豚インフルエンザとインターネット情報 |
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投稿者: | 投稿日時: 2009年04月30日 16:39 |
鳥インフルエンザが怖い、怖い、いつ来るんだろう、なんて思っていたのに、蓋を開けてみたら「豚インフルエンザ」の脅威が迫っていました(今日のニュース⇒「ひょっとして新型インフルエンザ?と思ったら①」)。
感染はどんどん拡大しているようです。WHOは今朝、世界の警戒水準を4から5(いわゆる“フェーズ5”)に引き上げました。大流行の危機が「切迫」しているという判断です。毒性は強そうではないらしいですが、新型には違いなく、大半の人が免疫を持っていません。毒性の強いものに変異する可能性もあるそうです。
各国で感染者を入国段階で見極め、国内に広がるのを抑える“水際の対策”がとられていますが、「空港での検疫は効果がないだろう」とWHOが指摘したとのこと。アメリカでも持続的に人から人への感染が起きているそうで、近親者があと1週間程でアメリカから帰ってくる私としても気が気でありません。(ちなみにアメリカではほとんど誰も、マスクとか、してないそうです。お国柄でしょうかね。)
こんなとき、やっぱり一番大切なのは、情報ですよね。今どれくらいの患者さんが、どれくらいの範囲まで、どれくらいのスピードで広がっているのか(こんなのもあるようです⇒発症動向を伝えるグーグルマップ)。毒性は強いのか、何歳くらいの患者が多いのか。予防の手段、日本に入ってくるのを防ぐ手段、治療体制・・・知りたいことはいくらでもあります。
そんななか、4月26日から厚労省は休日返上で電話相談窓口を設けていますね。しかし、27日の報道時点で、一番多い質問が「豚肉を食べても大丈夫か」というものだったことは、ちょっと唖然としてしまいました。いくら素人の私でも、それはひどいなあ、と。もとより豚肉はよく火を通して食べないと、食中毒になるといわれますよね?(牛肉とかは生くらいで食べたりするのも普通ですが。)だったら、それくらいのことは一般の国民も自分で判断できていいと思うし、それで回線(=お役人の労働力=税金)を無駄にすべきでないです!
だとしても、あちこちに情報がいろいろと溢れていて、かえって不安になります。まずはWHOや厚労省の発表(ホームページ:新型インフルエンザ対策関連情報はこちら)が一番確かなものと、とりあえず信じるわけですが、それだけでは予備知識を入れるのには足りなくて、皆さんも自然といろいろ情報収集しているのではないでしょうか。テレビをつければワイドショーでもその話題で持ちきりですし、インターネットでも情報がむしろ氾濫し、錯綜してしまっているほどです。
そうなんです。問題は、確かでない情報もたくさんあるだろうということ・・・。
先日までで一番気になっていたのが、英国BBC放送に投稿されたメキシコの医師らの被害実態。
「未報告の死者がいる」英BBCにメキシコ医師らが告発
MSN産経ニュース 2009.4.27
上記の記事から引用してみると、
【メキシコ市の呼吸器系疾患専門医アントニオ・チャベス氏は「1日に3人から4人が死亡する事態が2週間以上前から続いている」として、感染者の死亡率は「メキシコ当局の報告より高いのが真実だ」と指摘。20歳から30歳までの若い世代が「望みを失った医師らの目の前で」次々と亡くなっていくことに、深い悲しみに襲われると吐露した。】
【メキシコ市の医師グアダルーペさんによると、必要な検査が実施されなかったため豚インフルエンザとは報告されていない若者の死亡ケースが数例あるという。】
これらが本当だったら、ちょっと怖いです。何が怖いって、もしメキシコの政府の都合で情報が統制されて、世界のほかの人たちが正しい情報を手に入れられずに対応が遅れたりしたらどうするんだろう、って・・・・。また、このBBCへの投稿についてはその後、メキシコの医療体制を擁護する(“It makes me proud to know that we have such a good system of epidemiological health in Mexico.”Dr Alejandro Vargas, Mexico City )ようなものも現れています。何を信じていいのか・・・。ただ、いずれにしても、メキシコの医療水準を考えれば、先に引用した投稿をただのいたずらとして斬り捨て、楽観してよいような状況ではないだろうなあと思いますが・・・。
ちなみに蛇足。これもウワサに過ぎないのですが、メキシコで流行しているのがインフルエンザではないのではないか、なんて一時ささやかれたりもしました。その元となる報道はどうもこちらだったらしいのですが・・・。これと結びつけるのは、普通に考えても安易で怪しい話ではあります。ただ、こういう話が出るのも、メキシコでの実態が公式発表より実はひどいとか、何か理由があるのかな、とも考えてしまいます。
いずれにしても、やっぱりこういうときはいろんな憶測やデマも飛び交うものなんですよね。特にインターネットの世界は玉石混交です。いたずらに不安をあおるような情報によってパニックに陥っても、何のトクもありませんから、「何が書いてあるか」「何を言っているか」という情報の内容だけでなく、むしろ「誰が書いているのか、言っているのか」という情報の発信元に敏感にならねば、と思います。
↑これはこういうと気に限ったことでなくて、普段からそうなんですよね。自分自身の反省を込めて、そう思う次第です。
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コメント
よければこちらもお読み下さい。
損得勘定をしっかりと
https://lohasmedical.jp/blog/2009/04/post_1734.php
>「空港での検疫は効果がないだろう」とWHOが指摘した
報道によるとWHOの報道官がコメントしたということで正式なステートメントでななさそうですね。
ただ、今般見出された発熱した女性のケースは、空港での検疫の結果見つかったわけで、一定の効果はあるものと思います。
>ただ、今般見出された発熱した女性のケースは、空港での検疫の結果見つかったわけで、一定の効果はあるものと思います。
一定の効果などと謙遜しなくても良いと思います。
空港で数時間待つだけで結果が出るのと、地元の病院から地方衛生研究所、国立感染症研究所と検体が送られて結果が判明するまでに何日もかかる(しかも接触者調査など他にも必要なことが行われる)のとでは、社会的コストも本人の負担感の上でも前者のほうが遥かに良いと思います。
こういう利点をもっと前面に出して、検疫を受けることを前向きにPRすることも大事なのではないでしょうか。
>中村先生
興味深いエントリー、拝読しました。国民が一人ひとりが本当はこういう基本的なものの考え方を身につけておくのが理想なんでしょうね。
>パンダさま、KHPNさま
確かに検疫にも一定の効果はあると思います。ただ、“一定”というのが肝ですよね。潜伏期間の人の存在を考えると、どれだけのものか、わたしは非常に怪しいように思います。水際対策は完璧でない上に、残念ながらすでに遅いのではないかとも思えます。
検疫に過度な期待をかけて、人やお金をつぎ込むことが、本当に正しいのか(ちなみにゲートから出てくる人たちのの体温を映し出してみる機械も、なんでもない太って体温の高かったメキシコ人を止めてしまいました。機械がいくらするのか、費用の無駄ではと思ってしまいます)。むしろ入ってきてしまってから、あるいは既に入っていることを想定して、どう対応するのかについて、国民への啓蒙も十分されているようにも思えませんし(まず感染者も健康な人も、とにかく外に出ないことが一番らしいですね)、医療機関の対応が追いつかない事態を想定して何か準備されているのか等も全くわかりません。そちらの不備、あるいは方針の偏りが目立つ気がしてならない、ということです。
もちろん、空港で検疫に協力すべきことは当然と考えますが・・・。
> 理想
そう、無知と貧困を無くすこと、あるいはできるだけ少なくすること、それこそが戦いなんです。そこで負けていては、ここで勝てません。
本日空港での検疫を経験しました。
質問用紙に記載し、係官が追加質問します。
質問を待っている間にサーモグラフィーで発熱者をチェックしています。
質問事項は、訪問先と、海外で接した人が10日以内にアメリカやメキシコから来たかどうかと、鼻水・のどの痛み・咳などの有無です。
新型インフルエンザ対策は、かなり感染力が高い疾患として対策を立てています。「1時間以上、すぐそばにいない限り映らない疾患」ではなく、「すれ違っただけでも、その時に咳をするなどで容易に感染してしまう疾患」として対策を立てているはずです。しかし我が国へ入ってこないように水際作戦を展開しようとしている、まさにその第一段階で、「長時間一緒にいるなど濃厚な接触を持った人」を見つけるためのロジックで行動しています。
海外で、自分の隣のテーブルで食べている人がどこから来た人か知っている人はまずいないでしょう。バスに乗った人がどこから来ているか知っている人はいないでしょう。
待っている最中に鼻をかんでいても、申告書にチェックしてなければ素通しです。
インフルエンザは発症していなくても、排菌(ウィルス)状態になります。インフルエンザは増殖した際にヒトの細胞膜をまといますので、免疫系の監視をすり抜けやすく、これが問題なのに、発症者の、しかも発熱者をひっかけるシステムでは、体の防衛と同様、成田の防衛も隙だらけです。
検疫自体が無意味とは言いませんが、検疫体制に国民が安心・油断していることの方が怖いです。
中村先生
無知というのは貧困と同等あるいはそれ以上に問題なのですね。「無知」でいえば、マスコミのアンケートで、「新型インフルエンザにかかったと思ったらどうすうるか?」という質問に対し、4割近くの人が「病院に行く」と答えていたそうです。なかでも「近くのかかりつけのお医者さんに」という人が目立ったようで、そのあたりの周知が徹底されていないことにちょっと愕然としてしまいました。
ふじたんさま
>検疫自体が無意味とは言いませんが、検疫体制に国民が安心・油断していることの方が怖いです。
本当にそう思います!上に書いたように、検疫のことが仕切りに報道されているせいか、むしろ国民自身はあいかわらず受身で、自分で正確な情報を手に入れようという考えさえ持っていないのではと思ってしまいます。
今回のウイルスは弱毒らしいことが救いですが、それにしてもあまり国内で蔓延しないで終わってしまって、「入ってきてからどうするか」という対策が不備なまま放置されてしまったら困るなあ、と心配します・・・。