【新コーナー始まります!】 人工甘味料で太るのは、中毒になるから?

投稿者: | 投稿日時: 2012年07月26日 10:52

『ロハス・メディカル』本誌では、9月号(8月20日配置)から新連載「食べ物と添加物と健康」が始まります。それにさきがけ、このロハス・メディカルブログでも、新コーナーを開設しました!


その名も「大西睦子の健康論文ピックアップ」。本誌新連載の執筆者である大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文をわかりやすく解説してもらおう、という企画です。


健康意識が高まる中、私たちの周りには多くの健康情報が飛び交っていますが、その中身は玉石混交。過去にテレビなどで一気にブームになった健康法でも、科学的にはまゆつばものも少なくないのが本当のところです。一方、アメリカでは日本以上に健康に関する科学研究が進んでおり、膨大な量の論文が日々発表されているとのこと。この新コーナーでは毎回、健康情報の本場から、ハーバード大学リサーチフェローの大西医師が「これは」と思うものを選んで、読者の皆様にお届けします。(論文翻訳・ブログ執筆は大西医師にかわり堀米が担当します。論文解説や意見・感想部分については大西医師によるものです)


単なるイメージや憶測でなく、プロが選ぶ科学的根拠に基づいた健康情報ですので、安心してお読みいただき、日々の健康づくりに是非お役立てください。きっと「目からウロコ」を経験されることと思います!


大西医師のプロフィールを改めてご紹介します。

大西睦子(おおにし・むつこ)
ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。
東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て
2007年4月からボストンにて研究に従事。


初回は、このところブームになっている「カロリーゼロ」飲料の意外な“落とし穴”について、科学的な観点から解説していただきました。暑い日が続いていて、「甘くて冷たいものが飲みたい。でもダイエットもしたい」とカロリーゼロ飲料に気軽に手を伸ばしてしまう方も少なくないのでは?でも、ちょっと待って。まずは以下お読みください。


【人工甘味料で太るのは、中毒になるから?】


最近、アメリカでは、カロリーゼロの人工甘味料(非栄養甘味料)※1で肥満になることが話題になっています。疫学研究では、ダイエット飲料を習慣的に飲んでいる人は、肥満や糖尿病になりやすいことが報告されています。その理由としては、体の生理的反応と人間の行動的・心理的な要素が関係していると考えられています。


私たちが食べ物から体にエネルギーを取り込む際、その調節に重要な役割を果たしているのが、脳内報酬系※2です。しかし、カロリーゼロの人工甘味料の習慣的な使用が、甘みに関する脳内報酬系にどのように影響しているかは、あまりわかっていません。


今回ご紹介する論文は、カリフォルニアの研究者たちからの、この疑問に対するひとつの答えです(論文原典はこちら)。著者らは、19歳から32歳の成人(24人)について、習慣的にカロリーゼロのダイエットソーダを飲んでいるグループと、糖類など※3を使ったカロリー有りのソーダを飲んでいるグループに分けました。12時間の絶食後、それぞれのグループに人工甘味料のサッカリンと糖類の一種である蔗糖を摂ってもらい、脳機能イメージング法※4を用いて脳の活性化を調べました。その結果、次のことがわかったのです。


① ダイエットソーダを習慣的に飲んでいるグループは、カロリー有りのソーダを飲んでいるグループに比べて、サッカリンと蔗糖、両方の甘味に対して、脳内報酬プロセスを担っている脳領域(腹側被蓋野※5を含むドーパミン作動性中脳※6と、右扁桃体※7)で大きな活性化を示しました。この脳領域は、食べ物だけではなく麻薬や覚せい剤でも活性化され、習慣性を生んだり、さらには依存、中毒をもたらします。以前、動物実験で、食べ過ぎによる肥満の場合には、脳内の信号を伝える経路が麻薬中毒と同じになっていることが観察され、大変な話題になりました。ダイエットソーダの常習者も、“甘み中毒”の危険があると思います。


② いつもカロリー有りのソーダを飲んでいる人たちの右眼窩前頭皮質※8では、サッカリン摂取した時のほうが蔗糖を摂った時よりも大きな反応が見られました。しかし、ダイエットソーダを常飲している人の脳では、サッカリンと蔗糖との間で、甘味に対する反応に違いが出なかったのです。つまり、ダイエットソーダを常に飲んでいる人の脳では、カロリーがあってもなくても同じ報酬反応が起きるのです。眼窩前頭皮質は、まだ機能がきちんとわかっていないのですが、意思決定や認知、情動、報酬系をコントロールしていると考えられています。眼窩前頭皮質に損傷があると、アルコール、タバコや薬物の摂取過多が起きてしまいます。いつもカロリー有りソーダを飲んでいる人たちの脳がサッカリンに大きく反応したのは、体が自然に摂取過多を抑えようとするための反応なのかもしれません。


③ ダイエットソーダを常に飲んでいる人では、サッカリンに対する脳の右尾状核※9の活性が、1週間に飲むダイエットソーダの量に反比例しました。つまり、より多くのダイエットソーダを飲む人では、尾状核の活性が減少したのです。尾状核は脳の学習や記憶に大切な部位とされ、以前から、食の報酬系でその機能が低下すると肥満の原因となると言われています。従って、ダイエットソーダをいつも飲んでいる人は、尾状核の活性が減少した結果、肥満になるというわけです。


これらの結果から、ダイエットソーダを習慣的に飲んでいる人は、甘味に対する報酬過程に変化が生じて、それが肥満の原因となると考えられます。さらに、この変化はダイエットソーダの消費量に比例します。


今回の報告で、人工甘味料の使用で生じる心理的、行動的変化と、肥満の関係の謎がわかってきました。「カロリーゼロだから痩せると思って、毎日ダイエット飲料を飲んでいる」という方々、頭の中は混乱しているようですよ! そして、徐々に甘いものを食べた喜びがコントロールできなくなり、習慣化、依存、そして中毒となり、結局は肥満に至ってしまうのです。適度な天然の甘みを取って、健康的な体と精神を養いましょう。


※1・・・non-nutritive sweetener (NNS)。食品に存在しない甘み成分を人工的に合成した合成甘味料(サッカリン等)と、天然にも存在する甘味料を人工合成したもの(ステビア等)がある。

※2・・・ヒトや動物の脳において、欲求が満たされた時、あるいは満たされると判断した時に活性化し、「快い」という感覚を与える神経系

※3・・・非栄養甘味料に対置する栄養甘味料(nutritive sweetener, NS)の代表例。

※4・・・MRI装置を利用して脳の血流量の変化を測定する技術。脳の特定部分の血流を解析して活性化を捉え、欲望や不安などの感情や、選択や動作との関連を研究するのに使われる。

※5・・中脳の一部で、脳内報酬系をつかさどる、つまり、「快い」という感覚を生むような活動によって活性化される部位。覚醒剤等はこの領域に直接的に作用することからも、嗜癖行動のメカニズムに関っていると考えられている。

※6・・・脳と体の間の信号を伝達する物質(神経伝達物質)の中でも、ドーパミンにのみ反応する神経細胞が集まっている。ドーパミンは快楽や意欲に関わるホルモンの一種。

※7・・・脳の中で、主に悲しみや怒りなどネガティブな情動活動をつかさどっているとされる部位。

※8・・・脳の前頭葉の一部で、意思決定などの認知処理に関わっているとされている部位。眼の上に位置するのでこの名前がつけられた。脳機能イメージング研究では、報酬価値、予測された報酬価値、さらには食べ物等に対する主観的な喜びの度合いまで、その活性度合いによって示された。

※9・・・大脳の一番底の部分に左右1つずつあり、神経系の分岐点や中継点となっている神経細胞群。学習と記憶、特にフィードバック処理に強く関わっていることが分かっている。

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コメント

人工甘味料と違う糖アルコールのエリスリトールでも
 脳の報酬系の減少が起こるのでしょうか?

 エリスリトールも同じなら摂らないようにしたいのですが、
 宜しくお願いいたします。

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