人の関わり合いが価値を掘り起こす~書店営業から見えたもの

投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2010年06月16日 14:58

  「救児の人々」が発売されてもうすぐ1カ月が経とうとしていますが、まだまだ地道に書店回りを続けています。

 今日は、「こういうことが、Amazonなどネット販売にはできない、リアルな書店の良さだな」と感じた事がありましたので、お伝えしたいと思います。

 前回お伝えしましたように、書籍の「ディスプレイ」とも言える書店には、続々と新刊が入ってきます。年間に出版される新刊書籍は約7万冊以上ともいわれ、なんと1日約190冊以上の新刊が出ているという計算になります。毎日そんなにも大量の書籍が出ているわけですから、書籍売り場の棚や平積みコーナーに飾られる書籍はめまぐるしく入れ替わります。

 入れ替えの様子は各書店や売り場担当の方によって違うと思いますが、新刊書籍が出てから1~2週間ぐらいで、「この本は売れる、売れない」といった目星が付けられます。書店は必要に応じて取次に書籍を発注したり、返品していきます。「救児の人々」も、売れ行きがよければそのまま平積みにされていたり、様子を見て棚に置いていただけたりしているかもしれませんが、もしよくなければ店頭から消えているかもいしれません。先日お渡ししているポップ広告も、もし書籍が売れていれば使ってくださっているかもしれません。でも、どうなっているかは・・・分かりません。

 今日は東京・新宿区周辺の大手書店を5軒ほど回ってきました。前回から1週間ほど空いていたため、一体本がどうなっているか、かなりドキドキしました。最近会社にいると、書店からの返品のファクスがちらほら届くようになってきました。残念ながら、その店舗では「売れない」印が付けられてしまったということです。それを見るたびに本当に落ち込んでましたので、「店頭から完全に消えていたらどうしよう・・・」と、こわごわでした。

 そんな時、友人から携帯に1通のメールが。彼は私がこれから行こうとしていた店舗に一足先に行っていて、お友達へのプレゼントとして一冊購入してくれたというのです。しかも、「医学書で『なんとかの人々』というのはありますか」とわざと店員さんに尋ねてくれたらしく、店員さんはすぐに察して書籍を案内してくれたとか。本当に嬉しいなあと思いました。しかも、平積みされていたということまで教えてくれました。その店舗は最初は平積みして下さっていましたが、次に行くと棚に戻っていたので、「今は平積みなんだ!」と喜びも一入でした。

 そして新宿に到着。嬉しいことに、今日回った店舗はすべて平積みして下さっていました。しかも、ほとんどのお店がポップを使ってくださっていました・・・。手書きも混ざった手作りラミネートのものだったので、周りに置かれている鮮やかで迫力あるポップに比べると、なんとも素人感溢れるちまちました細工になってしまっていましたが、それはそれでまあ可愛らしかったかと思います。手作りしたポップが飾られている様子を見ると、本当に嬉しかったです。

 医療書籍売り場の中で、2か所に置いて下さっているお店もありました。平積みの場所も、店舗によっては前回の場所から少し移動して「妊娠・出産」「代理母」といったテーマの書籍の近くに置いて下さっていたり、医学書から医療倫理のコーナーに移っていたり。ほかの店舗では、ご担当の方が「内容的には医療倫理かと思いましたが、周産期医学書や新生児看護のコーナーでも結構出てるので、置いてみてますよ」と。売り場所についても、色々と考えて下さっているんだなと思いました。

 「救児の人々」は医療界内にとどまらず、最終的には日本全体で考えていかなければいけないのではないかと思う事について問題提起しています。このため、普段あまり医療のことを考えない一般の方にも読んでいただけるようになれば、という個人的な願いもあります。書店の中でも例えば、社会問題や教育的な内容の書籍コーナーなどにも置いて頂けるようになったら、と思っていました。でも、どうしても入口のジャンルは「医療」ですし、内容を知って頂かない間は、「周産期医学書」のような臨床系書籍と同じ振り分けにもなります。売り場やフロアが全く変わるとなると、書店の中でも色々な都合があって大変だと思うので、今はまだ仕方ないと思っていました。

 それでも、私が売り場担当の方とコミュニケーションしていくうちに、書籍の中身を知っていただけて、「これは国民皆で考えていかないといけない問題ですよね」と言って頂ける事もありました。そうしていると、少しずつ売り場が移動していたり、ポップの扱いも変わっていたり、店員さんが書籍のことを考えて工夫して下さっている様子がが伝わってきました。こうなってくると、ふらりと医療コーナーに立ち寄った方の目の止まり方も、違ってくると思います。

 さらに嬉しかったのは、ある店舗の売り場ご担当の方が「書店のホームページの書評欄に、この本の事を書いてみますね。読んでみて、興味深い内容だと思いましたので」と!その方ご自身が書評を書いて下さるということでした。そちらも大型店舗でしたので、すごいことだと思います。書籍について色々お伝えしてきたことを汲んでくださり、書籍にも目を通して下さった上で、書評に取り上げて頂けることになったというこの一連の流れ。これは人同士が関わり合うリアルな書店ならではで、本当に有り難いことだと思いました。

 こうした事を考えていると、コミュニケーション(営業なわけですが)によって、「救児の人々」の価値を伝えられたのではないかなと感じました。ネット上のバーチャル書店にも様々なメリットはありますが、人同士の関わりの中で書籍の良さを見出し、アナログに変化していくリアルな書店は良いものだなと思いました。また、電子書籍の出現などで出版業界が変わろうとする中、書店自体もバーチャル書店との違いを打ち出して生き残りをかけているところもあるのかもしれないと感じました。その「違い」とは、クリックだけでは決して見えない書籍の価値を掘り起こして「見える化」していくということも、一つあるのかもしれません。

 そんなことを、今日は感じました。また、地道に書店回りを続けていきたいと思います(もちろん取材活動もしてますよ)。

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