DPCは"アリ地獄"―退出ルールの大枠固まる
「いったんDPCに参画したら未来永劫、抜けることはできない"アリ地獄"のようにしてしまうのもいかがなものか」―。「調整係数の廃止」という大きな梯子(はしご)外しを前に、DPC(入院費の包括払い)から出来高払いに戻れる仕組み(退出ルール)の大枠が中医協の分科会で固まった。(新井裕充)
2010年度の診療報酬改定に向けて、DPCの今後の在り方について検討している中央社会保険医療協議会(中医協)の調査専門組織「DPC評価分科会」(会長=西岡清・横浜市立みなと赤十字病院長)は4月27日、DPC対象病院からの退出ルールなどについて議論し、厚生労働省が示した「たたき台案」を大筋で了承した。
「たたき台案」によると、退出を希望する病院は診療報酬改定の前年の9月末までに、退出の意向を厚労省に届け出る。次の改定の全貌が明らかになる前に届け出る必要があるため、"バクチ的"な要素を多分に含んでいる。
また、退出した後もDPCデータの提出が求められるため、事務的な負担は継続する。改定のない年の退出は、緊急やむを得ない場合を除いて認めない方針。まさに、一度入ったら抜けられない"アリ地獄"ともいえる。
山口俊晴委員(癌研究会有明病院消化器外科部長)は「調整係数を外すなど、この先、DPCの制度がドラスティックにマイナスの方に行くと、辞める病院が出てきて当然だ。『辞められない』ということになると、絞られるだけ絞られて大変なことになる。そのときは『みんなが抵抗して辞めるぞ』という道は残しておいた方がフェアじゃないか」と述べ、柔軟な対応を求めた。
齊藤壽一委員(社会保険中央総合病院名誉院長)は「いったんDPCに参画したら、何が起ころうと、未来永劫(えいごう)抜けることはできないんだという"アリ地獄"のような格好にしてしまうのもいかがなものか」と述べ、自主的な退出を認めること自体には賛成したものの、日本医師会が主張するような「自由な退出」には反対した。
「例えば、今までは急性期の患者さんがたくさん来ていたが、その周りに大きな急性期の病院がたくさんできて、自分の病院の役割が慢性期の高齢者をじっくり診るように変わってきているとか、そういうことが顕著であれば、然るべき猶予期間と、みんなが納得するような理由が示されれば、自主退出という仕組みを考えるのも知恵ではないか」
DPCの退出ルールをめぐっては、DPCの拡大に反対する日医の強い意向を受け、具体的なルールづくりを進めることが同分科会の"親会"である中医協・診療報酬基本問題小委員会で既に承認されている。
DPCを導入している病院について前年度の収入を保証する「調整係数」が2010年度から段階的に廃止されることに伴い、大幅な収益悪化に追い込まれる病院が出ることが懸念されている。
同日の分科会で厚労省は、DPCへの参加と退出に関する「たたき台案」として、▽参加のルール(DPC対象病院の基準)▽退出のルール▽参加及び自主的退出の時期▽再参加―の4項目を示した。このうち、「参加のルール」「再参加」については特に大きな議論はなく、委員の関心は「退出のルール」と「自主的退出の時期」に集まった。