国立がん研究センター 患者・家族との意見交換会 傍聴記 その4

投稿者: | 投稿日時: 2013年06月07日 18:59

厚労省「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議 報告書(素案)」について、国立がん研究センターが5月30日に開催した「患者・家族との意見交換会」のご報告の続きです。


今回取り上げる議論では、報告書素案にどんなことを盛り込んでいくべきか、改善案が患者・家族側から出されます。今回もできるだけ内容を漏らさずアップしてみたいと思います。

●片木:
では何を書き込んでいくかというところを指摘していきたい。

素案の1ページ目にドラッグラグ、デバイスラグ、と出てくるが、中では(7)の希少がん等に関する研究の中でそれらしい内容が触れられているだけ。それがジャパン・パッシングにつながり、研究促進が阻害され、何より患者さんにとって不利益の何ものでもないので。研究というのは未来の患者さんのためにあるのかもしれないが、今の患者さんを踏み台にしていいものではない。まず一番にお願いしたい。

その際、健康局はなんでか知らないが「適応外」という言葉を書くのを本当に嫌がる。私ががん対策推進協議会で「大本営発表」というスライドを出したのが相当むかついているのかもしれないが、「適応外」で患者が苦しんでいるのは、真島さんも天野さんも協議会委員のときさんざん言われていたし、本田さんも言われていたと思う。ぜひ「適応外」としっかり書いていただいて、その問題について何をしてくれるのか――ここは医薬食品局と医政局ががんばって進めようとしてくれているはずで、「先進医療C」という話も何回か中医協で聞かれているので、そこも含めてきちんとやっているところの骨も拾っていただいて、研究として何をやるのか書いてほしい。


それとは別にもう一つ、がん研究のありかたの委員会で言われていたが、難治性がんもきちんと出してほしい。あと、素案中の(4)支持療法を含む明日の標準治療に関する研究のところ、四角い囲みのなかに「臨床試験にかかわる人材育成」みたいなことが書いてあり、がん診療連携拠点病院で医師主導型臨床試験を行う、と読める記述があるが、本当にこういう書き方でいいのか。ここは単に健康局ががん診療連携拠点病院にしかお金を落せないからこういう書き方になっているのではないかと思う。それが国の方針としていいのか、検討していただきたい。

そもそも臨床試験に関わる人材育成は全ての研究について必要なことであって、こんなちっちゃい(4)の囲みの中で書いている場合ではない。人材育成や倫理指針に関わる部分は医政局のいわゆる「臨床研究に関する何ヵ年」というのがあるはずなので、そこときちんとリンクをさせるべきと思う。


⇒堀田:この囲みの部分にある人材育成の部分はまさにその通りで、こんな書き方でなくきちんとまとめましょうという話が出ている。


●片木:
あと素案への修正をお願いしたいのは、天野さんが言った「緩和ケア」「終末期医療」に関する研究が抜けている、というところと、先ほど指摘した免疫療法が他の3大療法と同列に扱われていいのか、と言うところに関しては、私はNO。免疫療法をもし入れてしまうと、みんな瀬田クリニック、セレン・クリニックに行ってしまうだろう。「こんだけのもんだ」というような誤解を生むので、一緒にしないでもらいたい。やるんだったら、きちんと国の倫理指針に則って行われているもの、医師主導の治験として行われているもの、など、きちんと書いたほうがいいように思う。


●天野:
同じく素案について。第1回の会議を傍聴させていただいた際に、厚労科研費を含めた研究費について、いろいろな委員から意見が出たと思うが、それに対しての回答が全く触れられていない。例えば厚労科研についても今までの枠組みでいくのか、それでいいにしても、変えるにしても、それを書かなければいけない。でないと、たぶん今までのまま、また同じ10年を繰り返すだけになってしまうだろう。研究を進めていく上での制度論の話が全く入っていないので、それは書いていただかないと、本田さん指摘のように、この素案がどういった枠組みのどういった位置づけになっているのか、まったくわからないまま宙に浮いた状態になる。

あとは、研究の評価の問題。評価するのに全体の予算の10分の1前後を使っているという話があるが、例えば今回終わる「第3次対がん10ヵ年」の評価はどうなっているのか。その評価についての仕組みについて、この素案には全く入っていない。それが入らないと、これまた同じまま10ヵ年が進んでいってしまうことになるだろう。そのあたりをぜひ書き込んでほしい。

片木さんも指摘していたJCOGの研究がの現場の医療者の求めている研究なり適応拡大に寄与していない点については、私もいろいろな先生に聞いている。例えばWJOGなんかははっきりと、「自分のところでは資金がないから、そういった資金とリンクした研究を進めていく」と言っている。そうすると結局、そういったひも付きでない資金でできるところはJCOGしかないわけで、JCOGの役割はきわめて大きいと思われる。JCOGのあり方についてこの素案で示すかは別としても、国立がん研究センターとしてぜひそこはしっかり考えてほしい。


●桜井:
ひとつだけ。この「今後の」ということで考えた時に、レギュラトリーサイエンスの話が一個も入っていない。やはりこれも研究者間のお互いの信頼感を確保していかないといけない。これからバイオバンク、ティシューバンクの話が出てきたときには、このあたりも考えていかないと、本当の意味の不利益が○○(聞き取れず)されないのかな、と考える。


●本田:
天野さんや桜井さんの言うとおりで、そういう部分の研究の進め方とか研究評価のやり方を書いていくほうが、社会的な視点も入ってきたな、というポイントになる。私も危機感を感じているのは、今、再生医療や難病も大事で進められていくと思うが、その中でがんはもう新鮮味もないし、予算も激減して、がんは取り残されていくだろう。

大事なんだけれども、世の中の政策はよい悪いを別にしたところで進んでいく部分がある。だから大事なことは大事なこととしてきっちり書いていただきたいが、さらに、どうそれを社会に訴えるかも検討していただきたい。


⇒堀田:
確かにがんは大事なんだけれども、風が吹いていないと感じる。要するに成長産業につながるところは追い風だが、そうでない今、この素案を充実させると共に、それをどうアピールしていくか。皆さんの知恵を拝借したい。


●本田:
桜井さんが参加した米国のイベントのように、研究者と団体とが一緒になって次の患者になるであろう市民・国民に訴えるというのは、日本ではないこと。難病に関しては、色々なところの応援を受けながら地道に活動を続けられているところも多いが、がんはそれぞれいろいろ活動しているものの、1つになった活動は盛り上がりにかける気がする。そういうのを仕組んでいくのも1つの手では。今の予算には間に合わないかもしれないが今後のことを考えると、研究の話とはそれるかもしれないが、そう感じている。


●桜井:
ラリー for メディカル リサーチでは3つのキー・テーマがあって、「More Life, More Hope, More Budget」なんですね。(会場笑)


●天野:
今日の会議を次にどう活かしていくのか、ということでいえば2つ。

がん研究はブラックボックスの中ではなく、広くがん患者も含めた中で、みんなで応援しサポートしていく、という枠組みがないと、なかなか次のステップに進めないだろう。例えば文科省予算のがんプロ※で次の5ヵ年がもうほぼ絶望的と言われた時、もちろん医療者の方も文科省もがんばったが、患者団体からも、「それは絶対必要だ。この5年だけで切られたら、それはもう終わってしまう」という話があり、そんなこともあってかろうじて次の5年間がついたという話もある。がん研究が本当にがん患者にとって必要なものであるとなれば、患者団体含めみんなでがん研究をサポートしていく仕組みがあってしかるべき。

※がんプロ・・・「がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン」;国公私立大学から申請されたプログラムの中から、高度ながん医療、がん研究等を実践できる優れたがん専門医療人を養成することを目的としたプロジェクト

もう1点が、さきほど堀田先生から6月11日に次回の有識者会議があるということだったが、堀田先生は座長、真島さんは委員を務めていらっしゃるということで、ここでの議論をお二人から一定程度、会議に反映させていただけるだろうと期待している。ただ、全ての意見を出せるとは限らないので、今回取りまとめて、会議に参考資料という形で出せないか、ぜひご検討いただきたい。


⇒堀田:11日に出す資料として手を打っておくのがいいかと思う

●片木:
手を打っておくのは大事だが、その場でさらに「こういう意見があった」とダメ押しをしないといけないと思う。両方やっていただきたい。


つづく

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