看護職の養成、「コロコロ変えると弊害」
「また3年後、5年後に変わると教育に非常に弊害をもたらす」―。新人看護師の卒後研修制度の創設と、それに対応した卒前教育の見直しの議論が文部科学・厚生労働両省の検討会で急ピッチで進められている。看護系大学の教育カリキュラムの見直しを議論している文科省の検討会で、松尾清一委員(名古屋大医学部附属病院長)は医師の臨床研修制度を引き合いに、「最終的なグランドデザインをまずつくっていただきたい」と求めた。(新井裕充)
文部科学省は5月11日、「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会」(座長=中山洋子・福島県立医科大看護学部長)の第3回会合を開催した。
ヒアリングで南裕子・近大姫路大学長(国際看護師協会長)は、"教育と実践のギャップ"を埋めるため、大学卒業後の臨床研修制度の重要性などを訴えた。また、それに伴って卒前の基礎教育を見直す必要性があるとした。
南氏の意見を受け、今後の看護教育の在り方について意見交換する中で、松尾委員は次のように述べた。
「私は2つのことを申し上げたい。1つは、こういう議論をしていくときに、なかなか着地点が定まらなくて苦労をしているという話も聞くのですが、今、日本で看護師さんが足りないとか現実的な問題がありますよね。
その問題と、看護師あるいは看護学の教育の問題とごっちゃにすると問題が多い。医師臨床研修を考えてみますと、平成16年に医師の臨床能力を上げるということで新しい臨床研修制度ができたんですが、その後、医師不足が起こって地域医療が崩壊する過程で、その犯人の1つとして『臨床研修制度が変わったからだ』ということで、それを変更する議論が今起こっている。
そこの過程で、最初に決めたことの評価が全くされていない。医師の質が臨床研修制度が変わったことによって、どれぐらい変わったのかということが全然評価もされないで変えていかれる。そういうことがあるので、私は今回の議論で一番大事なことは、現実にはいろいろ、さまざまな問題があるのですが、最終的なグランドデザインというんですかね、そこが一体どこなのかということを、たぶん、すぐそこには到達できないんですけども、グランドデザインをまずつくっていただきたい。
私は南先生のお話を聞いて、かなりですね、これ、医師に置き換えても同じようなことがすごくあるなということを感じたのですが、やっぱりグランドデザインをしっかり描く。そこで一致できることとできないことは何なのか、理想的なところを考えたら。そこの一致点をはっきりさせて議論をしていくことが今、すごく重要だと思うんですね。
というのは、将来的にですね、今、決めてですよ、またこれが3年後、5年後に変わるということでは、教育に非常に弊害をもたらす。コロコロ変えるというのは。まず、着地点という、目指すところは何なのかというところをしっかり考えるということが重要だと思います。
2つ目はですね、ずっとこれまでの議論を聞いていると、今の看護系の大学の問題点が非常に詰め込みで時間が足りないと。そこに保健師あるいは助産師(の教育)が半年ずつ入ってきて非常に過重になってしまっているという意見。これは、ほとんどの(委員の)皆さんが言っていることかなと思うのですが。
であれば、そこをですね、すべての人が保健師、助産師になる訳ではないので、新たなコースを設けるというのは私はリーズナブルだと思うんですが、もしそうしたときに、一体、具体的な問題は何なのかということがまだちょっとよく分からないんですね。それに対して反対する理由がですね。その辺もお聞かせいただけたらと思います」
松尾委員の要望に、中山座長は次のように応じた。
「これまで大学がずっとやってきた統合化された(カリキュラム)、2つの免許、3つの免許を入れたカリキュラムというものが、問題点だけではなくて、良かった点も含めて整理する。松尾委員が言われた『グランドデザイン』をもうちょっと考えて、どういう方向に行くのかということを考えて、その中で議論を進めていくべきではないかということが出てきたのではないか。次回は、できるだけグランドデザインに基づくような形で議論が深まるようにしたいと思う」