新型インフルの経済損失 続報

投稿者: | 投稿日時: 2009年06月14日 03:28

先日、「感染拡大防止策――保育園や学校が一時閉鎖になると」というエントリーで、新型インフルエンザの流行による経済的損失等について書かせていただきました。

このところまた、それに関連した報道が続いたので、再考してみたいと思います。

なお、先日の報道は、「新型インフルエンザの感染拡大を防ぐため、小学校や幼稚園、保育園が1週間休校すると、共働きの親のどちらかが仕事を休むことで企業が被る経済的損失は首都圏で437億円に上る」というものでした。ちなみにこの「1週間」というのは、出勤すべき5日間のうち、3分の1は実家に見てもらい、残りの3分の2を夫婦が半分ずつ(1~2日)仕事を休んで面倒を見る計算とのことです。


対して、今回の報道では、同じく新型インフルエンザで保育園・幼稚園そして小学校が1週間休校となった場合について、その損失額を全国に広げて試算しています。記事によれば、「5月に新型インフルが流行した大阪府と兵庫県の休園・休校割合を基準にした。共働きの世帯で祖父母が遠隔地にいる場合は平日に母親が3日、父親が2日会社を欠勤するなどと複数のケースを想定。地域別の祖父母との同居割合も考慮し、男女別の平均時給を基に企業の損失額を試算した」そうです。

親の欠勤で企業損失2千億円超 新型インフルで東レ試算
東京新聞 2009年6月12日


もし、より強毒性のインフルエンザが流行すれば、「損失は10~100倍に膨らむ」との予想だとか。2千億円にしても、2~20兆円にしても、額が大きすぎてちょっと感覚がつかめません・・・。


一方、閉鎖する施設側に対しては、その損害について以下のような動きも出てきているようです。

新型インフルで休業減収分、国が支援 保育所や福祉施設
朝日新聞 2009年6月11日


患者の集団発生により一斉に休業措置がとられた場合には、通常の欠席等と違って、その期間分については親から保育料を徴収できない恐れがあるからだといいます。お金の出どころは、先の補正予算で新設された「地域活性化・経済危機対策臨時交付金」(総額1兆円)。この交付金は、保育所や福祉施設への補填以外に、医師が診察時に患者から感染し休業した場合の補償や、流行により修学旅行が中止となった場合のキャンセル代の補填にも使えるとのことです。


さて、こうした経済損失の試算とその対応策の検討が進んでいることはいいのですが、以前触れたように、働き方の現状について、具体的な変革の動きは全く見られません。さらに、経済損失に関しては、もっと気になることもあります。例えば、以下の報道。


関西経済損失743億円 映画館など直撃
中日新聞 2009年5月23日

(上記は大阪・兵庫・京都・滋賀の4県を対象としていますが、奈良も修学旅行キャンセルで県内の観光業に約5億7千万円の損失が出たという試算も。)


こちらもすごい数字ですが、私の素朴な疑問は、「感染拡大阻止のために実質的に役立つ措置のせいで生じた損失はどれくらいだったのか」ということです。つまり、今回の兵庫・大阪での蔓延報道等により、近畿圏が必要以上に経済的打撃を受けたのではないか。簡単に言えば、風評被害が大きすぎなかったか、と思うのです。神戸で最初に国内での人・人感染が報じられてからしばらく、ニュースやワイドショーでは連日、神戸や大阪の閑散とした繁華街の様子と、マスクを着用した人々の姿を流し続けました。空港で防護服に身を包んだ検疫官の姿は、新型インフルエンザの“怖さ”を人々に植え付けました。しかし実際のところ今回のウイルスは強毒性とまでは言えず、感染しても重症化したり死に至る数はごくごくわずかです。普通に生活していて普通の風邪を引く事だってあるくらいですから、それ思うと報道の過熱ぶりは目にあまり、そして損害額が大きすぎる気がしてなりません。


ここ最近、新型インフルエンザについての報道はだいぶ下火になってきました。国内外の感染者数は今も増え続けているにも関わらず、です。そこには行き過ぎた報道への反省があるのでしょうか。検疫に対する見方など、報道内容の傾向は確かに変わってきましたが、取材や報道の手法やその影響についての自省はそこにあったのでしょうか。単に視聴率等の数字との相談ではないのでしょうか。


もちろん、報道のあり方ばかりが原因ではありません。検疫を強行し国内対策の遅れも指摘された厚労省や、テレビから流れ続ける画に単純に影響されてマスクを買いに奔走し、関西旅行を取りやめて更にテレビにかじりつく私たち国民(オイルショック当時にトイレットペーパーを買いに走る姿を彷彿とさせます)のほうにも、考えるべきところはあるんだろうな、と思うのですが。

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