インターベンション学会報告(5)

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年07月10日 12:05

5番手は、諏訪赤十字病院の大和真史副院長。


「医療崩壊を引き起こした因子の中に『臨床研修の必修化』というのが必ず入ってくる。たとえば日本医師会が行った全国医局への調査でも、医師派遣の中止・休止が4分の3にあって、主たる原因が臨床研修の必修化に伴って引き揚げたからだと挙げられている。医局も弱体化して、そういった医療機関の60%ぐらいが診療科を閉じている。産婦人科なんかの影響が大きいけれど、これは訴訟のリスクなんかもあるだろう。

私どものような長野県のしかも地域で医師派遣が減って都会と格差が広がっているんじゃないかと、問題は医師不足の方にあるんでないかと言われている。たしかにOECDデータでも医師数は非常に少ない方に属している。私たちが卒業した時に比べて医学部定数というのは7%ぐらい減っている。日医総研のワーキングペーパーで見ると、GDPあたりの医療費支出は非常に低く抑えることに成功していてイギリス並み。GDPの多い国々の中では最低ランク。医師数で見ると、GDPあたりの医師数は非常に少なくて、高齢化率と並べてみても高齢化が進んでいるにもかかわらず低いレベルにとどまっていて、対してアメリカは増える方向、イギリスも横ばいだけれど元々もっと多い。

医療費の総枠を抑えるには、細分化の進む中で医師数を抑えることが有効な施策だったのであろう。結果的に高齢化が進んで急速に医療ニーズが増える中で医師が増えてない。臨床研修は医師不足を顕在化させたに過ぎないというのが正しいのでないかと思う。日々診療にあたる方は百も承知と思うが、研修指導が忙しいと言いながら、他にもいっぱい仕事があってコンビニ化という話もあったが、夜に救急外来などをやっていると本当に、家へ帰ってみたら子供の熱が出てたんで連れてきたという人がいて、明日の朝まで待てないのかと訊くと明日は忙しいと言う。そういった需要が増大するのに加えて、高齢化と高度医療化が進んでいるのに、供給の方は研修必修化はあるけれど医局の弱体化、診療科や地域の偏在、また女性医師も頑張ってはおられるけれど子育ての時期はパートになったり家庭に入られたりということで、医学部に女性の占める割合が3割4割なので、医師の稼働力が減ってくる。因子がたくさんあるので必ずしも研修の問題だけではない。

国立大学の医学部長会議の資料に基づいて見ると、大学医局にどれだけ戻って来るか平成14年と18年で比較してみると、地域の格差がかなりあって、医師不足の問題になっている北海道と東北ではかなり減っている。同じ中部地域でも、名古屋・東海地域はあまり減ってないむしろ増えているのだけれど、私のいる長野・中央高地は減っているし、北陸はさらに減っている。同じ地域の中でもかなり違う。診療科別にも違う。形成、麻酔が多いかな、と。なかなか外科に入ってくれない、脳神経外科は希少種になりかけていると思う。人口50万人以上の大都市のある県はそんなに減少率が激しくないのだけれど、長野県も含めてそんなにデカイ都市のない都道府県はかなり減少が激しい。大学医学部長の言っていることだが、僻地地方医療は地方大学が担っていたが、そこに医者が入ってこなくなることで、過疎地の医療のサポート体制が崩壊した、と。緊急声明を出して、やめろと言うのじゃないけれど、大学の医師不足や基礎医学者不足、それから地域の医師不足や偏在を後押ししたんだと言っている。全体の医師の育成過程を見直すことが大切なんでないかと結論づけている。必ずしもこの制度をやめろと言っているわけではない。

それがなぜかというと、たしかに初期研修の医師は必修化と共にガクンと減ったけれど、その後の後期研修の受け入れ数は決して減ってない。これがどうしてなのか。ウチの大学なんかは明らかに2~3割減っているのでどうしてなのかなという気はした。研修医たちの進路相談に乗ってみると、入局というのは彼らにとって重い課題で、専門性を身に付けていきたいとか将来の就職先を色々な時点で考えていきたいという時に病院にいるよりは医局に入った方がいいんじゃないかということを言う。私どもの病院でも後期研修を採っているのだが、勤めてあれやれこれやれと言われるよりは、私は大学から派遣された医者ですと言って自分の診療科領域に籠っていた方が色々守られるような気がするらしい。

そうこうするうちに、あの病院へ行けとかこの病院へ行けとか言われて、動物実験なんかをさせられるようになるとまた不満を言うようになるが、そういう中で大都市の大学病院は東大をはじめ医学部の定員の倍以上の膨大な大学院定数を満たして、たくさんの若手医者を抱えている。それが医者不足の現われとなって出ているのでないか。昔に戻るのがいいかというとそうでもないだろう。医者は自分のコミュニティ、病院、医者仲間、あるいは他の専門職、地域社会との色々なかかわりを持っている。いろいろな社会的要請の中で公共性とか患者さんとの直接のコミュニケーションを取っており、医療に籠っているとは言っても日々コミュニケーションを繰り返しており、同僚とのチーム医療も必要で様々なものとのコミュニケーションをもっている特殊な専門職で、そういう合意形成をしていくプロフェッショナルとして、色々な社会からのものを取り入れながら見直していく必要がある。そういう医師を育てていくように変えていかなければならない。翻ってみると、医学部の教育というのは膨大な医学知識をどう詰め込むかということと、卒後の職業教育をどうやって卒前に持ち込んでくるかということで、かつては医学的知識がどんどん増えていく中で様々な教育方法学で頑張ってきたのだけれど、もうそれには限度があるということで、今はもう医学知識を詰め込むことはあきらめて、いかにその後知識を入れていけるか、魚を食べさせれば一日生きられる、魚の捕り方を教えれば一生生きていける、で、我々は若い医学生さんたちに将来どうしたら医学知識を入れていけるかを教えていくわけだ。過去の医学生の育て方は国家試験が終わってから現業に就くわけだけれど、これが臨床実習が前倒しになって様々な医療行為ができるようになって、たくさん教えるのをあきらめてコアカリキュラムに絞って各大学でやっていたところに臨床研修の必修化がでてきたということで、医学部教育が様々に変わってきているというのが現状。

そういう医学部の変化と卒後研修の変化は、あまりに知識が多すぎて、世の中でも正しいかどうかは別にして医学的情報が氾濫している中で、我々のような専門職の立場が随分と変わってきたのだと思う。どういうことかというと患者さんとのコミュニケ―ションであり、医療職の中でコミュニケーションすると共に患者さん、ご家族、あるいは社会とコミュニケーションを取っていかなければいけない。説明責任を果たさなければいけない。あるいはコラボレーションしていかなきゃいけない。専門職が自分の伝統の中で先輩のやっていたことを引き継いでいくというだけではなくて、周りの広い範囲の人と一緒に仕事をしていかないといけない。当然、専門家の養成の仕方も変わらなくちゃいけない。だから医局制度に戻っていくというのは考えられないというのが感想。

この医師臨床研修制度というのは何のために創設されたのか。昭和40年代後半以来のインターン制度から変わったものが、社会のニーズを考えてどんな専門分野にいくにしても一定のプライマリケアと患者や社会との関わり方を十分に認識した医師を育てようということで、文言としては非常に正しい内容。とりあえず、それを現場で教え込んでいく、あるいは一緒に学んでいくことが我々に求められているかなと考える」

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