産科医療補償制度 

投稿者: | 投稿日時: 2009年03月09日 15:56

ロハス・メディカル2月号(1月20日配置)の鈴木寛参議院議員(通称すずかん先生)のコラムをご覧になったでしょうか?

今年1月に運用が始まった「産科医療補償制度」について、さまざまな問題点が挙げられていました。くい止める会の「妊産婦死亡した方のご家族を支える募金活動」には、その穴のひとつを埋める意味合いもあります。

今日は改めて、この制度の問題点を振り返ってみます。


まずは制度の概要から。

●対象となるのは、
①分娩に関連して重度の脳性麻痺になった赤ちゃんで、
②出生時の体重が2,000g以上、かつ33週目以上の場合(ただし28週以上なら個別審査あり)。
●医療側の過失の有無は補償の条件ではない。
●支給される補償金は一律3,000万円(20年にわたり分割で受け取る)。
●制度に加入した医療機関が掛け金を支払う。金額は、一分娩あたり30,500円。

では、そのどこに問題があるのでしょうか。
大きく2つに分けられるようです。


1.対象となる赤ちゃんの条件範囲が狭すぎる

「分娩に関する」「重度の」「脳性麻痺」に限定されていて、似たような境遇なのに補償が受け取れない人たちが多いのです。
つまり、「分娩に関する」というのは、先天性や分娩後にかかった感染症による場合は除外されるということです。また、「重度の」というのは、身体障害者1・2級相当の重症であること。さらに、出生時の体重や週数にもしばりがあり、結局、毎年約2400人生まれる脳性まひ児のうち、対象は500人から800人と想定されているといいます。

しかし、ぎりぎりで枠から漏れた人と、ぎりぎりで入った人、彼らが受け取れる金額はそれぞれ0円と3,000万円。この差はあまりに大きいです。枠からぎりぎりでもれた人のご家族の今後の苦労(おそらく枠にぎりぎりで入った人と、さほど変わらないと思うのです)を考えると、彼らへの救済措置が全くないというのは、ちょっと納得いきません。

また、新生児の脳性麻痺については、専門医でさえ先天性かどうかの見極めが難しいそうです。たしかに医療機関が掛け金を負担する以上、この制度に先天性の脳性麻痺を含めることはできないでしょう。しかし、この場合もご家族の苦労を思えば、救済措置の充実が望まれます(やっぱり認定された場合の3,000万円という額は、もらえない人にしてみれば、ものすごく大きいです!)。


2.母体死亡は対象外。

年間、約50人の産婦が分娩に際して命を落としています。←出産は今も命がけの大仕事なのです。これについて産科医療保障制度は全く関知しません。しかし、お母さんを亡くした赤ちゃんと、それを育てていく周囲の人たちにも、やっぱり何らかの支援の手が差し伸べられるべきです。

ちなみにこれについて、すずかん先生はロハス・メディカルのコラムの中で、産科医療制度に国が補助を行うことで、救済が可能としています。以下に引用してみます。

「(ご家族に)補償するには年間約60億円が必要ですが、今回の制度では、医療機関が一出産あたり3万円の掛け金を支払い(出産一時金の引き上げで補填)、全体で300億円が集まります。そのうち150億円から240億円が支払われる予定ですから、国庫補助を少し行えば財政的にも追加は可能。母体死亡も対象に加えるべきです」


一方、周産期医療の崩壊をくい止める会では、「国が動かないなら自分たちが、出来ることから、できる範囲で」と、募金を開始しました。先にお話したとおり、「国(national)や地方公共団体でない、本当の意味の“公”(public)」を目指しています。国に求めているだけでは、事態はそうそう変わりません。皆さんもぜひ「ワンクリック」から始めてみてください!

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コメント

私は産まれつきの脳性まひです。昨年の夏にマスコミからこんな制度が出来ると。なぜ脳性マヒだけが対象なのか?厚生省は産科の医者が足りないからこんな制度を作ったと言った。本当の問題解決にはならないと思う。

脳性マヒの立場からブログを読んでいると、脳性マヒが産まれてはいけないのか?だったら私達は医療ミスで産まれた存在してはいけない命なのか?

まだ優性思想があるからそう言う見え透いたことしか出っていない。

大橋さま

非常に貴重なご意見をありがとうございました。確認させていただきたいのですが、大橋さんは脳性麻痺だけが特別扱いされているとお感じになり、それはともすると差別的であると受け取られているのでしょうか?(間違っていましたら、もう少し詳しくご説明いただけると助かります。)

政府の対応がそもそもそうした「差別的な」意識に基づいているとお感じになるのかもしれません。私の文章からもそのような意識を感じられたのであれば、もう少し違う表現を選ぶなど、訂正すべき点があるのだと思います。

たしかに脳性麻痺の子どもを持った家族の「大変さ」を強調することは、当事者の方々にしてみれば心外なことなのかもしれません。私はそこは想像力を働かせるしかありませんが。

それでも「大変」であることは、決して「かわいそう」なことではありませんし、私は「かわいそう」と言っているわけでもありません。それこそ安易にそう思うべきではありません。

ただ、現在の日本の社会制度やインフラ、ひいては個人の家のつくりからもっと些細なことまで、ほとんどが、いわゆる「健常な」人々を基準として、その人たちにとって最も効率的に、都合のいいように作られています。そのなかで障害等を抱える人たちも生きていくわけですから、不都合や改良するべき点がたくさん出てきて当然です。それには費用が余分にかかります。それを捻出するのは、そのぶん「大変」なことです。

例えば「大変」とは、そういう意味なのです。そういう意味で障害者の方々は、「特別」といってもいいかもしれません。むしろ「特別待遇」を受けてしかるべきなのだと、私は個人的に思っています。特別待遇といっても、もちろん、全人格としてではありません。本人が困っている範囲において、制度や設備の面で、また人々のサポートを当然受けることができる存在として、です。

そういう体制や人々の意識が整っていないとしたら(おそらく現状では整っていません)、それはそんな社会が悪いのです。少なくとも、私はそう思っています。

話を元に戻しますと、ですから、この補償制度に関しては、脳性麻痺の方は、当然、サポートを受けてしかるべきと思っています。そして、そうしたサポートを享受できて当然なのは、大橋さんもお考えかもしれませんが、脳性麻痺だけではないはずなのです。(もっと言えば、そもそもの理想としては、障害者手帳を持っていようといまいと、要は、困っている人がいたら手を差し伸べるのが当然の社会であってほしい、そして、その救いの手を「お互い様」の意識で、当然の権利として受け取れる社会であってほしいのです。)

「見え透いたこと」とお感じになるのも、なんとなくですが、お察しします。それでも「やらない善より、やる偽善」と割り切って、形から入って、ハードをまず整えていくのも一つの手かもしれないと考えてはどうでしょうか。

私の人生において恩師と思える人の半数は何らかの障害をその身に持ちながら人並み以上の仕事を達成している人たちです。脳性麻痺の恩師もおられました。その人たちの精神力の大きさに子供心に大きな感銘を受けて育ってきたものです。

この厚生省提出の産科医療補償制度は大橋邦男さまのおっしゃるとおり、優生思想に基づいた非常に侮辱的でばかげた空虚な制度であると思います。無過失補償制度を要請した産科医がわも、この厚生省案が産科訴訟が多すぎる原因の解決につながる制度であるとはまったく認めていないでしょう。

産科が要請した真の無過失補償制度とは、このブログで行われている「ワンクリック募金」の趣旨そのものであると思います。厚労省が現場や国民の訴えに全く理解を示さない省庁であることが明らかになっていると思います。

前々期高齢者さま

いつものことながら、前々期高齢者さんの誠実で聡明なご見識にため息が出る思いです。前々期高齢者さんが考えておられるこの制度の問題点とは異なるかもしれませんが、厳密には私も、補償対象者の狭さ意外にも問題を感じています。

ここに書いても長くなるわけではありませんが、それについて改めて広く問うてみたいので、別にエントリーを立ち上げてみたいと思います。

ご指摘ありがとうございました。

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