビデンスを提示する。患者満足度調査というのはつまらないもののようだが、実はエビデンスになって、それが上がっているということが大切。この学会にお願いしたいのはニーズに対して適切に対応しているエビデンスであって、たとえば人口あたりのPTCA実施率が次第に一定に収れんしていくというエビデンスがあれば、ニーズに対して普遍的に対応していることになる」


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