たばこ税 やっぱりぐんと上げてほしいな、と。 |
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投稿者: | 投稿日時: 2009年11月12日 17:02 |
政府税制調査会の場で、たばこ税を増税するか、どの程度増税するか、議論が白熱し、報道が相次いでいます。
●どうなるたばこ税・環境税…国民・産業界の影響は?
(2009年11月07日売新聞)
反対の意見の中心は、需要減を懸念する産業界と、また結果としての税収減を問題視する声で占められています。もちろんしぶとい愛煙家から文句が出るのは当然ですが・・・。
それでも長妻厚労大臣に続き、鳩山首相も「税収より健康が大事」と表明。
●たばこ税:「税収より健康」 増税検討、首相が表明
(2009年11月11日 毎日新聞)
もともと嫌煙派の私としては、ごくごく単純に、心強い一言です。そもそも、増税によってたばこからの税収が減ったとしても、国民経済にとって悪いことばかりではないだろうと思うのです。
というのも以前、どこかで「喫煙による経済損失」や「たばこの適正価格」について、国家規模で試算してみたものを目にしたことがあった気がしたからです。今回改めて探してみたところ、過去にもいくつも研究発表がありました。
●たばこ税増税の効果・影響等に関する調査研究
(医療経済研究機構)
【1999年度の喫煙による超過医療費は13,086億円となった。また、喫煙による労働力損失は58,454億円となった。これらを合わせると、喫煙者が一消費者として負担しきれずに、喫煙者が属している共同体に負担させているコストは、71,540億円となる。】
【喫煙による超過医療費の合計額が、国民医療費(309,337億円)に占める割合は4.2%となった。 】
●タバコの適正価格について
(関西学院大学経済学部教授 河野正道 日本禁煙学会)
【タバコの適正価格を社会科学的に導出した研究は少ない。後藤※はそのうちの一つであり、しばしば引用されている。しかし、(中略)彼が用いたデータ、および社会コスト、経済メリットの定義を用いて計算したとしても、真の適正価格は約1000円となるはずである。さらに、合理的に、社会コスト、経済メリットの定義を変更すると、更に高くなり、約1400円となる。】
※国立がんセンター後藤公彦氏。「環境経済学概論」(5.経済・不経済の判定事例)朝倉書店、1998年発行に掲載。河野教授の上記論文によれば、後藤氏が試算に用いたデータは、【1990年の資料によると、タバコ産業は総額2.8兆円のメリットを生み出した。その内訳は、税金納付1.9兆円、タバコ産業賃金、内部留保0.4兆円、経済波及効果による他産業での賃金支払い0.2兆円、他産業での内部留保0.3兆円、社会的コストは医療費3.2兆円、喪失国民所得2兆円、消防・清掃費用0.2兆円、その他0.2兆円、合計5.6兆円】とのこと。
⇒タバコ産業メリット2.8兆円-タバコ産業社会的コスト5.6兆円=社会的損失2.8兆円
これらは10年ほど前の研究になりますが、このところ喫煙者数は「微減傾向」(JTホームページより)とのこと。先日は、「喫煙率、男性大幅減、女性は微減」という報道もありましたから、上記の金額にもそれなりの変化は生じているかもしれませんが、半減などといった大きな変動はないものと考えてよいかと思います。
という前提で見ても、喫煙による社会的コストは相当なものですね!国家全体では、喫煙が原因とされる疾病にかかる医療費と、それによる労働力損失をあわせて、7兆円を上回るコストが発生しているのです。なお、これらの調査では、間接喫煙者の医療費(100億円以上)や、また火災による損失、タバコの吸殻の清掃費用なども含めて算出を行っているようです。もちろん、先述のとおりこれらの数字は新しくはなく、どれだけ信用できるかは別かもしれません。しかし、そうだとしても、喫煙者の健康のみならず周囲の人の健康や、さらには生活環境維持にも莫大なコストが投じられていることは、考えてみれば誰にでもわかることです。
そう思えば、やっぱりたばこの大幅増税を支持したい気持ちになります。先に副厚労大臣も1箱当たりの価格を「イギリスでは850円、フランスでは550円、ドイツでは466円、イタリアでは441円」と言及しましたが、日本のたばこ税率は世界の中でも低いほうだという話もあります。これら欧州各国のたばこの価格は、長妻大臣も「欧州並みに」と引き合いに出しましたが、その矢先、EUではさらなる税率引き上げが合意されたそうです。
●EU、たばこ増税で合意 14年までに最低税率60%に上げ
(2009年11月12日 日経新聞)
今回、日本では最終的にどの程度の値上げになるかはわかりませんが、実際には中途半端な額に収まりそうな気がしてなりません。嫌煙家としては、やるなら本当に喫煙率が下がるべく、徹底してやってほしいところです(もちろん喫煙もマナーを守っていただくならかまわないわけですし、むしろ向上のほうが重要ですが)。いっぽう愛煙家からは、その部分を鋭く突いた厳しい指摘も上がっています。
●サンデー時評:たばこ「増税」するなら筋を通せ(2009年11月12日 毎日新聞)
【本当に〈健康〉が第一というなら1000円くらいにしなければ意味がない。だが、鳩山さんらの狙いが税収増であることは明白だ。500円案がでるのは、それくらいなら喫煙者の減少も大したことはなく、結果的に増税できるという読みがあるからだろう。にもかかわらず、いかにも体の健康を第一に考えて値上げするかのようなポーズをとるのは、まぎらわしいというより、一種の欺瞞ではないか】
たしかに、もしかしたら“欺瞞”と言われても仕方ない面もあるかもしれません。先にご紹介した医療経済研究機構の研究でも、「許される値上げは300~500円まで」「たばこ1箱1,000円になると、63.1%の人が喫煙をやめる」というインタビューの結果も示されていますから、確かな禁煙効果が期待できるのは1箱1000円以上の場合でしかないのかもしれません。しかし、同時に「ほぼ半数の喫煙者がたばこをやめる価格は300円から500円の間」「300円までの値上げによる行動の違いは、ニコチン依存度と禁煙への関心」「500円までの値上げによる行動の違いは、禁煙への関心」という考察も示されています。ですから仮に大臣や総理の「健康」コメントに“表向き”という要素が否めなかったとしても、禁煙を考えるのに多少なりとも効果があるのであれば、何か問題や不都合があるでしょうか。
ちなみに余談ですが、「低タール」「ライト」を謳ったたばこも、健康を害する程度は通常の製品と変わらないのは有名なこと。その理由は、
●「低タールたばこ」ならいいの?
(2006年1月23日 日経NP NET)
【ニコチン依存者は、強いたばこから低タール低ニコチンたばこに替えると、吸入されるニコチン量が少ない分、喫煙間隔を短くしたり、煙を深く吸い込んだり、肺に長くとどめたりなどしてニコチンの吸入量が増すように喫煙行動を変化させるのだ。しかも、タールが10分の1となっていても、必ずしもその中の発がん物質も10分の1まで減っているとは限らない。ニコチン吸収量を一定にしようと喫煙行動を変化させた結果、かえって発がん物質の吸入量が増加してしまうなどということがありうるのだ。】
とのこと。しかもアメリカの研究では、「『ライト』たばこに切り替えると禁煙率が低下」することも報告されています。これはなんとなくわかりますよね。ダイエットに置き換えてみても、思い当たる節があります。ダイエットでは「カロリーが低い」といわれる食べ物に便りがち。ところが、そうなると「じゃあ」とつい油断して食べなくてもいいのに手が伸びたり、あげく食べ過ぎてしまうのです。しかし当然、「低カロリー」は「ゼロカロリー」ではないので、結果、カロリーを摂りすぎる、なんて本末転倒なことになるわけです・・・(反省)。それと似たようなものでしょう。しかも、「ライト」「低タール」といっても健康を害する程度が通常と変わらないわけですから、もっとたちが悪いですよね。
話がそれてしまいましたが、要は喫煙者の人たちも健康は気になるからこそ、せめて「ライト」「低タール」に気分的に依存しがちになる、ということではあると思います。つまり、それだけ禁煙はなかなか難しいもの、ということなんでしょうね。だったら、しょうがない。値上げは非常に単純ながら、やはり禁煙を促す手っ取り早い方法ではないでしょうか。
思えば20年前などは、喫煙はどこでもOK、飛行機の中でさえ当たり前、まさに野放しでした。倍額にするなどその頃なら想像もつかないかもしれませんが、今や状況がまったく違います。若い男性の喫煙率も下がってきていて、これから喫煙者人口はほうっておいても、ますます減っていくことでしょう。とすれば、喫煙者人口まだ多い今のうちに先手を打って税率をぐんと上げておくのは、税収の面でも悪くないタイミングだし、それで税収が減ることになっても将来的には喫煙にまつわる医療費が減ると考えられる・・・いろいろな意味で賢い選択のようにも思うのです。
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コメント
「子供手当て」や「高校授業料無料化」および「高速道路無料化」という税制上疑義だらけの公約が予算策定前に国会議論の俎上にあがるのを遅らせるために、新政府がマスコミを使った陽動作戦としてタバコ税や環境税というような急を要さないうえにたいした財源にもなりそうも無い税論議をわざと起こしているのでしょう。
いっそのこと、タバコ税と酒税とは全て医療費に組み込むことにすれば良いとさえ思います。地方に配るからややこしい話が出てくるし、JTも堂々と発言できるでしょう。
喫煙が体や社会に悪いと言うなら、税収は無くなるが、たばこの販売及び喫煙を大麻や覚せい剤などと同じく法令で禁止すべきである。
峰崎直樹財務副大臣が「たばこは健康に良くないという観点」で増税するといっているのは、ばら撒き財源確保のための詭弁である。
喫煙の健康被害などが明らかとなった現在においては、課税の対象から禁止の対象に変えるべきである。
健康保険料などの負担が減る。吸殻のポイ捨てによる道路などの不快な汚れもなくなる。
たばこ税を上げても効果は限られるが、喫煙者を減らすには、税額は欧州より高い1箱千円以上が妥当。
国が半数を保有するJT株式を売却して埋蔵金を確保しつつ、JTを完全民営化すべき 。
日本共産党の市田忠義は、喫煙権もある、と言ったとか。そのうち、大麻権や覚せい剤権があると言い出すのだろうか。
ふじたん様
うーん、いつもながら秀逸ですね。それがいちばんかも。タバコ税など上げようと思えばいつでも上げることができる政府の専決事項ですから。
ついでに、禁煙外来も同時に保険医療から外してメタボ健診同様保険外健診とすれば医療費総額に対する相乗効果も期待できそうだし。
前々期高齢者 様
>メタボ健診同様保険外健診
メタボ検診(正式名称は特定健診・特定保健指導)は、保険「外」検診ではありません。高齢者の医療の確保等に関する法律の第20条の規定に基づき、健康保険、国民健康保険などの公的医療保険者が実施する保険事業の一つで、法律的には広義の保険給付事業です。検診の受診費用は、原則として公的医療保険者(国保・健保等)の負担です。正常分娩での出産育児一時金と同じく、厚労省が集計発表する国民医療費(約34兆円)には含まれませんが、保険給付であることは同様です。
法務業の末席様
>メタボ検診(正式名称は特定健診・特定保健指導)は、
(略)正常分娩での出産育児一時金と同じく、厚労省が集計発表する国民医療費(約34兆円)には含まれませんが、保険給付であることは同様です。
詳細なご解説ありがとうございます。私が時間が無くて文章を端折り過ぎたためお手間を取らせてしまいましたが、もともとのふじたん様の「タバコ税と酒税とは全て医療費に組み込む」に対応して保険医療から削るべきものとして(1)タバコ税→禁煙外来と(2)酒税→メタボ(特定)健診をあげたつもりでした。が、悪文でした。
しかしおかげさまで今まで知らなかった「正常分娩の出産育児一時金」が保険給付であることを知ることができました。このお金は医療保険の現物給付を行った医療機関に対してだけ支払われているのでしょうか。
前々期高齢者 様
>「正常分娩の出産育児一時金」が保険給付であることを知ることができました。このお金は医療保険の現物給付を行った医療機関に対してだけ支払われているのでしょうか。
結論から先にお答えすれば、出産育児一時金は医療保険の現物給付を行った医療機関に支払われることは無く、分娩出産した被保険者に支払われます。産婦人科での正常分娩は、診療報酬点数表に記載の無い自由診療ですが、概ねこの出産育児一時金(39万円+補償保険料分3万円の計42万円)の金額に合わせて、正常な分娩出産での入院分娩費用を決めているのが実態です。
なお健康保険での「狭義」の保険給付は、健保法52条に規定される以下の9種類になります。
1) 療養の給付並びに入院時食事療養費、入院時生活療養費、
保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費及び移送費の支給
2) 傷病手当金の支給
3) 埋葬料の支給
4) 出産育児一時金の支給
5) 出産手当金の支給
6) 家族療養費、家族訪問看護療養費及び家族移送費の支給
7) 家族埋葬料の支給
8) 家族出産育児一時金の支給
9) 高額療養費及び高額介護合算療養費の支給
この9種の給付の内、保険医療機関に支払われるのは1)と6)だけです。約34兆円の国民医療費にカウントされるのはこの2つだけです。残りの2)3)4)5)と7)8)9)は、保険医療機関ではなく、被保険者本人に直接支払われますし、国民医療費の集計には算入されません。
またこの健保法52条の給付の他に、健保法150条にて「特定健康診査等」(いわゆるメタボ検診)が、検診を実施した医療機関に直接支払われます。これは形の上では前記の健保法52条での保険給付と同じように、健保の財政から費用が医療機関に支払われますので、受診する被保険者から見れば保険適用のように見えます。
ただ健康保険法の正式の呼び名ではこの検診は「保健事業」(保健の2字に注意)と呼ばれ、法52条の「保険給付」とは区別されますので、私は「広義」の保険給付という表現を先の投稿用いました。この広義の保険給付という用語使いは私独自のもので、法令上の正式のものではありませんのでご注意下さい。
先の投稿では説明不足で、分かりにくい書き方を書き方をしたと、私自身も反省しております。
たばこの増税自体には賛成ですが、上記記事にあるような計算通りにはならないと思います。あまり高くすると「闇ルート」のたばこが出回る危険性があります。結果的に暴力団を利する危険性もあり、この辺も考慮しないと机上の空論になりかねません。増税するなら「闇たばこ」自体に対する罰則強化の法整備も並行作業で行っていくなども検討される必要があるのではないかと考えます。
こんなことも考え合わせれば、当面はせいぜい一箱500円未満で抑えておくのが妥当なところなのではないかと言う気がしています。
法務業の末席様
>分かりにくい書き方をしたと、私自身も反省しております。
いえいえ詳細を示していただきよく分かりました。
健保法52条の支払い先規定そのものにそもそも保険業務遂行に必要な最低限の財政規律も認められず、厚労省が恣意的に「医療費」の支払い先を決めているということがよく分かります。世界の保険業界では考えられないほどの金銭感覚の甘さですね。医療制度を維持するためという名目で国民から集めた保険金である「医療費」を運用する厚労省がこれでは、国民皆保険制度が維持できるはずがないであろうと感じました。