夏の登山は油断禁物-低体温症。 |
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投稿者: | 投稿日時: 2009年07月20日 05:29 |
このところ、夏山での遭難・死亡例が立て続けに発生し、問題になっています。とくに中高齢年(40代以上)の登山人口は年々増加しており、夏山では登山者の8割に上るのだとか。もっといえば、7割を高齢者が占めているという話もあります。まさに中高年登山ブームです。
先日も北海道の大雪山系の2つの山で遭難が相次ぎ、合計10名の方が亡くなられました。メンバーは59歳~69歳でした。夏山での遭難被害としては戦後最大だそうです(1961年以降)。その死因は低体温症による凍死だったといいます。夏に凍死とは、ちょっと驚きです。
まず、低体温症とはどういうものなのでしょうか。
定義としては、「体温(直腸温などの中心体温)が35度以下になったために発生するさまざまな症状の総称」ということになりそうです。通常、恒温動物というのは体温を一定に保つように自律神経が働き、体の機能を正常に保っています。ところが、こうして体温が正常な場合は体内で絶え間なく行われている生化学的反応が、温度が下がることで、通常通りに起こらなくなってしまうのです。
ごく軽度の場合は、体温が上がれば自力で回復することも可能です。しかし低温状態が長時間にわたった場合や重度の場合、そして自律神経の働きが損なわれた場合は、死に至ることもあります。それが凍死です。今回のケースもこれでした。怖いのは、かなり初期の段階で正常な判断能力が失われ、そして30℃以下になると加速度的に体温が低下していくことです。
【 低体温症の推移 】
(低体温症についてより引用。こちらのサイトにはほかにも注意事項など載っていますので、夏登山に興味のある方は参考になさってはいかがでしょうか。)
●前兆(36.5~35度):
意識は正常。手の細かい複雑な動きができない。さむけ、ふるえがはじまる。
●軽症(35~33度):
無関心状態、すぐ眠る。歩行よろめく。口ごもる話しぶり。ふるえ最大。(協力的にみえて協力的でない態度や、まともそうに見えてまともでない言動も。)
●中等症(33~30度) :
33~32度 会話がのろい。閉じこもる。逆行性健忘。意思不明。運動失調。
31~30度 錯乱状態。支離滅裂。しだいに応答しなくなる。震え停止。歩行や起立は不可能。
●重症(30度以下)
30~28度 半昏睡状態。瞳孔散大。心拍、脈拍微弱。呼吸数は半分以下。
28~25度 昏睡状態。心室細動。
25度以下 腱反射消失。仮死状態。
20度以下 脳波消失。心停止。
今回の遭難では、気温は15℃~20℃、山頂付近は10℃以下だったといわれます。問題は風速で、毎秒20mを超えていました。風速が1m/秒上がることに、体感温度は1℃低下するそうです。となると、登山者の体感温度は氷点下だったことになります。夏山で、しかも中腹の気温が20℃近い中で、結果として氷点下と同じにさらされるとは、まるで予期していなかったのでしょう。今回被害にあわれた方たちはみな、本州からのツアー登山客だったそうですから、地元の人たちよりもさらにその認識は薄かったのではと想像します。
何かのTVインタビューで、登山ツアーガイド経験者が、「ツアーの難しさは、どうしてもお客さんの意向を無視できないところ。しかもツアーで参加してくるお客さんほど、登山経験が乏しかったり、夏だからと気楽なハイキング気分だったりする。そして、そういう人たちほど、登山中は大変な目にあって途中で下山を決めても、無事下りてきてしまうと『どうして登頂させてくれなかったのか』と文句が出るもの」と話していました。ガイドはツアー客の命を預かっているわけですから、そうした文句が出ることはわかっていても、決断するべきときは決断しなければなりません。しかし、認識の甘いツアー客との間で板ばさみにあう様子も目に浮かびます。
要するに、低体温症を防いで夏山を楽しむには、服装などの準備はもちろんのこと、本人の認識、心構えが一番大事なんですね。とにかく「無理をしない、させない」こと。そうすれば、また登る機会はあるでしょうから。自然のほうが、なんといっても人間より強いのです。だめなときはだめなのです。はじめからそう諦念して、欲張らないことかもしれませんね。
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