「自分は健康」と思っている人を、楽しく医療につなげるには? |
|
投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2017年04月25日 10:00 |
ブログのタイトルは私が日々考えていることなのだが、これに関連して先日、個人的に興味を持っているNPOらが主催する健康イベントに出かけてきた。
市民の健康づくりのために各種イベントや講座などを行う認定NPO法人「健康ラボステーション」が、市民を対象にコレステロールや骨密度、血管年齢など9種類の測定を行い、管理栄養士や薬剤師が測定した数値を元に健康指導を行うというもの。毎月第三水曜日にグランフロント大阪で開かれている。
大阪市立大学健康科学イノベーションセンターと一般社団法人日本姿勢と歩き方協会も一緒に主催していて、同時に疲労度測定やウォーキング教室なども開かれている。
何が面白いかというと、この「健康ラボステーション」は、調剤薬局チェーンの企業が立ち上げ時から協力し、測定したデータを基に薬剤師や管理栄養士が健康指導を行い、必要に応じて受診勧奨するなど医療につなげているということ。「自分は健康」と思っていても、実は体はそうでもないという人をどう医療につなげるか。この活動の形も一つのモデルかもしれない。
この日は46人の一般市民が参加。オープンと同時に数人の主婦らが会場に入り、それからも途切れることなく参加者が訪れていた。
健康ラボステーションが行っている測定は上記以外に、循環系を流れる血液の状態が分かる両腕血圧血流測定、体脂肪率や内臓脂肪レベルが分かる体成分分析測定、毛細血管の流れを見られる血流測定、握力や膝下伸展力を測る筋力測定、質問に答えて必要な栄養素や健康課題が分かるHQCチェック、HbA1cの測定。
私が受けたHbA1c測定の説明書に書かれている文章が、測定会の趣旨を端的に表しているのでそのまま書く。「本測定は診察、診断を目的としたものではありません。また、特定健康診査や健康診断等でもありません。健康管理・受診勧奨を含めた予防を目的としております。測定の結果によっては専門医の診察をお勧めします」
つまり、健診のさらに前の段階として、一般市民が予防に役立つ測定を受けられる場だ。
「ここに来て、例えば骨密度や血管について気になる結果が出たりすると、話を聞いてみようという気にもなると思います。そこで話してみると、意外と皆さん特定検診のことを知らなかったりするのです。そこで特定検診というものがありますよ、人間ドックも受けてみた方がいいですよと伝えられますし、驚くほどの数値の人がいれば、骨密度であれば整形外科に、血管についてなら循環器への受診を勧めたりできます。測定を受けた方への第一段階として運動や食事の情報提供、測定値によって次の段階の人には健診の受診勧奨、さらに次の段階の人へは診察の受診干渉と考えています。一般の人にこういう活動をしている場がなかったのです」と話すのは健康ラボステーション理事長の浦田千昌さん。
確かに健診を受けて数値が引っ掛かっていれば受診しようと思う。しかし、例えば専業主婦で夫の被扶養者になっている場合、よほど健康に関心がある場合を除いて特定健診や市町村の健診を受けない、という人も多いのではないだろうか。健康に関心があったとしても、被扶養者としての手続きが面倒だったり、市町村からの案内を忘れてしまったり、という人はいるだろう。男性でも、自営だったり退職していたりしたら、健診を忘れてしまう、面倒で関心がいかない、ということはあるのではなかろうか。
保険者の努力ではなかなか拾えない一般市民への受診勧奨、健康管理、予防活動がこの測定会ということだろう。
ただ私が考えるだけでも、対象が膨大で、手間はかかるのにお金にはならず、といった感じでなかなか大変ではないだろうかと思ってしまう。
しかしこの健康ラボステーションは、社員の健康増進を課題とする企業の健保らや、健康をテーマにした商品開発を行う企業などと上手にコラボレーションし、経産省のモデル事業を委託したりしながら活動の幅をどんどんと広げている(長くなるので詳細は割愛)。医療費増大に悩みを抱える健保や国、顧客を広げてニーズを拾いたい企業、健康に関心はあるけど何からやっていいのか分からない市民を上手につなげ、測定会や街歩き、アロマ教室、市民マラソン大会など様々なイベントをほぼ毎週行っている。
健康に興味のない一般市民をそもそもどうやって測定会に呼び込むのか? と思うが、測定会の会場が大阪の阪急梅田駅の紀伊国屋書店前、兵庫県西宮市の西宮ガーデンズだった時には、場所の良さもあって延べ3262人が参加したという。一日に400人ほどが並んだこともあったそうだ。通りがかりに「ちょっと気になるわ」と思った人が参加し、そこから定期的な測定会への参加につながった人も多いそう。グランフロント大阪での毎月の測定会への新規参加者は、ほぼ口コミつながりだそうだ。
「セルフメディケーションをサポートしたいと考えています。調剤薬局に処方箋を持ってくる人は、すでに病気の人。そのもっと手前で『ここに行ったら楽しいよ』というところで医療につなぐことができたら。面白いこと、気になることをやっていて楽しそうだから行ってみようという敷居の低い場所として、興味を持ってもらえたら」と浦田さんは話す。
普段は調剤薬局で患者と接することが仕事の薬剤師が、ここでは測定をしたり、結果を基にしたアドバイスをしたりしている。薬剤師歴約20年の髙木祐美子さんはこの日、コレステロールやHbA1cの測定を行っていた。「最初の頃は病院に行っていないのにコレステロールやHbA1cの数値が高い人がいて驚きました。特にこれらの場合、自覚症状のない人もいますので、そういう方に行った方がいいですよと促すことができます。病院の敷居が高く、行くのが面倒だという人もいるので、こういうところで勧めていけたらと思います」と、薬局ではできない市民との関わりを見出している。
参加者にも話を聞いてみた。友人に誘われこの日初めて測定会に参加したという兵庫県西宮市の田中照代さん(58)。テレビを見て興味を持ったということで血管年齢測定、ほかに疲労度と体成分分析の測定を受けた。「思ったより老化が進んでいて愕然としました。自分の思っている感じと数値にギャップがあって、受けてみるもんだと思いました。コレステロールも高くて、自分では気にしていなかったけど数値は残酷ですね」。運動をなるべくするようにし、おやつを控えるようにとの指導を受けたため、まずは「おやつから減らそうと思う」。測定会については「こういう場所があることを知らなかった。個別にアドバイスを受けられてよかったので、もっとこういう会があることを広く知ってもらって、みんな受けられたらいいと思う」と話した。
また、個人的に面白かったのが、来場者の顔ぶれだ。一般市民はもちろんだが、東京で志を同じく市民の健康や予防の活動に力を入れている調剤薬局が来ていたり、通販の顧客に健康ラボステーションの活動をサービスとして考えているという製薬企業が見学に来たり、色々な人が入り混じっていた。「健康」というテーマにビジネスチャンスを見出そうとしている人、測定データを研究活動に使いたいという研究者など、ここの活動が様々な思いのある人たちが関われる「場」になっているようで、測定会の枠にとどまらない可能性があるような気もした。
余談だが、私の受けたHbA1c測定は異常なしで、よかった。そんなに痛くなかったが、自己採血のための針を刺す瞬間は、勇気が要った。普段の看護師による採血の方が「いつでも好きにやってください」と思っているうちに終わるので、気分的にはそちらの方が楽かなと思ったりした。
つづきはこちら。