臨床研修検討会1
「医療崩壊に対しては6月に医師養成数増員へ踏み切ったのは大転換だと思う。ただし、そうして増やした医師が現場に出てくるのは10年後、15年後であり、大熊委員や福井委員の発言を聞いていて不本意なのは、臨床研修制度が地域の医師不足に関係ないという、なぜそんな意見が出てくるのか。医師養成数が削減されたとは言っても、絶対人数では医師総数は少しずつ増えてきている。それなのに、ここ数年で急に医師不足になったのはなぜなのか。この間、制度で変更されたのは、臨床研修しかない。現在、年間7500~8000人の医師が毎年新しく誕生している。一方で三師調査によれば日本の医師数は約26万人だが65歳以下に限ると22万人しかいない。研修医は研修に専念することになっているから、マンパワーにならない。そうすると2年間で1万5~6千人の医師が消えたのと同じことになる。これは22万人から見ると7%だ。10人に1人いなくなったのだから地域医療が崩壊するのは当然。そして、それがまた地域偏在を生んでいる現状もある。人口50万人以上の都市がある都府県とそれ以外の県で比較すると研修医の戻り方に大きな差があり、小さな方では30%しか戻ってない。臨床研修制度が地域医療の崩壊を招いたことをハッキリ認識すべきだ。地方では病院が潰れるかどうかの瀬戸際まで来ている。このままだと数か月から1年の間にバタバタ潰れる。そのことをご認識いただきたい」
西澤
「私のように北海道にいると、少し様相が違って見える。臨床研修は確かに関連があるだろうが大きな要因ではないと思う。というのも、臨床研修が始まる前から産科などでは集約化が始まっていて、既に地域からは医師がいなくなっていた。しかし、それは国民の医療に対する意識が少ない人数でやることを不安に思うようになったことに対応したのであって、臨床研修の前から始まっていた。むしろ大学で専門教育を受けても、地域の内科医として十分な幅を身に付けていないので、そうした医師が地方に行きたがらないことが地域の医師不足を招いていた。臨床研修制度では、そういう反省に立って幅広い見識を身につけようとしていたわけで、制度がなかったら今以上に大変な崩壊になっていたかもしれないと思っている」
齋藤
「この検討会は質のよい医師を育てるということが一番大事だろう。医師の偏在とは別個の問題。根っこでつながっているのかもしれないが、問題が二つあることは認識する必要がある。研修だけ見ると、そこに問題があるように思えてしまうけれど、医師教育の一環なのでボトムだけ直そうとしても直せない。ただし、医師教育全体をきちんと直すのは中長期的な話になって、すぐには是正できない。少なくとも当面の問題は、来年から始まるモデル事業でかなり解消されるはず。学生の数と研修定員とを近づけることで問題のかなりが解決する。そう言うと研修医の職業選択の自由はどうなんだという議論になるが、大学だって定員があり、一般の会社だって定員がある。全員が東京で働けるわけではない。それから研修医の処遇に上限を決めることも必要でないか。下限は決まっているけれど上も決める。全国平均の1.5倍を超えたら補助金を出さないとか。そうすれば本質的なプログラムの中身での競争になる。ただし各県の定数を決める際には相当の蛮勇を振るわねばならない」
吉村
「どういう医師を育てるのか、幅広い知識というのは正しいと思うのだが、ただプライマリーケアを2年でできるようにはならない。4、5年はかかる。あくまでも研修は医師教育のプロセスだから、全体で一貫性がないといけない。従来の大学が悪いという話だったが、大学は全科の医師を育てている。だから大学がコントロールしながら地域の基幹病院と連携してプログラムを作っていくという方向性が望ましいのでないか。従来からの機能を生かしつつできると思う」
能瀬(?)
「プライマリーや救急も診療科なら専門科も診療科。その養成の仕方には差がある。少なくとも専門科については大学で教育してから出していたのが、今はすぐに出しちゃうからややこしくなる。受診する方も、内科と小児科を標榜している医師に向かって『先生は小児科医ですか』と尋ねるようになっている。情報が行きわたって意識が変わっている。それが制度疲労と合わさっている。地域へ行く医師というのは、むしろレベルの高い医師でないといけない。ところが40代のそういう医師が自分たちの生活のことを考えると地域へ行けない、そこが問題だ。養成する側と厚労省とで一緒になって考えないといけない。そもそも地域医療の医師は大学では育てられない」
高久
「私は育ててきたつもりだが」
小川(秀)
「高久座長が発言しづらいことになってしまったので助力したい。先日までの検討会で既に論点はまとまっている。それを新しく加わった委員たちに提示したい。文部科学省と厚生労働省が一堂に会して会議を開く目的は、何より国民社会の理解を得るため。その方法としては、客観性のある国際比較のデータを示して、後は国民がいかに判断するかに任せるということになるだろう。で、そのデータとは(1)対人口あたり医師数はOECD30ヵ国中27位(2)医学部定員を増やすと医学部だけで予算取っちゃうんじゃないかという話になるのは、そもそも高等教育費の対GDP比が30ヵ国中29位だから。そして高等教育だけ増やしても全体の枠が変わらなければ、初等教育費を食ってしまう(3)医療費は22位でG8では最下位。こういう客観的データに基づいて医師不足であると言える。福井委員は専門科別のデータと言われたけれど、既に厚労省が集計しているので、それを事務局は出してほしい。地域的偏在に関して言うと、臨床研修制度が始まってから、主要都市の研修医はむしろ減っている。この国を世界に伍してやっていこうと思うなら、集中が必要なところもあるだろう。事務局はぜひデータを準備してほしい。それから高久先生の所は大変よい仕事をされていたことは私からも申し上げておきたい」
高久
「私も一言。福井委員の仰るとおり、臨床研修評価機構というのの理事長もしているが、アンケートしてみると、明らかに研修指定病院の方が大学病院より満足度が高い。大学では研修がone of themになっている。しかし病院では1対1でon the job。それから齋藤委員ご指摘の高い給与は北海道に有名なところがあるが、しかしあんなのは例外だろう。むしろ中小病院が外来も救急もやらなくなっているために、どんどん患者が大学に集中して、大学がますます忙しくなっているという現状がある。実はこの問題は、日本の医療全体に関わる問題なのだろう。では最後に大臣、一言」
舛添
「辻本さん、矢崎先生、武藤先生、今日は発言されなかったが、次回あらためて、あるいはメモを事務局にお出しいただいても結構なので何かあればお願いしたい。様々なご意見を伺った。医療体制を再構築するには、医師の養成のところから始めなければならないと思っているので、ぜひとも皆さんには腰を据えてご議論いただきたい。冒頭に申し上げたように、私自身はいつまで大臣でいるか分からないけれど、このように大事な国民的課題は誰が大臣であっても続けないといけない。一国会議員として次の人にきちんとバトンタッチするつもりだし、このような課題は政治が真っ正面から取り組まないといけないので、そのように取り組む人であれば国会議員として支援したい。あと3週間で終わるような会議ではないので、腰を落ち着けて議論いただきたい」
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