第1回不活化ポリオワクチン検討会 傍聴記 その1

投稿者: | 投稿日時: 2011年09月02日 02:16

引き続き、8月31日に開催された「不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会」の傍聴記①です。


 まずいきなり余談ですが、厚労省の検討会がどんな部屋でどんなふうに行われているか、皆さんご存知でしょうか?私自身は医療機関や医療者、特定の国会議員といった方々の取材は経験してきたのですが、省庁の「検討会」は今回が初めて。どんなものか、未知の相手だけれどもとにかくまずは行ってみた、というのが本当のところです。

 今回は、厚労省の会議室が2間つづきになった部屋が使われていました。前半分に机がロの字型に並べられ、正面中央が座長席、その両サイドに厚労省が声をかけて集まった「構成員」の方々が並び、手前の列には、座長と向き合うように厚労省の健康局長や結核感染症課長といったお役人の方々が座ります。テレビなどでチラッと映し出される、いかにもな画ですね。そして後半分が、椅子だけが前向きにずらずら並んだ傍聴席。さらに、ロの字テーブルと傍聴席の間には机が一列並んでいて、これが事務局席です。厚労省の事務官の方たちが記録など取るのですが、ちょうど役付のキャリアの方々の背後を固めているようなイメージでした(考え過ぎ)。


 検討会の開始15分ほど前から委員の方々が集まり始め、最後にお役人の方々が入場です。この冒頭の10分間だけ、前のほうに出て行って写真を撮ることができます。いわゆる「頭撮り」ですね。委員やお役人の方々が並んで座っているだけなのであまり面白みのある被写体とは言えませんが、私もどさくさにまぎれてシャッターを切ってきました。しかしながら、腕も経験も足りず、被写体の力も借りられず、試行錯誤するうちに撮影時間は終了しました。


 なお、配布資料によれば(要約)、

●検討会の設置目的:
・早ければ来年度中にジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオの4種混合ワクチンが国内で導入される。ま単抗原不活化ポリオワクチン(ウイルスにも3タイプあるのですね)の開発も進められている。
・今後それらの開発状況や承認後の供給体制を見越しつつ、生ポリオワクチン(OPV)から不活化ポリオワクチン(IPV)に移行する際の公衆衛生上の課題や円滑に移行を進めるための具体期方法について、専門家や接種現場の関係者等を交えて検討を行う。

●検討内容:
・不活化ワクチンの接種体制構築、国民への周知
・移行期におけるOPV,IPV,単抗原IPVの接種対象
・さまざまなワクチンの接種対象者が混在することへの対応

●委員メンバー(敬称略)
・ポリオ、予防接種の専門家
岡部信彦(国立感染症研究所感染症情報センター長)、清水博之(国立感染研ウイルス第2部室長)、廣田良夫(大阪市立大学大学院医学研究科教授)

・医療機関の方
齋藤昭彦(新潟大学医学部小児科教授)、中野貴司(川崎医科大学小児科教授)、保坂シゲリ(社団法人日本医師会常任理事)、保科清(社団法人日本小児科医会会長)

・市町村行政担当者
坂元昇(川崎市健康福祉局医務監)

・患者の立場の方
小山万里子(ポリオの会)、丸橋達也(ポリオの会)

・メディア関係者
蒲生真実(㈱風讃社たまひよコミュニケーションディレクター)

となっています。
 

 いよいよ検討会が始まりました。まず座長の選出が行われました。といっても、事務局(=厚労省)側が事前にお願いした方が、「異議無し」という声の下、予定通りその席に納まります。今回は、国立感染症研究所感染症情報センター長の岡部信彦氏です。次に、事務局から、検討会設置の目的や内容、委員メンバー、そしてポリオの病態や流行状況、ワクチン開発・導入の経緯、調査等が足早に説明されました。これはメモを取るのが大変だ、と身構えましたが、全部配布資料に書いてくださってあったので、ほとんど手を動かさずに済みました。10分程度、委員も傍聴席も、手元の資料を見つめながらひたすらに読み上げられるのを聞いていました。そのなかで私が注視したのは以下の点です(資料より一部を抜粋して要約)。


●ポリオについて:
・感染者の0.1~2%程度が発症し、多くは不顕性(外に現れない)感染。
・発症例では、ポリオウイルス感染による運動神経細胞の不可逆的障害により弛緩性麻痺を呈する。
・多くの場合、麻痺は完全に回復するが、一部では永続的な後遺症を残す可能性が高い。
(以上、国立感染症研究所感染症情報センターHPより)
・特異的治療法はなく対症療法が中心。

●国内流行状況:
・昭和56年以降、野生株ポリオによるポリオ症例の報告はない。
・ポリオ生ワクチンに由来して、きわめてまれではあるものの、ワクチン接種者や、2次感染者により周囲の者に、ワクチン関連ポリオ麻痺が発生している。


ちょこちょこと気になったのは、

●「不顕性」が多いなら実態はどこまで正確に把握できるの?

●「多くの場合、麻痺は完全に回復する」というけれど、ポストポリオ症候群(PPS)が回復者にも現れた例が米国で報告されているとのこと(byポリオの会小山会長)。一時の安心でなく、将来を考えるために、PPSのことも必ずセットでアナウンスすべきでは?

●同じく、「きわめてまれ」というが、本当にどこまで稀なの?
といった点です。そもそも「付加逆的」障害が「完全に回復」というのも一見矛盾していて理解しづらいところ。この「完全に回復」という表現については、事務局の資料朗読(?)のあとの質疑応答でも以下のようなやり取りがありました。


中野氏(川崎医科大学小児科教授)
「ポリオの場合、いったんおこった麻痺は回復しない場合が多いと思いますので、(完全に回復というのは)書き間違いではないのかと。ご確認いただきたいんですが」

岡部座長
「(自身の所属が、感染研感染症)情報センターなもので補足しますと、ここで書かれていますのは、多くの場合が一過性の麻痺だと。非可逆性の麻痺を残した場合は、『ポリオ麻痺』として最大の問題を残すと、そういう趣旨でございます」


「多くが一過性」。たしかに数からすればそうかもしれませんし、短期的に見れば間違いなくそうなのかもしれません。でも、回復する麻痺としない麻痺の違い、つまり回復のメカニズムについては、ロハス・メディカル2011年3月号特集「ご存知ですか ポリオ生ワクチンの危険」のPPSの説明のところでも断っているように、完全に解明されたわけではありません。こうした部分があるだけに、どんなに軽症だったり不顕性であったとしても、将来的にPPSが現れる可能性も否定しきれないのですから、かならず言及すべきだと思ったのです。


つづく
 

<<前の記事:DPC病院の特性等に関する調査結果 コメント欄    第1回不活化ポリオワクチン検討会 傍聴記 その2:次の記事>>