国立がん研究センター 患者・家族との意見交換会 傍聴記 その5

投稿者: | 投稿日時: 2013年06月08日 17:48

5月30日に国立がん研究センターが開いた「患者・家族との意見交換会」についてのご報告、最終回。長くなりますが、最後までアップしてみます。「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」への意見が中心ですが、実際、次回(今月11日)の会議でこの議論がどれくらい活かされるのでしょうか・・・。

⇒藤原:デバイスラグ等の話が出たが、有識者会議では研究者の先生方が中心なので、もうすこし基礎的な研究、がんの本体解明の重要性をいつも言っている。転移・再発やがんの分子機構といった本体解明がこの30年、いつまでたってもなかなか分からないところで、今後もおそらく継続していかねばならないと思う。患者さんの目から見て、がんの基礎研究に関してどういうことを期待されているのか。


●片木:
基礎研究に関しては、やはりALK遺伝子が日本で発見されたのに、韓国で開発されて、日本人がわざわざ韓国まで行って治験に入ったというのは、恥ずべきこと。繰り返してほしくない。基礎研究については、国立がん研究センターもKRAS遺伝子について会見したり、いろいろやってくださっているのは分かっているし、本体解明はやっていただきたい。

一方で本当に危機感を感じるのは、がん幹細胞やプラズマ云々等については、マスメディアの問題かもしれないが、「これで治ります」「これでがんが消えた」など、過剰誘導しているのではないか。最初に論文が出てから、その20年後30年後に残っているものなんて、本当に少ないと聞く。それでも発表時はものすごく大々的で、患者さんは過剰に誘導されてしまう。研究を推進すると同時に、そうした発表のあり方も考えていっていただきたい。


●桜井:
私は、がんの基礎研究は究極のイノベーションだと思っている。ただ、その点については、日本ではまだ誰も気付いていないと思う。例えば、一つのバイオマーカーを見つけることで、その解析技術も生まれ、支えるためのものもどんどんどんどん芋づる式につながっていく。だからこそ有用なバイオマーカーを見つけるのはすごく大事。「ここまで出来るようになったんだ」というのも、シンプルな感想としてあり、その点で諸外国は有望株はみんな押さえちゃったのかな、と思う。日本はアジア人としてのデーターにもっともっとフォーカスしていくといいのかなと思う。


●本田:
基礎研究は大事なんだろうと思うし、無駄がたくさんある中でちょこっと出てくるもんだんだろうとは分かっているが、結局何にどう使われていてどうなっているのかがわからない、というのが不審を生むのだと思う
。「これだけの中からこれだけしか出てこないのに国民は無駄遣いと言う」と研究者の方はよく言われるが、それも、先生方の社会にいたらそれは普通のことだから「国民は分かっていない」ということになるが、こっちにしてみれば、そんなことは知らない。それを知らせていくことも大事。

昔はしないでも良かったのかもしれないが、こういう厳しい時代になってくると、政治家も国民もある程度「ああそれは大事なんだ」と納得しないと、そこにお金は行かない。日本だけの事例で信頼が足りないなら米国だってこんなにかけているんだ、というデータを示しながら行ってほしい。メディアももっと勉強しなければいけないが、研究者出身は僅か。そういうことをしっかり理解しながら書かなければいけないが、もっとぜひ発信してほしい。


⇒堀田:
先ほども研究はブラックボックスという指摘もあったが、NIHなんかだと、研究予算、お金がどれくらい何にかかっているか、けっこうしっかり、一般の人でもわかるようになっている。日本ではまだそこまで行っていないが、やっていかねばいけない。治験についても検索できるシステムは必要。


●真島:
それと同時に、先ほどbudgetという話があったが、NCIだと患者会との連携プレーを図るための独立のセクションがある。そこで円滑なコミュニケーションを図っており、がんを倒すために一緒にやってるるんだ、というような連帯感がある。私は今回、がん対策推進協議会に患者委員として入ったが、やはり場違いな感じがする。これまで一緒にやってるんだという雰囲気もなければ、やはりたった1人なのかと。がん対策推進協議会5人いるが、がんは様々な種類があるので、5人でも大変。それぞれがみんなの希望をかなえなければというところで、こちらはたった1人。

さらに、がん研究は「学者の遊び」だとか「勝てない博打」だ、などと言われていて、成果物が普通の人には見えない。この「見えないんだろうな」というのは、もしかして届いているのかもしれないが、“見えない”。じゃあかといってこの30年間何やってきたのかと言うと、メディアの人たちをがっと集めてやればいいのを、やられていなかった。せめて出口戦略、出口で待っている患者さんにこれがうまくいったらどんなものを届けたいのか、というのをもう少し明確に言っていただかないと我々せっかくがん研究を支援する立場で応援したいんだけれども、一体どうなっているのかがまったく見えないのがフラストレーションになっている。


●町:
基礎研究の話題とはすこしずれるが、前のがん対策の中でのキャッチーなキャッチフレーズはドラッグラグ解消だったと思う。当時の舛添厚労大臣が「ドラッグラグを解消する」と言って。その時はがんでなくてムコ多糖症が前面に出されていたが、それで波が来て、がん基本法にもドラッグラグが入ったと。で、今回は危機感の共有と言う意味で、日本はまだ後進国なんだということ、桜井さんの話にもあったように研究分野でも取り残されているということから、あらゆる面で遅れているんだという認識を共有し、危機感を持っていかないと、日本はこのままアジアの先頭を切るどころかアジアの中の1つの遅れている国という扱いのままで過ぎてしまう。このずっと遅れたままだ、という危機感をマスコミもそうだが、どう共有していくか。それを前面に打ち出していくべき。


●桜井:
NCIではPASC(Patient Advocate Steering Committee) が設置され、全米から12人のリサーチアドボケートを育成している。1年間、遠い人のみ交通費が支給され、あとは何も出ないが、それに出ることで、州の協議会に参加したり、倫理委員会のレビューをしたり、地域に戻ってがん研究の意義を説明したりする。本当にInstituteを目指すなら、そういうことが大切。


●片木:
私もまさにそこが言いたい。患者さんがどこにいるかと聞かれて答えられる、その能力を持った患者さんが日本に何人いるのか、いないんじゃないか。日本の患者会はとても情けない。本当の意味でのアドボケートはいないんじゃないかと評価している。私も含めて、国の審議会なんかでしょうもない発言している人たちはたくさんいるが、私たち患者会としてもブラッシュアップをしていかないといけないと感じると共に、そこをちゃんとやろうというなら桜井さんの提案みたいなこともいいのではないか。

またその一方、真島さんが今回、患者としてたった1人で協議会の委員を務めていらっしゃるが、たった1人とは情けない。国の審議会はおよそ座長になっていただきたい方に委員の相談をされるんじゃないかと思うが違うか。ないとしても、政策提言機能を盛り込もうとか、オブザーバーとして招聘するということが項目にあるのであれば、現状としては患者の視点が入っていないんじゃないかと。堀田先生のところ(有識者会議)もオブザーバーにしても、もっと患者会をほかにも呼ばれたら良かったのではないか。国はどうしても私のような患者会は敬遠すると思うので、もっとお利口な患者会でも呼べばいい。

⇒堀田:
なかなかああいう場で発言するのは勇気がいること。だからこそ今日集まっていただいた。


●本田:危機感という意味であえて言わせていただくと、患者会だけのせいではないと思うが、患者会は自分たちの疾患について世の中に要求したりいろいろな役割がある中で、こういった研究等についても、もう少し患者会の中で統括して、何で戦っていくのか、ということをもう少しやっていかないと、あれもこれもそれも言ったきりで終わってしまう、というのを傍聴していて感じる。NCIにしても患者が参加して、育てあっていく仕組みがある。私はそれを国立がん研究センターに情報センターが出来た時からずっと言っているが、結局は意見交換会で終わっているのが残念。それだって研究じゃないかと思っている。


●馬上:
皆さんの言うことは本当にその通り。今、子供会議をちゃんとやっていこうという、県でやって国民へという動きがあるが、それと同じで、今国民の2人に1人ががんになっているのだから、国民全体が参加するという意気込みで、啓蒙とブラックボックスのがん研究は一体全体何をやってるんだ、ということをがん情報センターから分かりやすく公表していただいて、県のがん推進会議の横のつながりをつくっていかないと、あちこちでばらばらやっていてもダメ。厚労省はいつも「国民の理解があれば私たちはやりますよ」と言っているので、その国民の理解をすごく高めるために何かやっていかないといけないと思う。

●天野:
リサーチアドボケートは本当に大変だけれど必要だ、ということの一方で、文科省のがんプロ5年間で何をやってきたんだということでその成果を調べても、何も形になったものがなかった。それで先生方にお願いして何が成果といえるかをまとめて見せようとなり、先生方も必死にホームページを作ったりすることになった。がん対策情報センターのがん情報サービスも、5年前に比べてすごく進歩していて分かりやすくなっている。それはいいのだが、さらにがん研究についても、「これだけの予算が投じられて、こう使われて、こういう成果が出た」ということを一般の方誰にもわかるような形で示す方法を考えてほしい。

⇒中釜:
研究者として一言言わせていただくと、研究者がやっている研究内容は確かに一般の方には分かりづらいことが多いと思うが、いくらくらい投資してどのような成果が上がっているのか、ということが分かりやすくなるような広報の仕方は考えていかなければいけない。その認識は研究者内でもあり、努力も必要。一方で、極端な報道に慎重な姿勢もある。がん研究センターとしては、分かりづらいホームページを改善したり、市民公開講座に興味を持ってもらえるように広報したり、というのは時間と労力を費やすが、努力していかなければならない。また、日本でも対がん協会が開催しているリレーforライフのように、がんサバイバーの方たちと我々と、アクティビティと学会との連携はひとつの試みとしてあるだろう。


●片木:
リレーforライフは“やばい”。いわゆる市民主導型と言いながら対がん協会は寄付率を求めたり、採択する研究にしても、地域との共生と言う意味から実際に地域の人に理解してもらおうとやってる実行委員会の意見はまったく集約されておらず、対がん協会の自己満足になっている。ほんとに情けない状態で、私たちとしても「リレーforライフには行かない」と宣言をしそうになっているぐらい。対がん協会の相談している先生の中にはいわゆる民間療法をすすめている先生もいっぱいいて、本当にあってはならないことをやっている。それとはちがうつながりを求めたい。


⇒中釜:
そのあたりは我々も認識している。リレーforライフはあくまで患者さんと研究者との距離感を縮める取り組みとしてのアクティビティの例であって、そうしたアクティビティを我々、研究者や学会が主導していかねばということ。アメリカでもともと集まった活動だが、日本でもそのための情報を早く、分かりやすく出していく必要があるだろう。


⇒若尾:
情報センターができた時は、3次対がんのFAが国立がんセンターにあった。それで持っている情報をできるだけデータベースで出していったが、その後、厚労省にFAが戻ってしまった。それで研究の情報がなかなか手に入れられなくなった。研究に関するデータベースを作るには、それを国立がん研究センターがやるかどこがやるかは別として、司令塔のようなところがあって、日本で行われている研究を全て把握するようなところがないといけない。今は、縦割りでばらばらになっていて、全体像が見えない。


●片木:
素朴な疑問だが、NCIをつくるのは大賛成だが、NIHをつくってこの国は良くなるのか?

●本田:
さっき若尾先生のおっしゃったことは本当に重要。結局、全体像がわからないから不安や不満が出ている。繰り返しになるが、予算や評価のあり方についてがんから発信していく、そういうことが研究にあってもいいと思う。


●片木:
前々回の会議で経産省ががん研究の費用対効果のグラフを出していた。それに関して、またドラッグラグの話になってしまうが、患者として聞いていて思うのは、ああいうグラフを出すのは、今あるべき薬(適応外薬・未承認薬)もあった上で「ここの部分の開発が必要」と言うならいいが、そこがないまま出しているから私たちは「2~3ヶ月余命が伸びるくらいの薬なんてどうでもいいから死んでいけ」と言われてるのかな、ととってしまう。経産省があのグラフを出してここの開発をこの会議で議論してくれ、というならそこからやってほしい。もう一つ、タバコ対策が入っていないのも気になる。

また、国立がんセンターのあり方だが、いわゆるSNSが発達する中で、国立がんセンターの公募や取り組みも個人個人の先生、若尾先生等はやっていただいているが、先生は個人としてやっているのか。例えば国立がん研究センターとして発信しているなら、国立がん研究センターのアカウントを取って公的に発信すべき。でないとこの間も、がんサバイバーシップに関する公募があります、となったら研究班Bが目くそ鼻くそのケンカを始めてしまった。そういうことになってはいけないから、やるなら国立がん研究センターのアカウントの下、きちんとしたガバナンスを持った情報発信をしていただきたい。それは徹底してほしい。


⇒藤原:
それについては先日、広報企画室もでき、内部に向けて文書を出してセンターとしての発言と、個人としての発言は分けましょう、それを把握しましょうという風に変わっている。

今日は皆様からお話を伺って、きちんとまとめて6月11日の会議に持っていく。今回は話を聞けてとても有益だった。今後とも宜しくお願いしたい。


⇒堀田:十分すぎるくらいご意見伺った。あとは覚悟が足りない。この話はH26年どの概算要求に出していくので悠長にはやっていられない。


以上、部分部分大まかではありますが、一通り議論をアップしてみました。
この議論が、次の有識者会議でどのように、どの程度反映されるのか、注目してみたいと思います。

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