予防接種部会を傍聴 あくまで感想ですが。

投稿者: | 投稿日時: 2012年01月28日 18:33

1月27日、厚労省で第20回予防接種部会が開催されました。厚労省の資料はこちら


予防接種部会は、正式名称を「厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会」(画数多すぎ!)と言って、第1回目が開かれたのは2009年12月。それから2~3ヶ月おきに開催されているようです。私は昨年からの「ポリオ不活化ワクチン検討会」が傍聴デビューなので、予防接種部会のほうは今回が初傍聴。ただ、ポリオの生ワクチンに関する議論を通じて、日本の予防接種行政のあり方に対する「??」が、私の中でぼんやりと、でも次第に大きくなりつつあることもあって、これはどうやら度々引き合いに出される予防接種部会のほうも確かめておく必要がありそうだぞ、と思った次第です。

朝10時、厚労省の会議室。雰囲気は、ポリオの検討会と大きく変わりません。前3分の2のスペースに机と椅子がロの字形に並べられ、真正面に座長の加藤達夫氏(独立行政法人国立成育医療研究センター総長)が着席。その両脇には、ポリオの検討会でいつも座長として真正面に座っておられる岡部信彦氏(国立感染症研究所感染症情報センター長)と倉田毅氏(国際医療福祉大学塩谷病院教授)。お三方とも、子供の予防接種などでは当然お目にかかれない偉い方々です。そして両サイドの机には8人ずつくらい委員の方々が座り、手前側には厚労省の健康局長や結核感染課長ほか事務局の方々がずらずらっと並んで座っています。委員のなかには、これまたポリオ検討会でおなじみの保坂シゲリ氏(医師会常任理事)も見られました。


この予防接種部会、議題は、リンクを張った資料にもあるように【予防接種制度の見直しの方向性についての検討案について】となっています。で、何が主として話し合われているのかというと、


①「予防接種法上」の疾病区分。予防接種の対象となる病気を2大まかに種類に分ける方法。1類と2類があって、1類は主に集団感染予防目的、2類は主に個人予防目的でそれぞれ予防接種する病気とされて、要するに、1類は定期接種に、2類は任意接種に分けられることになるようです。(しかし、この疾病はどっちに入れるべきだとか、子供と成人で違う扱いにすべきだとか、結局はそれが万が一の補償問題と直結するので、線引きが難しいようです。)


②日本版ACIPの設立に向けたあれこれ。ACIPとは言わずに「予防接種に関する評価・検討組織」と、とりあえず呼ばれて議論されています。そもそもの発端は、日本には【予防接種思索全般について中長期的な視点から恒常的に評価・検討する組織がない】ことや、その会議の【公開性・透明性・多様性】と、科学的知見を収集して準備する【充実した事務局体制】を確保したい、というところから出てきたもののようです。(ただ、その目的と機能が現段階でもまだ煮詰まっていなくて、突然そうした根本的な議論に戻るなどしてびっくりしました。)


加藤座長の司会で会が進行し、主に最初に配布された資料の内容を結核感染症課長が説明していったのですが、雰囲気はやはりポリオ検討会と大きくは違いませんでした。特に加藤座長は律儀な司会進行で、「今日この場で話すべきこと」と「そうでないこと」の線引きを早い時点で見極めて、資料の内容から議論がそれそうになるや否や、軌道修正を図ります(黒岩神奈川県知事が委員だった当時、ずいぶん座長とやりあったという噂も聞きましたが、それも「なるほどなあ」と想像に難くないところ)。ですから、細かい議論については、厚労省の資料をご覧いただければ、そこから大きく外れたことは特にありませんでした。


というわけで、ここでは個人的な感想を書きとめておきたいと思います。


まずとにかく驚いたのは、加藤座長によればこれまで20回にわたって、上記の議題を延々と話し合い続けてきたらしいという事実。もちろん、細かな論点は移り変わってきているに違いありませんが、2009年12月以来、2年以上かけて正直「え、まだここの議論」という印象です。


しかも上記①の疾病区分については、【7つの疾病】について検討されているのですが、細かい議論をしているうちに、このほど新たにロタウイルスのワクチンが2種類承認され、流通しはじめることとなりました。すでに一部の自治体では助成まで行われ始めているようです。


それなのに今回の予防接種部会では、ロタは、「上記①の分類に入るかどうか」という議論までも到底たどりついていません。それどころか、スタートラインに向かうために腰を上げたばかりです。つまり、「ロタウイルスワクチンを予防接種法上の対象とするかどうかを決めるため、その評価をしなければならないが、その評価をどう行っていくか」という今後の流れの提案が今回行われました。提案内容は、【年央を目途として】客観的事項の資料を作成し⇒【年内を目途として】専門家の作業チームを設置して【予防接種法の対象とするかどうか等についての考え方を整理し、予防接種部会に報告する】、というもの。そこまでに今から1年近くかかって、そこからようやく予防接種部会にもってきて一応テーブルに乗せられる、いったいロタウイルスワクチンの法的扱いが決まるのはいつになることやら、です。(予防接種部会は評価・検討組織に置き換えらることでなくなるそうですから、この調子で行ったら、評価・検討組織そのものも設置まで何年かけるつもりなんだろう、ということですよね・・・。)


しかし、資料にも、【国立感染症研究所の調査によると、乳幼児の感染性胃腸炎の20%程度がロタウイルスによるもの】と考えられるとあります(一部異論もありましたが)。【ノロウイルスに比べると重症度は高い】ともあります。これをこの先1年、2年、あるいは任意接種となってしまえば結果的には先々まで、予防手立てがあるのに放っておくことになれば、いろいろな意味で損失が大きくないでしょうか。赤ちゃんの健康を損うことはもちろん、医療費もかかりますし、看病する親も最低でも数日は仕事を休むことになるでしょう。接した他の子供にうつれば(あっという間に広がりますよね)、そうした損失も何倍にも膨らみます。


それに続く上記②の評価・検討組織の議論も、どうも悠長な印象が否めませんでした。例えば、評価・検討組織の役割は【研究開発振興】【生産・流通】【予防接種事業】ということを前提に今回の部会の資料が用意されていたのですが、【安全対策・監視指導(市販後のワクチンの安全性・有効性の評価)】が役割外とされていることについて異論が出たり、「予防接種行政全体の方針を束ねる作戦本部のような組織はないのか」といった意見が出たりして、それぞれの意見は確かに理にかなっているのですが、「20回目の会議で議論することかしら」と思わずにいられませんでした。


そして何より、評価・検討組織がもともと目指していたであろう米国のACIP(Advisory Committee on Immunization Practices;ワクチン接種に関する諮問委員会)の特長が、提示された組織案を見ていると結局は失われそうな気がしてきました。特に日本の現在の予防接種行政のあり方に比べてACIPの存在がよしとされたのは、その専門性と独立性ではなかったでしょうか。なかでも後者の独立性については、各方面の専門家プラス消費者代表1名を中心としたACIP 会議での決議が事実上の決定事項となります。会議に会議を重ねた挙句、厚労省の巧みな取りまとめや政治家の茶々によって骨抜きになる、なんてことがないように誰でも傍聴し、発言し、インターネットでそれらが公開されるという公開性と・透明性で、それが担保されています。確かに提案された評価・検討組織でも同じようなやり方で公開性・透明性を確保しようという姿勢は分かるのですが、それが独立性の確保にどこまで“実質的に”貢献できるのか、怪しいものだと思ってしまいました。


というのも資料にもあるように、新しい評価・検討組織では、その事務局の中に【国立感染症研究所】も参加が見込まれているのです。その点については感染研の岡部氏から異論が出ましたが、健康局長も「研究員の方が事務局に入っていただくからといって、その派遣元の長となる方はやはり個人としては有識者ですから、同時に委員を務めることは問題ない」といった趣旨のことを発言※。わかったような、わからないような理屈です。いずれにしても新たに設置される評価・検討組織でも事務局が、現在の予防接種部会と変わらず、あるいはもっとしっかりしたシナリオを作成して、それに沿って淡々と議事が進んで行く光景が眼に浮かんでしまいました。公開性・透明性を高めても、もともとの議論がその様子では、出てくるものは今と変わらないですよね。しかも今回の予防接種部会での委員の様々な発言に対する加藤座長のとりなし方を見ていると、傍聴者の発言もどうせ「伺いました」で片付けられて終わりそうなのです。形式的には独立性が保たれているように見えても、議論の中身がそもそもどうなるのか、ちょっと怪しいものです。


※この直前に、健康局長から「感染研も毎年、行革で人がどんどん減って行くという状況の中で、それを点数を使って押し上げるみたいな形でなくて、やはり新しいところへ打って出るために、結核感染症課なるものを重視しなければいけない、と。そういった拡充というか、心構えの中で、感染研の研究者あるいは一部事務の職員も拡大する組織の中で(事務局として)入っていただいて・・・(後略)」という発言がありました。行政に疎い私にはますます「??」な説明でした。とりあえず日本版ACIP設立の本来の目的とは関係のないところまでも腐心されているんだということは理解しました。


ちなみに、米国のACIPでは委員には「消費者代表」が入っているのですが、評価・検討組織の案ではその文字はなく、かわりに現行の予防接種部会と同じく【メディア】とあります。メディアが予防接種のあり方を決める国が設置した組織の中に委員として入ってしまうのです。これまでの議論はわかりませんが、今回、その点をおかしいと指摘する委員はいませんでした。


ということで、総じて、今の予防接種部会とこれからつくろうとしている評価・検討委員会(本来は日本版ACIPを目指しているorいたはずのもの)の違いがあまり感じられない議論だったなあと正直思います。新しい組織を作ると決めたから、今ある予防接種行政とある程度整合するように形作っている、というようにも見えて、そもそものACIPの目的やあり方についての意識が薄れてしまっているような・・・。上でも少し触れましたが、こうした議論があと1年といわずもっと、2~3ヶ月おきに、何年も続いていくようです。ワクチンの開発競争や、あとからあとから押し寄せる患者さんと格闘する医療現場、そして子供たちと日々精一杯向き合っているお母さんたちとは、やはりスピード感覚が全然違うということを再確認。意外なことは、やっぱり特になかったです。

<<前の記事:練馬と志木と館山と    南相馬市、『攻めの医師募集』プロジェクトの提案:次の記事>>

コメント

分類を決めたことになっていますが、ここで何を決めているのか分かっているのでしょうか。。。国の関与度ですよ。これは法律の理念にあたるところです。

I類:国は関与します。接種率を高めるための宣伝もします。接種のお金も出し、副反応の責任も負うことを覚悟します。

II類:できれだけ国は関与しません。個人がやってください。接種率も低くて病気になる人がいてもいいです。接種のお金は国は出したくありません。副反応の責任は避けます。

これらをこれから決めるための準備ができたということです。裏では、線引きの仕方で予算額、救済制度額などの試算をして厚生労働省健康局でできる範囲で、なんとか立法府、国民が騒がない範囲を考えているんです。

こんなの本末転倒で、おかしいです。

ご苦労様でした。

>加藤座長によればこれまで20回にわたって、上記の議題を延々と
>話し合い続けてきたらしいという事実。もちろん、細かな論点は
>移り変わってきているに違いありませんが、2009年12月以来、
>2年以上かけて正直「え、まだここの議論」という印象です。

検討会ですから、検討はいつまでも続けるってことですよね。
お役人としては、検討をする場を作ったという実績が残り、検討会がある限り、仕事がある。
検討会の委員の方々も、検討会がある限り、その肩書きを保持できる。

で、そもそも検討会を何のために作ったのか、ということは忘れ去られる。

こんなもん、いついつまでに検討する、ってケツを決めなきゃそもそも意味が無いのは明らか。
検討結果を報告して政策に反映するためには、それが絶対に必要なのに、無い。

この検討会に、検討委員の方々への支払い、事務方の給与・・・幾らの税金が無駄に使われているんだろ。

なにより、ガラパゴス化したお国の予防接種制度犠牲者の方々の苦悩。

ため息でますね。

コメントを投稿


上の画像に表示されているセキュリティコード(6桁の半角数字)を入力してください。