「救える命」か「予算確保」か―0.14%の子どもの命、どう考える
■学校現場でエピペンを使うのは教師か、救急救命士か
文部科学省から出ている「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」によると、エピペンを自分で使えない児童がアナフィラキシーを発症した場合に、居合わせた教職員がエピペンを使用することは医師法には反しないとの見解を示している。このため、ガイドラインでは、アレルギー疾患を持つ子どもが安心して学校生活を送れるように、教職員の理解や協力を求めている。
ただ、今回の通知によって、学校で児童がアナフィラキシーを発症した時、救急救命士の到着を待つのか学校教諭が行うのかなど、現場の考え方が混乱しているという。
海老澤委員は、本来は教職員が実施できるのが良いとしたが、アナフィラキシーの症状を把握するには専門的な知識や経験も必要として、「優先順位としては救急救命士がやっていただくというほうがいいのでは」と述べた。
永井氏は、「学校の先生の責務としてエピペン使用などについて学ぶべき。バイスタンダーなのだから、『119を呼んでいるからいいよ』というのは有り得ない。救急救命士を呼んでいるから任せようというのは、どうなのだろうか」と述べた。
郡委員は、アナフィラキシーは早期に対応すれば患者を救えると主張。「年間に60人が亡くなっている。アナフィラキシーは極めて発症が早く、あっという間に悪くなり、致死的な状態になる。それが『エピペン一本んで劇的によくなるのだから早く打ちましょう』ということ。だから時間の概念が大事。本当に持っているかという確認をしていたら、エピペンの使用意義がおろそかにされてしまって、大事なものを見失うような気がする」と述べた。その上で、教職員にも教育が必要との見方を示した。
これに対して大友委員は教職員がエピペンの使用法を練習すると"反復行為"に当たるとして、「(医)『業』としてやっていいということか」と尋ね、郡委員は、「『業』としてやっていてもかまわないと思う。このことに限らず、国の腰の引けたやり方がうまくいかないということだと思う」と返した。
海老澤委員は、このガイドラインの作成について、厚生労働省や文部科学省が協議して「『緊急避難』という扱いでその場は解決した」と説明。郡委員は、「『こういう理解』ということで、何もかもこの国は進んでいる。責任を持ってやらないといけないという時期に来ている。本当にそれでいいのかといことをここで明確にしたい」と主張した。
海老澤委員は、ガイドラインを学校に広めていく際にも、「医療行為」となると学校側は腰が引けて、普及が進みにくいとの認識を示した。「全国的に広めようとしているが、これが抵抗があり、できていない現状がある。回避したいという意識が学校関係者には強い。学校現場で発生するのはかなりの確率であるが、なかなか受け入れられにくい」と述べた。郡委員も「BLS(Basic Life Support、一般の人が行える心肺蘇生法)すら教えるのが大変だ」と述べた。
教職員と救急救命士の間の責任の所在に関して、119番通報時に受信した消防機関側はエピペン実施の「指示」はできないが、「助言」の範囲で教職員に実施を促すことは可能ではという意見も複数上がった。阪井裕一委員(国立成育医療センター病院総合診療部長)は「救急隊も現場に駆けつけますから、やっておいて下さいという方向ならいいのではないか。そういう心がないから現場はおかしくなる」と述べた。