覚えてますか? 「医師のモラル」発言

投稿者: | 投稿日時: 2009年03月02日 14:32

皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか?

昨今、相次いでいる重症妊産婦の受け入れ不能に対し、昨年11月、二階俊博産業経済大臣が「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思う。忙しいだの人が足りないだのは言い訳にすぎない」と発言しました。

これに対し、「くい止める会」では直ちに抗議文を送っています。周産期のみならず、さまざまなところからほころびが広がり始めている医療制度全体の崩壊をなんとしてもめるためには、何より国民の正しい理解を得ることが大切です。そのためにいろいろな活動を行っている「くい止める会」としては、一国の大臣が発したものとして、上記発言はどうしても聞き捨てならなかったのです。


抗議文ではまず、二階発言のきっかけとなった重症妊婦受け入れ不能事例について、設備や人員の面で受け入れることが違法となる状況であったこと、そのため医療側の判断はやむをえないものであったことを示しています。その上で、現在の産科勤務医の労働状況自体、すでに労働基準法違反の過酷なものとなっていることにも触れています。

「日本産婦人科医会の産婦人科勤務医・在院時間調査によると、産科医の月平均勤務時間は300時間を超え、月平均当直日数は4.2日であり、産科医の労働基準法違反の違法な勤務状況が常態化している」

この現状からすれば、「忙しいだの人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」「モラルの問題」などという発言がいかに見当違いか。(その後、この発言は撤回謝罪されたと報道されていますが、それも書面で「・・・医師の方々も忙しくて大変なのは理解できますが、両省(厚労省・経産省)で協力して情報システムを構築するので、医師としても専門的立場から全面的に協力していただきたい・・・」との趣旨だと説明したのこと。最初の発言からはそのような趣旨は、まったく読み取れないのですが・・・。自らの不勉強の”言い訳”にもなっていません。)


すでにいろいろなところで言われているのでお分かりの方も多いかと思いますが、医療崩壊の大きな原因の一つが、医療不信です。たしかに医療側にも問題があるケースもあるのですが、そうでなくても、患者側がマスコミの偏った情報を鵜呑みにしてはなから医療者に対して偏見を持っていたり、自分が思うような結果でなかった場合にその不満を医療者のせいにして押し付けたり、ということが多いようです。おそらく両者のコミュニケーション不足もその原因だろうと想像しますが、いずれにしても、結果としてそれが医師のバッシングや医療訴訟へつながり、耐え切れなくなった医師が病院を去り、残された医師の負担がますます増える・・・そんな悪循環が起きています。

その折も折のこの二階発言。国民の誤解をますます助長するような軽率な発言には、心底あきれてしまいました。まったく暢気としか言いようがなく、経産大臣としての資質も問われます。


ちなみに出産を経験した私としては、こうした状況でなお診療を続ける産科医の先生方には本当に感謝する一方、体力・精神力ともに限界ぎりぎりの先生方に診ていただくのは、とくに命に関わるような状況であれば、ちょっと心配というのも正直なところです。「忙しい」「人が足りない」という“言い訳”をせずに受け入れてもらったところで結局のところ安心できないわけですから、医療者の方々にはぜひ今後も「忙しい」「人が足りない」と叫び続けてもらえればと思います。そして患者としても、それこそ“モラル”ある受診を心がけていかねばと思う今日この頃です。 

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コメント

私はこの発言は
マスコミによる「たらい回し」「受け入れ拒否」という誤った報道によって
閣僚クラスの人間まで誤った認識を植え付けられた証拠として
非常に意味の有るものだったと思います。

>nyamajuさん、おっしゃるとおりですね!

確かに、この発言が物議を醸したことで、かえって医療の実態がお茶の間にも正しく伝わることになったかもしれません。ワイドショーでもずいぶん取り上げられたようですから。

ただ、こうしてみると、マスコミの変わり身の早さ、お調子者ぶりのほうがみっともない気もしてきますね。しょうがないんでしょうか。

二階大臣に対して
「医師の立場で申し上げるなら、何よりも政治家のモラルの問題だと思う。政治団体からの献金であり建設会社からのカネではないだの政治資金は足りないだのは言い訳にすぎない」
と言ってあげようww

>元外科医さん

そうですね。でもそちらの場合は、たぶん正しすぎますね。

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