社会が求める外科(第109回日本外科学会定期学術集会)

投稿者: 中村利仁 | 投稿日時: 2009年04月03日 12:19

 福岡に来ています。

 表題の通り、日本外科学会が福岡国際会議場ほかで開催されています。

 最後にスクラブしてから既に3年以上経った元外科医の自分ですが、表記のような副題のついた外科学会総会ですので、これは出ないわけにはいかないだろう、というわけです。

 昨日深夜に博多について、今朝からの参加です。

 朝一のセッションの一つ、特別企画1「危機に瀕する外科医療を救うために」では、今枝宗一郎先生(JR東京総合病院研修医)が歴々衆の中で堂々と自説を主張されていらっしゃいました。

 今枝先生のご発表は、研修医の目から見た外科医療の危機への対策の提案を、世代論を用いて語るというものでした。フロアのベテランの先生からも「全面的には同意できないが、ご指摘はよく分かる」とのご発言を頂戴していました。

 若い先生が臆せず堂々と主張を展開する様子を見るのは、実に気持ちのいいものです。


 さて、外科医療の危機は、今のところは若手の新規参入が半減したという辺りに留まっています。自分は診療報酬を巡る他の演者の諸先生のご発言を聞きながら、全く別のことを考えていました。

 実は日本の手術に関連する診療報酬点数については、世界的に見てもあまり例のない緻密な原価計算が永年に亘って報告されています。そして、診療報酬点数そのものは、常に推奨される半分から三分の一以下で答申されるという状態が続いています。ある意味で原価は無視されているわけです。

 興味深いことに、同じ発表の中で、少なくともいくつかの外科手術では他の国と比較して一ケタから二ケタ低い合併症率が報告されており、また、余命等の長期成績も比較的良好であると指摘されていました。

 質が高くて供給が充分であれば、価格が上昇することはありません。どんなに緻密な原価計算をしても、手術価格、つまり診療報酬点数が上がることはないでしょう。価格メカニズムとしては当然のことと思います。

 価格が上昇に転じるとしたら、需要が増えるか、供給が過少に転じる場合に他なりません。近年、国内では小児科の夜間・休日の外来診療に於いて前者が、分娩医療に於いて後者が観察されています。

 手術に関連する診療報酬点数の上昇が無くとも、その他の要因で外科の道に身を投ずる研修医の先生はいるだろうと思います。しかし、数を語るのであれば、やはり有形無形のインセンティブを論じざるを得ません。価格については、このままならほぼ絶望的であると考えています。

 しかしながら、分娩医療のように一度崩壊の危機に瀕したとなると、その再興は容易なことではありません。数々の施策と提案がこの2年間展開されていますが、産科の後期研修医の数は、今年、漸く下げ止まったに過ぎない様子です。状況改善までにはまだ二手も三手も必要でしょう。

 そういう意味で、外科医療はまだ望みがあるわけですが、望みがあるが故に、納税者のコンセンサスが取りにくく、まだ問題として認識されることすらありません。

 なんとか未然に対策が打てたほうがいいに決まっているわけですが、…。

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