国立がん研究センター 患者・家族との意見交換会 傍聴記 その3

投稿者: | 投稿日時: 2013年06月05日 12:10

引き続き、厚労省「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議 報告書(素案)」について、国立がん研究センターが開催した「患者・家族との意見交換会」(5月30日)のご報告。

報告書素案に対する率直な感想や見解が、患者・家族側メンバーそれぞれの立場から語られます。


総じて“有識者”の方々が示した内容より、患者側(ひいては一般の人)の要求のほうがずっと現実的で具体的でした。両者の溝は性質上、埋まらない部分もあるのかもしれませんが、だからといって歩み寄らなければ、結局はお互いにとって不利益が生じますよね。こういう意見、本来は国立がん研究センター主催の会合でなく、さらに公共性の高い場で示されるべきなんだろうなあと感じつつ、耳を傾けていました。

●本田:
メディアとして、この報告書素案を読んだ感想としては、何を書いていいかわからないというか、どこがメーンテーマで、どこが特徴で、見出しどうしよう、と思ってしまった。読んだときに、今までとの違いが分からなくて、全部同じように並んでいて、これからどこに力を入れるんだということが全く分からない。もちろん全体的なことをやっていかないといけないのは分かるし、それは別にきちんと書けばいいので、今回のトピックスは何なんだ、特にココなんだ、というのが分からない。


例えば高齢化だ、三次元だ、というのはすごく大事だし、いいと思うが、じゃあそこについて何が書いてあるんだと思ったら、何も書いていないに等しい。私は今、(読売新聞社の)社会保障部にいるので、どちらかと言うと、国民がいかにそれなりに高い技術の最先端の医療を効率的に受けられるようにするか、という視点で見てしまう。だから、経済性を高める研究なども重要。例えばある薬は特定の人々に効いて奏功率もとても高いが、その薬がどんな人に効くか調べる検査がむちゃくちゃ高いのは意味不明。もっと汎用的な安いものを作ることも、「これからの社会に応じたがん治療」として、再掲でもいいから並べてほしい。


あとは、高齢者の医療についても、報告書素案では例えば「高齢者に対して最適な、支持療法・・・」と書いてあって、いいんだが何を言っているのか意味が分からない。国立がん研究センターにはちょっとしんどいかもしれないが、All Japanということで、複合的な疾患を持っている中での高齢者のがん治療のあり方、とか、もう少し具体的に分かりやすく何をやるのか、具体的に書いてほしい。全部入っているのかもしれないけれど、よくわからない、という感想。


もう一つ、今、「日本版NIH」とか「司令塔」だとか、流行の言葉があって、それは国立がん研究センターのせいではないとしても、そこで代表機関となるであろうものの位置づけがわからない。それはどういう意味を持つのか、という疑問がある。その中でNCIも作っていきたいという話についても、検討会でも議論がたくさんされていると思うが、結局、研究者間でも信頼関係がないと聞く研究の採択も国立がん研究センターに甘いんじゃないかと他の大学や研究機関も思ってしまう。本来の司令塔であれば、そういうことではなく、もう少し何かかっこよく潔い仕組みを書くとか、何か「これは違うぞ」みたいなものがないと、マスコミとして何書いたらいいんだろう、と感じる。


●片木:
私はここが独法化する時に、記者会見で天野さんと当時の嘉山理事長の横に座らせていただいて、「救える命の為に何をやってくれるんだ、国立がん研究センターは」と言う風に言わせてもらった。実際問題その中で進んできたことというのはいろいろあるかもしれないが、ドラッグラグ、薬へのアクセスの問題は、一部GISTのスチバーガ(新薬)の件が進んだ件など評価すべき点はあるものの、やはり最近では真島さんのところがすい臓がんの薬にアクセスできない、米国などでもいい成果が出ているシスプラチンやロイコボリンにアクセスできないことで何万筆も署名が集まっている。いまだに苦しんでいる。その人たちのことはどうなっているか。何も期待に応えていないではないか、と。もちろん国の制度の問題でもあるが、国立がん研究センターが政策提言機能を持つのであれば、やはりそこの期待に応えるべき。


実際この素案を読んだ時点で、もう世の中を諦めたくなるような文章だった。「ドラッグラグ・デバイスラグ解消に向けた・・・」と1ページ目に書いてあるのに、それで何をするのかさえ書いていないのは本当に情けない話。桜井さんが言うようにジャパン・パッシングが進んでいくのは、あたりまえの治療にあたりまえにアクセスできない、そんな薬さえ承認されていない日本を相手にする必要がない、と。海外では標準治療として選択肢になっている薬が日本ではアクセスできないのだから、そんな国と一緒に研究するか、言ってみれば後進国とやりたくないという、海外からの意思表示。そこを解消しないと、きれいごとを言っていてもしょうがない。じゃあどうやっていくかという時に、研究で出来ることもあると思う。


先進医療も、いわゆるJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)がこれからやっと高度医療に取り組む、というのもすごく恥ずかしい話。何やってるのJCOGと。困っている患者がいるんだから適応追加をどんどんやってほしいのが患者の本音。それができないんだったらJCOGはいらない。WJOG(西日本がん研究機構)やJGOG(婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構)もある。JCOGは「JGOG3016」(進行卵巣がんの化学療法に関する臨床試験)でパクリタキセルを承認にもって行ったし、今だって医師主導治験で適応拡大をばんばん目指している。そうしたところにお金を投入するほうがよっぽど世の中のためになる。


それができない、じゃあ臨床研究中核病院と連携して臨床試験をやるといっても、本当に出来るところがどこにあるのか。JCOGで言っても、データマネージャーと生物統計家はいいとしても、スタディコーディネーターは、よそにお粗末だと笑われているレベル。仕事が出来ないから臨床試験の調整ができない、進められないんでしょ、と。小児がんだって、いわゆる適応追加したくてもJCOGは適応追加の臨床試験やってくれないから期待できないよね、と小児科学会の先生もせせら笑っている状況。それくらい期待されていない、でもお金はじゃぶじゃぶ落ちているよね、と言われている。かなり過去の話だが、どこかのおねえちゃんにお金をつぎ込んだという話が出て、まったく情けないけれども、じゃあ私たちはどういう信頼を持っていけばいいのか、と考えてみると、がん研究は結局何の期待にも応えていないし、何が良くなったかも分からない。私たちはもう応援していいのかすら分からなくなっている、というのが現状。


また、先にも指摘があったように、医政局と医薬食品局とリンクしていない、と。早期探索臨床試験と拠点病院とは医政局がつくった取り組みだし、スチバーガとかも医薬食品局が取り組んでエクスパンドをやっていこうという一環。じゃあそのエクスパンド、これから取り組んでいこうという方向なのに、この有識者会議報告書素案のどこにも載っていない。救える命のために本当に何をやってくれるのか、本当に分からない。


この素案を見ていても「がん治療は手術療法、放射線療法、化学療法、免疫療法など適切に組み合わせ、とあるが、免疫療法でEBMがあるものがどこにあるのか。米国とかでは前立腺がんに免疫療法という流れができてきているし、卵巣がんも○○(聞き取れず)でいいが、他の3療法と同列に並べたらおかしい。また、日本ではペプチドがやたらともてはやされていて、NHKスペシャルでもトンでもペプチド番組やっていたが、ものになるかならないかわからないものばっかり表に出してきて、本当にこの国の研究はどうなんだろう、と悲しくなる。


もちろん堀田先生は薬事法でともに戦ってくださって信頼しているし、国立がん研究センターだけに文句を言う話ではないけれども、研究を進めていく上での会議の座長もやっているので・・・。もちろんお上から落ちてくるお金は国立がん研究センターにとって多大なるものと思うが、嘉山先生の時代にはお上に暴力振るってでもお金は落ちてきていたと思う。どうぞ怖がらずにやってくれたら、こちらも応援するので、是非がしがしやってほしい。ドラッグラグは制度か研究か、でなくて、研究でできるところをやってくれたらそれでいい。がんのところだけでもそれを研究でやってくれたら応募する。


●町:
私がドラッグラグの取材を始めたのは2000年、もう13年も経っているが、当時その薬を使えないのは日本とモンゴルと北朝鮮だけと聞いた。その時、「ああ本当に日本はがん医療後進国なんだ」と思った。あれから13年、まだ片木さんを怒らせる現状があるのだ、と。こうして医療側と患者側が机を並べて話し合う日が来るとは想像できなかった。あの頃は患者さんが学会に出て話をするだけでも珍しいことで、会場の医師からバッシングが出るくらいだった。医師と患者は対等ではなかった。でもちょっとずつ解消しているからそれに甘んじていいのか、というとそうではない。


「やってますやってます」というのを書くのは簡単で、役所のいつもの手段なので、今出来ていないことをいかに進めるかを書くべき。まずは出来ていないことを最初に書いて、それをどうするかを書いて、その後に、出来ていることを書く、という形にして示していかないと、患者さんで今ここにいる人たちくらい医療行政に詳しい人は本当に少ないし、ほぼほとんどのがんになっていない人たちはがん医療に関心はない。9割方はがんになってから学ぶ。先頭に立つ国立がん研究センターが政策提言機能を担うのであれば、今出来ていないことを提示していくべきで、「こんなことやってます」と言うだけでは一般の人は「ああそうなんだ」と思ってしまうだけ。


確認だが、こういう会義では最終的に何を目標にするのか。今日は初回なのでそれぞれが意見を述べ合うのでいいが、定期的にこの会を開くのであれば、最終的にどういうことを形にするか、いつまでにどういうことを私たちから言えばいいのか。実りあるものにするために、そのプロセスを教えてほしい。


⇒堀田:それについては出てきた意見を全てまとめて、そこからのスタートという形にしたい。次の有識者会議が6月11日にあり、素案を練り直しするために今のうちから用意しておく。特にドラッグラグなどについてはきちんと書き込んでいきたい。


ということで、次回からは、患者側が有識者会議報告書に盛り込んでほしい内容が、改めて出されていきます。

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