第1回不活化ポリオワクチン検討会 傍聴記 その2 |
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投稿者: | 投稿日時: 2011年09月03日 02:08 |
引き続き、8月31日に開催された「第1回不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会」の傍聴記②です。
次に登場したのは、参考人として呼ばれた国立感染症研究所所長の宮村達男氏でした。ポリオの流行状況やワクチン開発の経緯など、「基礎的な流れ」(by岡部座長。岡部座長によれば、「今回の検討会で何か結論を出そうというのではありません」とのこと。あくまで今回は現状把握と問題意識の確認・共有といったことが目的らしい)について、事務局より一歩踏み込んだ大変丁寧な説明がありました。まず最初に、とりあえず書き留めたのは以下のような発言です。
●一生回復しない麻痺の残る患者が出る一方、不顕性の感染者が多く、「麻痺が出た患者一人の後ろに、20人のごく軽症の患者がいて、さらにうしろには180人のまったく症状の出ない患者がいると考えてください」
●しかしながら、「多くの患者はごく軽度の一過性の症状が出て、また治る、と言っていますが、実は、きちんとしたデータがあって言っているわけではありません」
●「ポリオを本当に根絶するということは、感染者をなくす、ということですから、この麻痺の出た一部の人は、サーベイランス(発生動向調査)のとっかかりに過ぎないと考えるべきです」(つまり、麻痺とその患者の発生にばかり注視するのではなく、感染者全体を視野に入れた対策を続けねばならない)
●「ポリオウイルスは、急性弛緩性麻痺の一つの原因に過ぎない」。他のウイルスや非感染性の障害、外科的障害も麻痺の原因となるため、調査や研究にあたっては、あまたある麻痺の原因からポリオによる患者さんを見分けねばならない。
要するに、上記のような理由から、ポリオの感染・流行の調査は困難です、ということ??それでも宮村氏いわく、「病気の対策で一番大切なのは、国レベル、自治体レベル、個人レベル、それぞれが『病気を正しく理解して、正しく恐れる』ことと考えております」とのこと。確かに、それもその通りです。宮村氏は、研究者としてのスタンスからまっとうな説明と意見を示したに違いありません。ただ改めて振り返ると、「調査が難しい」云々は、もちろん私たちも理解しておいたほうがよいかもしれませんが、ともすると調査が進まなかったり曖昧なままだったりすることの言い訳に使われかねないなあ、と思ったりするのでした。
さらに宮村氏の話は続きます。
●「ポリオというのは人でしか増えないという大きな特徴があります」。
●だから、「ワクチンでしか予防できない」一方、「ワクチンが最大の武器」だ、ということです。だからこそ「一人ひとりを病気から守る、個々がワクチン接種を受けて免疫を保つ。そうした個人が集団の体制を占めること、社会としての免疫を保つことが大事であります」。それによって「世界レベルでコントロールが可能であると」。
●ですから、「日本では根絶したとしても、ワクチンはやめることができない」のであります。野生株ウイルスが世界のどこかに存在している限り、やめられない。やめてしまえば輸入されて大流行する恐れがある、ということになります。
ふむふむ。つまり予防接種の徹底によってポリオ根絶が可能であって、予防接種を受けるのは個人を守り、ひいては公衆衛生上の意義もあるということですね。たしかに検討会の目的でも公衆衛生上の課題については言及されてましたが。国民を守り、国家を守るもの、ともいえるわけです。(だったら予防接種はすべて定期接種化すべきでは?と聞きながら思ったんですが。)
さらに、宮村氏が強調したなかにはこんな話題もありました。
「1955年、カッター事件というのがアメリカで起こりました」。これは、不完全な不活化のせいでウイルスが弱毒化されないまま、つまり重大な欠陥のある不活化ワクチン(IPV)が出回り、ポリオ患者が260例出てしまったもの。「これはとんでもないことです。しかし、アメリカのお母さんたちは冷静でした。これをもって『不活化ワクチンは悪いものだ』というふうには取らなくて、この事件をきっかけに、ワクチンの品質管理を国家的にしなくてはならない、ということで、よりより不活化ワクチンを作り出し、国家で品質コントロールを行おうということになりました。アメリカはその後、不活化ワクチン研究に膨大なエネルギーを費やしまして、生ワクチン(OPV)より一足先に不活化ワクチンが開発されていったのでありました」
アメリカのお母さんたちの冷静な見方は、確かに大事ですね。何が問題だったのか、きちんと見極めずに、不活化ワクチン全体を否定してしまっていれば、本来は生ワクチンよりも安全性の高いワクチンの開発・普及への道を閉ざしてしまうところでした。ただ、そうした風評被害につなげないためには、迅速かつ徹底した情報開示が前提となるはず。今後、もし国内で何かあった場合には(ないに越したことはありませんが)、製薬企業も行政も、「きちんとした調査を・・・」なんて言っている間に、分かっていることだけでも国民に伝えてほしいと思います。
一方、少しだけ引っかかったのは、「国家によるコントロール」が強調されていた点です。確かにきちんとした国内審査を経て承認されたワクチンを普及させることは大切ですし、安心につながりますのできちんとお願いしたいところです。でも、その問題と、世界的に普及して安全性が認められている海外のワクチンをどう評価し、扱うかはまた別に考えてよいはず。すくなくともそれらを低く評価する理由にはなりませんよね。
例えば、1960年に日本国内でポリオが大流行した際は、子供を持つ母親たちが連日国会へデモ行進をして、超法規的措置として1961年、当時の厚生大臣名でカナダと旧ソ連から生ワクチン300万人分の緊急輸入が行われました(日本ポリオ研究所HPより)。ところが今回話を聞いていて驚いたのは、この時に輸入した生ワクチンは、1958年にNIHのポリオワクチンに関する特別委員会で採用が認められてはいたものの、正式に米国内での承認が下りたのは日本が緊急輸入をした後だったという点です。それでも、そのワクチンの効果は絶大で、以後、流行は収まっていき、多くの日本の子供たちの命が救われ、健康が維持されたわけです。
ですから、その時その時、何を一番に考えて、何を今行わねばならないかを考えて、最大限の工夫をもって行政的な判断を下していただきたいと思うのです。超法規的措置は難しい場合でも、行政指導の範囲内で自治体に働きかけられることも多いのでは?・・・と行政に疎い私が、普通のお母さんとして思ってしまうのでした。
さて、宮村氏の話は上記のほか、「生ワクチンは、腸管免疫と血中中和抗体の両方をつけられるので、免疫誘導という観点では優れている。つまり、伝染を防ぐという意味ではこちらのほうが優れています。一方、不活化ワクチンは完全に安全なワクチンということで、それぞれの利点がある」といった生ワクチンと不活化ワクチンとの比較を含め、30分近く続きました。確かに内容自体は興味深かったものの、途中でふと私は、「岡部座長も冒頭で言っていたけれど、どうやらこれでは本当に『基礎的な流れ』の確認だけで今日は終わってしまいそうだなあ」と内心つぶやかずにいられませんでした。(思わず資料の余白に「のらりくらり」と書いていました・・・)。そしてこの予感は、あながち間違ってはいなかったのでした。
つづく
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