データ見て口の介護予防を~大阪・都島の歯科で患者向け講座 |
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投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2017年05月25日 10:00 |
ロハス・メディカルで歯についての特集が組まれているが、私も自分が介護施設で働いていたころに歯の重要性を痛感していたので、個人的にもとても興味のある分野。
認知症患者が入れ歯を合ったものに作り変えただけでADLもQOLも改善されたことがあった。介護度が下がるケースもあると聞く。ほかの施設では、糖尿病の方が歯周病のケアをすることで病気の進行が落ち着いたり、口から食べる機能が向上して食べ物の種類が増えたことで、一気にシャキシャキと動き出した方もおられたそうだ。
色々調べると、がん患者は抗がん剤の副作用で口腔内にカビが発生することがあるため、静岡がんセンターは県の歯科医師会と連携して口腔ケアに力を入れていた。手術前後の口腔内ケアに歯科衛生士が関わっている病院もあった。
個人的に驚いたのは歯周病の怖さで、脳血管、心臓、胃、皮膚等の疾患、関節炎、腎炎、骨粗しょう症などに影響すると聞いた時は「口の中のことなのに、そんなに体内に影響するの?」と思ったものだ。おまけに妊娠中には歯周病が早産にも影響すると聞いたので、歯科健診に行き口腔ケアを頑張った(私のいた吹田市は妊婦の歯科検診を無料で受けられた)。
ちょっと興味が湧くと、歯や口腔内のことは全身と分けて考えることなどできず、口腔ケアが全身機能の維持向上に重要ということがよく分かる。欧米では口腔ケアは常識で、特に政治家や実業家などは手入れを欠かさないと聞いたが、日本でその意識は乏しいと言われて久しい。
医科歯科連携、歯科による摂食嚥下訓練などもいわれるようにはなってきたが、現場はそう簡単な話ではないだろうし、複雑な業界事情、診療報酬問題のほか、目の前の仕事に忙しくて連携まで手が回らないという実情もあるのだろう。
しかし、ちょっと口の中を手入れしたり、口の周りの筋肉を鍛えるなどして口の機能を高めることで、より長く自分の歯で好きなものを食べることができ、会話も楽しめるというなら、ぜひやってみたいと私は思う。
そんなことを考えていた矢先に、大阪・都島のあいはら歯科・矯正歯科で患者向けの「お口の介護予防教室」が開かれると聞いた。歯科衛生士が中心になって行われている講座だそうで、なかなか情報の伝わらない口腔ケアや口の機能の維持向上、どんな風に話されているのだろうと興味が湧いて取材に行ってきた。
■6種類の検査で口の機能チェック
スタッフ「この器械に向かって30秒間、『ぱ』と続けて言ってくださいね、はいどうぞ」
患者さん「ぱぱぱぱぱぱぱ…」
クリニック内の一室で開かれた講座に、患者4人が参加した。相原克偉院長に講座を始めたきっかけを聞くと、「歯の治療中に水が出るのですが、その水でむせる患者さんがおられて、多くは高齢者の方です。そういう方々に声をおかけしました」。
机の上には様々な種類の器械が並ぶ。この日は6つの機能が測られた。
①口腔内水分量検査…器械を舌に当てて水分量を測り、口腔内の乾燥状態を検査
②全身の筋力測定のための握力検査
③咀嚼力測定…ガムを嚙んだ際の色の変化で義歯不適応等の口腔異常がないか検査
④RSSTテスト…30秒間に何回空嚥下(ゴックンと唾を飲み込む)できたかを見て、嚥下力を検査
⑤口唇閉鎖圧測定…唇で器械を挟み、口唇圧を検査
「ぱたか」テスト…30秒間「ぱ」を続けて言い、発生回数から口唇圧を検査
⑥舌圧測定…上顎と下の間に器械を挟み、舌圧を検査
「ぱたか」テスト…「た」と「か」を続けて言い、発生回数から舌圧を検査
(当日の配布資料より)
歯科衛生士、歯科助手らが次々と患者のもとを回り、検査をする。
こんなに色々検査機器があるのだなと思った。
相原院長は「口の機能のチェック項目はありますが、飲み込む力の客観的評価というのは難しく、患者さん本人は分かりづらいです。口の機能や筋力向上のための体操もありますが、患者さんが効果を実感するのも難しい。自分が今どのくらいの機能があって、どれぐらい向上したかということは、数字を見て初めて実感できると思うので、検査機器を探し回りました。検査して数字を見て、そして口の体操や家でできることをお伝えして、次に測ってみて数字がよくなっていたら楽しいし、モチベーションも湧くと思います」と話す。
確かに、ちょっと飲み込みづらいけどとりあえず食べれているから、まあいいかとやり過ごしてしまっている人もいるかもしれない。数字を出すことで患者に現状を認識してもらい、改善のためのモチベーションにしてもらうというのはなるほどと思った。
各検査の数値は個人に配布されたチェック表に記入されていく。表には70歳の平均の数値が示され、自分が平均と比べてどのぐらいの位置にいるかが分かるようになっていた。
歯科衛生士の植田智美さんが検査内容を基に、口の機能について講義した。
「口の周りの筋肉が弱くなり、緩んできて閉められなくなると、食べ物をこぼすだけでなくて飲み込みも悪くなります。口から食べ物が出てきてしまう人は『ぱ』と言う練習をしてください。喉頭蓋の締まりが悪くなると飲み込みが悪くなるので、『か』と言う練習をしてください」
口周りや舌の筋力が落ちることで飲み込む力が落ちたり、言葉が出づらくなったりして、それを気にして外出や人づきあいが嫌になってしまい、日々の生活に活気がなくなると説明された。
植田さんのレクチャーで、個人的に興味深かった部分をピックアップ
●口の中で舌を普通の状態にすると、どこにつく?
口の中で舌を普通の状態にして、舌がどこについているかをチェック。通常は上顎のところにつくが舌の付け根の筋肉が弱っていると、下の歯につく。そうすると舌が落ちて顎の形がなくなっていく。
●効率の良い口輪筋の鍛え方
口の中に水をためて頬を膨らましたりへこませたりする『ブクブグうがい』の時に、普段の倍量の水を入れて10秒間のうがいを2、3回する。ほっぺたが疲れ、筋肉がストレッチされて口を閉める力がつく。
●お茶でご飯を流し込まない方がいい
ご飯を食べるときにお茶で流し込むと、唾液を出さなくても飲み込めてしまうし、消化に悪い。ご飯をよく噛んで唾液を出すことを大事にしてほしい。
●口の体操は鏡を見ると効果的
自分でやると動かしやすいところだけやってしまうので、鏡を見てチェックし、動かしづらいと思うところを動かす。
●全身の筋肉はつながっている
口を鍛えるのも大事だが、日常生活の中で姿勢をよくして座ったり、ちょっと苦手な動きをしてみたりして、全身の筋肉を使うことが大事。筋肉はつながっているので、他の筋肉を使うことで口の機能向上にもつながる。
終了後、参加者に感想を尋ねてみた。
診療に来た時に歯科衛生士から講座を勧められたという黒坂博子さん(73、都島区在住)は、講座の中で「ブクブクうがい」を知らず、今までできていなかったことが分かった。今までの歯磨きでは、口に入れた水を出すだけだったという。「『ブクブクうがい』ができないということが分かったので、家でやってみたいと思います。今日のアドバイスであったように鏡を見て口をふくらませてみようと思います」と話した。
終了後、植田さん(写真)に話を聞くと「日本人は『デンタルIQ』が諸外国に比べて低いと言われています。歯がなくてもそれなりに話せればよしとしたり、困ったら入れ歯が当たり前という感覚だと思います。これからは、まだ元気で動きやすい50代ぐらいの方にもっと話をして、自分の口や口の中のこと、歯周病についてもまだ知られていないので、もっと知ってもらいたいと思っています」。
また植田さんは、「こういう検査機器であれば歯科助手でも扱えるので、歯科助手がもっとこういう講座に関わって活躍してもらえるとやりがいも出ていいのでは」と話した。口の介護予防に歯科が取り組み始めると、これまでと違った場でのスタッフの活躍の可能性もあるのかもしれない。
大事なのになおざりにされがちな歯や口のこと、こんな患者向け講座をやってくれる歯科がもっと増えたらと思った。
ちなみに私も一緒に測定して頂き、テスト結果は70歳代の平均とほぼ変わらなかった。とういことは、年齢にしてはちょっと衰えがちかも…。この日から水を倍の量にしてぶくぶくうがいを始めたので、引き続きやっていこうと思う。
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