なぜ舛添さんは“孤軍奮闘”しているの?

投稿者: | 投稿日時: 2009年03月12日 10:54

2006年3月17日、周産期医療の崩壊をくい止める会は、福島県立大野病院事件に際し逮捕された産科医の無罪を求め、陳情書と6500筆を超える署名を厚生労働大臣に提出しました。時の厚労相は川崎二郎氏。そしてその翌年からは、皆さんよくご存知の舛添要一氏が厚労大臣を務めています。

舛添大臣は、昨年にも自らの発案で「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」を発足させるなど、周産期をはじめとする医療の崩壊を阻止すべく、精力的に活動されています。一方で、厚労省内での孤軍奮闘ぶりもしばしば報道されています。なぜなのでしょうか?

振り返れば就任以来、舛添大臣は官僚と正面から対決し、ときに真っ向から非難することもめずらしくありませんでした。薬害肝炎問題に関しても、2007年当時、、「官僚だけにはまかせておけない」「厚労省というのは1人1人の国民の命を守るためにある組織なのにそれが不十分。組織の体をなしていない」と発言。これに対して、「少ない人数で、1カ月でできるわけがない」「思いつきで世論受けをすることを言っている。そんなことで行政を進めたら、後々、新たな問題が起こる」との反発が内部から上がりました。

こうした事務方(官僚)の反発というのは、このやり取りを読む限り、想像の範囲内というか、むしろ言いたくなる気持ちがわからないでもありません。私ものんきに「大変だなぁ。生みの苦しみってことかしら」くらいに思っていました。


ただ、振り返れば、ロハス・メディカルの川口さんがインタビューした際にも、舛添大臣はこんなことを言っていました(抄録はロハス・メディカル2008年8月号にも掲載)。

「国民みんなが足りない足りないと思っているのに、平成9年の閣議決定以来、歴代の厚生労働大臣は役人にそそのかされたのか、医師は十分にいると答弁し続けてきた、偏在しているだけだ、と。」

「改革はやっぱりやらなきゃいけないんで、ムダを排し効率的な医療体制を築く、と。じゃあどうやってムダを省くんですかっていう時に、自分たちの権限は縮小しない形で、天下り先は確保したまま、規制権限を強化したまま、そうじゃないだろう、と。私が言っているムダを省けというのは、官僚たちがやっている規制のせいで金がかかってるんじゃないのということ。だったら規制外せばいいじゃない。」


気になるのは、「歴代の厚生労働大臣は役人にそそのかされた」「自分達の権限は縮小しない形で、天下りは確保したまま、規制権限を強化したまま」というくだり。もっと具体的に、例えばどういうことかについては、先月配信された医師臨床研修制度に関するレポートでも言及されています。

要約して一部紹介すると、

●医療事故報道が増えた2000年前後を境に、医療界への官僚統制が格段に強化された。その一つが医師の教育課程を規制する臨床研修制度の導入といえる。
(←医療に限らず業界の不祥事が露見した場合、世論は政府による規制を求める。厚労省がそれに乗じたもの。)
●2004年の臨床研修制度の創設が、厚労省とその外郭団体に、新たな仕事と200億円超の補助金を与えることになった。
●当然のごとく、その外郭団体には複数の”渡り”の官僚(医系技官)が理事として天下っている。(設立目的からすれば、臨床経験が乏しい役人を入れる必要性がないにもかかわらず。)
●このたびの臨床研修制度の見直しでは、①医師数の計画配置権限を役人が獲得し、②研修期間が実質的に1年間に短縮されてもなお外郭団体は2年分の予算とポジションを維持できることとなった。

とのこと。


要は、舛添大臣が闘っている相手は官僚利権そのものであり、また“規制”を武器に焼け太りする官僚、というわけですね。

ただ、官僚の方々のあいだでも、そういったこと(利権云々)に対する自覚がある人とない人、きっとそれぞれいると思います。純粋に、大臣のやり方に疑問がある人もいるでしょう。でも、いずれにしても、こちらにしてみれば一緒です。聞こえてくるのはみんな厚生省内部の事情であって、医療側あるいは国民側、そのどちらの現状も要望も考慮されているようには感じません。

上記の「そんなことで行政を進めたら・・・」という発言は、そもそも本末転倒であると同時に、そうした官僚的発想を象徴しているように思えました。

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