命の薬 お金次第
――高額な治療費がかかる疾病は、CMLに限らないようにも思ってしまいますが...。
たしかにそうですね。もちろん、いかなる病気も安心して治療できる医療の実現を願っています。ただ、長期の治療が必要な病気の多くには、既に様々な制度によって救済措置がとられています。例えば、難病として医療費が基本的にかからないものとして、再生不良性貧血、パーキンソン病、悪性関節リウマチ、強皮症など、45疾患が指定されています。また、障害認定制度で援助されるケースもあります。一方、CMLはこうした救済の制度からいわば欠落してしまっているのです。
また、もし私たちの活動を結果につなげることができたとしたら、今後の新薬開発により私たちと同じように「特効薬ができたが、一生服用を続けねばならず、一生支払いが続く」といった状況に立たされるかもしれない多くの他の疾患の患者さんたちにとっても、これは朗報になるだろうと思っています。
――署名活動をされているということでしたね。
4月から始めて現在までに6,000筆を超える方々にご署名いただいています。6月末までを目処に、最終的には7月上旬にも舛添厚労大臣に提出したいと考えていますので、それまで続ける予定でいます。最終的には1万筆を目指したいところです。
方法としては、署名用紙を「CMLの会」の母組織でもある血液疾患患者の会「フェニックスクラブ」や、全国骨髄バンク推進連絡協議会に送らせていただき、患者さんをはじめとする有志が各自コピーを作って署名を呼びかけてきました。また、有志の方々がいくつかウェブ上でも署名を展開してくださっているようです。実は完全なる有志なので、私もその方たちのハンドルネームしか知らなかったりするんですよ。そのように自発的な動きに背中を押していただいている感じです。
――ところで、なぜ"今"、署名活動なのでしょうか。
グリベックが日本で承認され、販売が開始されたのは、今から約7年前。インターフェロンはさらにさかのぼります。それがなぜ今になって署名活動なのか、不思議に思われる方も多いかもしれません。まずは先述のとおり、昨今の経済不況があります。そしてさらに、服用することで皆さんが長期間にわたって生存可能となってきたことが大きいです。私が発症した頃などは、とにかくたいていの患者さんがすぐに亡くなってしまっていたので、治療費が高くても先のことまで考える必要がなかったんですね。グリベッグにより長く生きられることが実証されてきて、治療が必ずしも「短期決戦」ではなくなった今だからこそ、先々の経済負担を悲観する声が強まっているんです。
また先日、議員や医師の方々と情報交換をさせていただいたのですが、その際、「人工透析の25万人・1兆円超の国家負担からみれば、全国でおそらく8,000人程度のグリベック常用患者に対する数億円の負担は、無理な額ではないだろう」「韓国では無料化されている」等のお話を伺うことができました。これに勇気づけられたということもあります。
実は私たちは当初、署名活動を躊躇していました。というのも、CMLの患者さん全員にそのようなプレッシャーを与えることはどうか、という考えがあったからです。そもそもCML患者であることを公にしていない方も意外と多くいるんです。一番は仕事上の理由。薬を飲めば健康な人と同じように仕事ができるのに、会社として配慮をしたつもりなのかもしれませんが、結果として「コースから外れる」「出世にひびく」という心配があるようです。今ではあまりありませんが、かつては「子どもの結婚に差し支える」と気にされる方も少なからずいました。残念ながらそういった偏見というか、間違った知識は、まだ完全になくなったわけではないのですね。
しかし今回は事態の切実さを考え、そうした諸々の事情もさることながら、一線を越える決断を下したというわけです。そんないきさつもあって、私たちは「CMLの会」会員にも署名集めのノルマはおろか、強制は全くしていないんですよ。それでもお陰様で皆様にご協力いただいて署名が全国から集まってきています。